トヨタ・センチュリー(FR/CVT)
ただただ 誇らしい 2018.10.24 試乗記 日本が誇る孤高のショーファーカー、「トヨタ・センチュリー」の販売目標はわずか月販50台。よってステアリングを任される職業ドライバーの数も、極めて限られものになるであろう。そうしたレアなドライバーズシートに座って、走り……いや“運転”を、味わってみた。最後の日本製ショーファーカー
日産自動車の「プレジデント」と、三菱自動車の最上級モデル「デボネア」やその後継とされていた「ディグニティ」なき後、日本における純粋なる唯一のショーファーカーとして販売されているのが、トヨタ自動車のセンチュリーである。デビューは1967年、このモデルで3代目となる。
塗装やエンブレムのこだわりなどを含む、車両の詳細は発表時のニュースに明るいので割愛するが、ボディーサイズは、全長×全幅×全高=5335×1930×1505mmと、20年間にわたってうやうやしくも国内のVIPを運んできた、日本唯一のV12エンジン搭載車であった先代モデルよりもわずかに拡大。フルモデルチェンジされ、洗練された凹凸の極端に少ないボディーデザインをまとってはいるものの、そのスタイリングはひと目でセンチュリーと分かる(はずである)。
もちろん、ショーファーカーだけに、後席の特に左側を“上座”とする(社会人になって教わった運転手付きのクルマでは、運転手の真後ろを上席とするマナーとは違うが)キャビンの作りも伝統通り。スイッチひとつでフロントシートがスルスルと前方にスライドしながらヘッドレストがたたまれ、フットレスト機能付きのオットマンが出現するという一連のラグジュアリー装備は、このクルマの出自と使われ方を端的に物語っている。
実際のリポートにあたっては、ドライバー(もちろん職業ドライバーである)目線がいいのか、それともセンチュリーにふさわしいリアのVIPにでもなりきり、乗り心地や使い勝手を報告するのがいいのかと迷うところではあるが、そこはクルマ好きを自認するがゆえに(想像するに、やはりセンチュリーを運転する機会さえまれと思われることもあり)、主にステアリングを握って感じた印象をお届けしたいと思う。
日本流の“モダン”の解釈
曲面加工が施された本杢パネルが使用されたインテリアは、シンプルだが高級感にあふれていた。そのデザインは、例えるならば、控えめを美徳とする少しだけモダンな「帝国ホテル」の客室のようだ。同じモダンくくりでも、決して流行感度の高いゲスト御用達(と想像する)の「アンダーズ東京」のそれではない、と個人的には思う(少ない経験から言わせていただけば、サービスとホスピタリティーはどちらも超一流だったので誤解なきよう)。
外国からの旅行者が「なんで日本に来てまで西洋と同じデザインの客室に泊まらなくちゃいけないの? 私はジャパニーズな風味あふれるオリエンタルデザインの客室がいいのよ」というのなら、選ぶべきはセンチュリーのインテリアであり、ショーファーカーとしての需要も(半分程度は)カバーするはずであろうメルセデスの「マイバッハ」ではない。つまり、海外ブランドのショーファーカーとはそれぐらい“和と洋”の違いがある、ということだ。
そこかしこにトヨタの他のモデルのパーツが散見するものの、ドライバーが収まる運転席ですらこの雰囲気とクオリティーである。後席では、さらにその重厚感と質感に圧倒されるのは、ここであらためて言うまでもないだろう。
電動化されたチルト&テレスコピックステアリングと10ウェイの電動シートによって、ドラポジはすんなり決まる。アクセルペダルはオルガン式。左足を置くフットレストの位置や大きさも適切だった。サイドサポートは十分とはいえないが、シートは体にほどほどにフィット。今回の試乗はたかだか250km程度のものだったが、職業運転手が丸々一日(いや今どきであれば運転手とはいえ、働き方改革によって8時間勤務程度か)座っていても、大きな疲れは出なそうな印象だ。
いっぽう、ボディー四隅の感覚はつかみやすい。全長5.3mのボディーとはいえ、世田谷あたりの裏道走行を強いられでもしない限り、その大きさがストレスになることは少ないだろう。もちろん、絶対的な大きさは舐(な)めてかかれるものではないが。
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ベースモデルとは違った味付け
2代目が採用していた国産唯一のV12からハイブリッドに変更されたパワートレインは、最高出力381ps、最大トルク510Nmを発生する5リッターV8に、最高出力224ps、最大トルク300Nmの電動モーターを組み合わせる。バッテリーはニッケル水素。既報のように、このハイブリッドは先代「レクサスLS600h/LS600hL」の流用である。
エンジンとモーターの併用ながら、その切り替えはさすがハイブリッドを作り続けてはや20年のトヨタ。後席のVIPに不快な振動やノイズを感じさせることなく、スムーズに切り替えを行う。もちろんパワートレインはセンチュリー用にカスタマイズされており、アクセルをペタッと不用意に踏んでも、トルクの変化がスムーズなのはさすがショーファーカー。加速Gの立ち上がりはスムーズである。
同様に、ステアリング操作におけるボディーの挙動も穏やかである。スッとステアリングホイールを回して立ち上がるヨーは、その操作とほぼシンクロする。ただし、クルマはきちんとロールする。タイトなワインディングロードで右に左にステアリングを切れば、そこそこのロールを伴う。ルームミラーをのぞきながら、「後席のVIPさまの御頭(おつむり)がぐらぐらしていないか」と気にはなるが、ボディーの動きは(スーッ、スーッと)あくまでもステアリングの動きに忠実。キャビンが遅れてロールするような不調法を見せることはない。
