第111回:「きぬた歯科」の野望
2018.11.13 カーマニア人間国宝への道広告費は新車フェラーリ3台分
高速道路等から見える看板広告で、悪い夢でも見ているような強烈な印象をくれた「きぬた歯科」のきぬた院長。その原点は、若い頃、首都高から見た光り輝く看板群にあるという!
清水(以下 清):院長の看板は強烈なので、苦情もあるって聞きましたが。
きぬた(以下 き):苦情なんてもんじゃないですよ! そりゃあもう毎日です。一番すごかったのは、首都高1号線から見える品川区の看板ですね。横幅30m。首都高から見える看板の中では最大ですけど、そこに私の広告を出したら、近くのマンションの住民から、「ベランダからお前の顔しか見えない」「これじゃ生活できない」って。
清:ブワッハハハハハハハハハ!
き:そこは準工業地帯なので、まったく適法なんですが、大人の配慮で僕の顔は外しました。
清:きぬた院長の笑顔はナシに!
き:それでもダメだ、ピンクが嫌だと言われましたが、貼り替えるのに160万円かかるんですよ! そんなに何度も貼り替えられません!
清:意外と費用がかかるんですね。出してる枚数もメチャメチャ多いし。もう100枚くらいになってますか?
き:とんでもない! 300枚ですよ! 清水さんはフェラーリに乗ってるそうですけど、年間の看板広告費だけで、フェラーリの新車が3台買えるくらいかかってます。
清:ヒエー! 億ですね! 最近、きぬた歯科そっくりで名字と顔の違う看板も見かけますが、あれはフランチャイズ?
き:いや、全員うちから独立した歯科医です。本当はもう少しデザインを変えてほしいんですけど(笑)、ま、いいだろうと。なにしろうちは300枚出してるんで、うちには勝てませんから(爆笑)。きぬた歯科のマネをしてると捉えてもらえば、うちにもプラスなので。
顔付き看板は唯一の遊び
清:スバラシイ……。それにしても、きぬた歯科はJR西八王子駅前。品川とかに看板出して、効果あるんですか?
き:ないです(キッパリ)。神奈川や埼玉にも出してますけど、そんな遠くからはひとりも来てくれません。
清:な、ならばなぜ。
き:時系列に沿ってお話ししますと、私は仕事一筋で、今や年間3000本以上、インプラントの実績をあげています。まったく遊んでこなかったんです。仕事のサイボーグですよ。
清:サイボーグ!
き:ええ。でも、人生これでいいのかという思いもあった。そんなとき、集客目的で出した看板広告で、スイッチが入ったんです。最初は仕事のためでしたけど、反応が面白くて、私の看板を訪ね歩く旅をしてくれてる人までいる。これは楽しいと思うようになって、どこまで行けるか試してみたくなったんです。遊びを知らない人間が覚えた、初めての遊びなんです!
清:すごい遊びですね!
き:今、面白い計画を立ててます。東海道新幹線から見える野立て看板に、「727」ってあるの、知ってます?
担当:「727 COSMETICS」ですね。
き:そう。大阪の化粧品会社なんですけど、目立つでしょう。
清:あれ、化粧品だったんですか! 僕はゴルフボールの広告かな~くらいに思ってました。
き:あの看板、いくつあるのか数えさせたんですよ。西のほうは50以上あるんですけど、小田原から東は6つしかないので、取りあえずその6つの看板の真横に、僕の看板を立てちゃおうと思ってます。
清:ブワッハハハハハハハ!
打倒727!
き:ただね、新幹線はクルマより速いじゃないですか。かなや漢字じゃ数字の727に勝てない。だから、僕の顔を看板からはみ出すくらいアップにして、それで終わりです。
清:文字はナシ!?
き:ナシです。これはみんな見るでしょう。たぶん727はビビるでしょうね。
清:ビビリますよ! きぬた院長の大勝利です!
き:いずれは京都まで攻め上がろうと思ってます。西日本では、「あの顔はなんだ!?」ってなりますよね。そのとき、私を知ってる人が「あれはJR西八王子駅前のきぬた歯科だよ」って教えてあげれば、盛り上がるじゃないですか(大爆笑)。
清:知ってる人はヒーローになれますね! それにしても京都にまで、JR西八王子駅前のきぬた歯科。分院して全国展開するとかはないんですか?
き:それ、みんなに言われますけど、ひとつでやってるから面白いんです。京都にまで看板出しても、JR西八王子駅前だけ。全国展開なんかしたらフツーでしょ?
清:ダッハハハハハハハハ!
き:地味な駅前の一介の歯医者が、世界的な観光地にまで看板出すのが面白いんですよ!
あまりにも看板の話が面白すぎて、愛車の話をあまり書けませんでしたが、きぬた院長はまったく遊んでこなかったので、クルマに詳しくなる時間もなく、「クルマのことはよくわからないけど、頑丈そう」というチョイスで、「メルセデス・ベンツS63 AMG」にお乗りでした。
き:これで首都高を走って、自分の看板を見るのが最高なんですよ!
ただし普段は、自宅から数分の医院までの通勤に使うのが主で、首都高を走る機会はあまりないそうです。すばらしすぎる……。
(文=清水草一/写真=清水草一、きぬた歯科/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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