第108回:駆けぬける節約
2018.10.23 カーマニア人間国宝への道事故車上等!
スーパーカーブーム世代のカーマニア、クリさん(『フェラーリ360モデナ』オーナー)が購入を検討中の、修復歴アリ「BMW 320d」。
3年落ち走行2.7万kmで、車両本体価格179万円というのは、猛烈に安い。修復歴ナシだと、相場は300万円弱くらい。それより確実に100万円は安いのだ。さすが激安店の事故車。
中古車の魅力は、なんといっても安さにある。安さは正義。正義はパワー。正義のパワーは修復歴に勝る! うおおおお!
が、かく言う私も、まだ事故車を買ったことはない。これまで中古車を30台以上買ったのに、事故車は微妙に避けてきた。
心持ちとしては「事故車上等!」と思ってきたが、私の場合、買い替えサイクルが早いので、下取りに不利な材料はプラマイゼロになりそうという事情もあった。
なので、クリさんが事故車の購入を検討中と聞いて、つい応援してしまいました。乗りつぶすつもりなら、一点の曇りもなく事故車上等! なのだから。
応援のかいあって、クリさんは男らしく購入を決意。ついに納車の日がやってきた。
クリさん「おはようございます! これから、激安訳アリ320dの引き取りに向かいます。まずは、運転してすぐわかるほどの不具合がないことを祈るばかりです。ドキドキ」
人生初事故車は、やはりドキドキするようだ。初めてフェラーリを買うようなものですね。
初めての“駆けぬける歓び”
クリさんによると、お店の対応は、まったく問題なかったという。
クリさん「あのお店(『ほにゃら』仮名)ですが、メールのやり取りや手続き等スピーディーで、ストレスは感じませんでした。案外良いお店なのかもしれません。あくまでも現時点まではですが……」
数時間後。
クリさん「クルマ、引き取ってまいりました! 高速に乗ってみましたが、楽チン&速い&静かです! 早くもBMWの世界にやられてます! タイヤは1分山だったので、ネットで18インチ+グッドイヤーのランフラット付きの8分山を購入し、取り付け専門店で取り付け完了! かなりシャキッとしました。「159」はたった今引き取られていきました。カッコとカーマニア度なら間違いなく159の勝ちなのですが……」
長年足グルマとしてアルファに乗り続けたクリさん。まだアルファへの恋慕が消えないようだ。
しかし私の経験だと、BMWに乗ったらすぐ消えます! もー手のかかる女はフェラーリだけで十分、ふだんの足は才たけた良妻賢母がイイ! って。まさにカーマニアの堕落で申し訳ございません。
激安BMWの大勝利!
約1カ月後。再びクリさんからリポートが届いた。
クリさん「1カ月・1390km乗ってみた印象をお送りします! さすがメジャーどころの高品質感、安心感、ACCでのハイテク体験、まさに自分がエリートになった感覚です! これが“駆けぬける歓び”かぁ!」
実は私も、買ってみるまで、BMWの本当の良さがわからなかった。「いいクルマだけど、高いし、意外と故障も多いし、オレの趣味じゃないぜ!」って感じだった。
しかし、先代「335iカブリオレ」で、初めてエリートの世界を肌で知り、現在の“駆けぬける節約”320dに至っております。
今の「BMW 3シリーズ」は、すべてのバランスが絶妙。それが3年落ちの中古車なら半額以下で買えるので、同価格帯の「N-BOX」の新車なんて、アホらしくて買ってられるか!
クリさんも同感のようであった。
クリさん「全世界で売れているのは納得です! 重厚なのに軽快なハンドリング、ディーゼルエンジンは思ったよりシャープで速い。しかも燃費がイイ! 約15km/リッターも走ってます。アルファ159は8.5km/リッター(ハイオク)だったので、燃料代は半額以下! 年間15万ぐらい安くなりそう! 毎日乗るクルマの燃費って重要ですね!」
私の場合、ロングドライブが中心なので、これまでの平均で17km/リッター走っている。燃料代はN-BOXすら下回っているだろう。
クリさん「懸案事項であるルーフ部分からの異音、雨漏りも今のところなし。修復歴アリを感じさせるような事象は、まだ起きてません。アルファ159との比較なので、良すぎてわからないのかもしれませんが、そこそこ当たりのような気がします。『ほにゃら』っていいお店なのかも! 以上です!」
激安店の事故車を激安で購入して、なにごともなくBMWのエリート感を満喫できれば、これに勝る大勝利ナシ! 私もいつかは事故車にトライせねばと、心に誓うのであった。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。