パワートレインとホイールベースがたとえほぼ同じでも、ドライバーズカーに分類されるモデル(ロングホイールベースのレクサスLS600hLでも、ベントレーのようにオーナーカーとして購入者自らがステアリングを握ることはあるだろう)と、ほぼ100%ショーファーカーとなる(はずの)センチュリーでは、アクセルに対するトルクの出方が違っている……と(LS600hまでしか運転経験はないので自信はないが)思う。もっとも、LS600hLは四輪駆動、こちらセンチュリーは後輪駆動という違いも、印象が異なって感じる要因のひとつであろう。
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自然と背筋が伸びる
ではショーファーカーとして100点満点か? と聞かれれば、(庶民ごときが)モノ申して失礼ながら、気になる点が3つばかりある。
ひとつはフロントシートである。職業ドライバーの仕事場たるこの席が、センチュリーで最も重要とされる後席とまったく同じシート表皮を採用するという設定は解せない。標準仕様はウールファブリック“瑞響”で、本革仕様“極美革”は54万円のオプションとなるが、どちらを選ぼうとも、全シートで同じ表皮になってしまう。運転席は本革仕様でも後席でウールシートが選べるようでないと、本当の高級車とはいえない……と思うのは、ベンチレーション機能が高級車で当たり前となった今どきでは通用しない考えなのだろうか。とにかく古い人間は(私だ)、ウールファブリック(あるいはシルク)のほうが本革よりも高級だと思いたい。つまり、運転席は本革、後席ではウールファブリックをと、それぞれで選べるようにしてほしいのである。
そしてもうひとつ。舗装の荒れた路面ではフロアが振動し、キャビン内の空気を震わせる。乗り心地が悪化する……とまではいかないが、ある周波数では、キャビン内の空気の振動は、少々不愉快な感じがする。トヨタが徹底した遮音システムを採用したという通りノイズの遮断は見事であり、エアサスと専用タイヤのおかげでハーシュネスも抑えられているが、バイブレーション対策は少々改善の余地ありだと思う。
3つ目はADAS(先進運転支援システム)が、トヨタの最新バージョンではないという点だ。開発年次の問題もあり、最高級車がすなわち最新最高のシステムを搭載するというわけにはいかないだろうが、後席のVIPのためにも、そこはコンパクトカーに劣るシステム(センチュリーは歩行者検知機能が昼のみ)でも仕方なし、としてほしくはなかった(それをカバーするのがプロドライバーの注意力とスキルか)。
そんな神をも恐れぬことを(オーナーになる気もないくせに)言いつつも、運転席に収まると自然と背筋が伸び、極力滑らかな(俗にいう氷の上を走るような)運転を心がけようとするから不思議だ。
日本人はもちろんだが、(日本流のおもてなし感が満載で)外資系企業のボスにもウケそうなセンチュリーのステアリングホイールを握れるのは、きっと一握りのプロドライバーだ(なにせ月間販売目標は50台である)。したがって、唯一の日本製となるショーファーカーを預けられたドライバーが、その仕事を「誇らしい」と思わぬはずはない。少なくとも自分はセンチュリーを運転している間、どこか凛(りん)とした気分に浸れたことは間違いなかった。
(文=櫻井健一/写真=郡大二郎/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
トヨタ・センチュリー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5335×1930×1505mm
ホイールベース:3090mm
車重:2370kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:381ps(280kW)/6200rpm
エンジン最大トルク:510Nm(52.0kgm)/4000rpm
モーター最高出力:224ps(165kW)
モーター最大トルク:300Nm(30.6kgm)
システム最高出力:431ps(317kW)
タイヤ:(前)225/55R18 98H/(後)225/55R18 98H(ブリヂストン・レグノGR001)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)
価格:1960万円/テスト車=2048万5060円
オプション装備:本革仕様<極美革>+シートベンチレーション<前後左右席>(54万円) ※以下、販売店オプション カメラ一体型ドライブレコーダー(2万1060円)/フロアマット<プレステージタイプ>(32万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2491km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:247.2km
使用燃料:21.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.4km/リッター(満タン法)/12.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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