第12回:BMW X2(後編)
2018.11.14 カーデザイナー明照寺彰の直言![]() |
スポーティーな造形でありながら、意外なほどの居住性のよさも兼ね備えていた「BMW X2」だが、明照寺氏はひとつ引っかかる点があったという。今回はBMWの最新モデルを題材に、ボディーカラーの大切さと、色とデザイナーのお仕事の“内部事情”を開陳する。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
“訴求色”はホントにこれでよかったの?
明照寺彰(以下、明照寺):もうひとつ、X2に関して気になったのは、イメージカラーです。
ほった:すんごい名前の、確か「ガルバニックゴールド」でしたっけ?
明照寺:最初に広告などでこのイエローを見たときは、あまり印象がよくなかったんです。なにかこう、とりとめのないデザインに見えてしまって。ところがディーラーで真っ黒のX2を見たら、非常にカッコよかった。
永福ランプ(以下、永福):色で印象がガラッと変わるなんて、なんだかシロートっぽい話な気がしてしまいますが(笑)。
明照寺:それはそうなんですけど(笑)、本当に、単純にそう感じてしまったんですよ。つまり「これは訴求色を間違えたんじゃないかな」と。
永福:そこでプロの目になる。
明照寺:X2は、もうちょっとシックなカラーで訴求した方がよかったんじゃないでしょうか。多分メーカーはポップなイメージにしたかったんだと思うんですけど、あのイエローではX2の魅力を表現し切れてないんじゃないかと。正直、デザインもあまりよく見えないじゃないですか。ところが黒とかシルバーだと、すごくスポーティーに見えた。
永福:私はイエローでも十分カッコよく見えましたけど……。
ほった:インポーターが持ってる取材撮影用のクルマは、すべてイエローでしたね。
永福:そう。X2はイエローで攻め切る! という、BMWの強い意志を感じた。
明照寺:前回の話にも関わってくるんですが、個人的には「X1」との違いというか、特別感がいまひとつ出せなかったので、訴求色はこういう元気なカラーにしたんじゃないかという気がしてしまうんですよ。
ほった:なるほど。
デザイナーは色のことをあまり意識しない?
永福:確かにクルマにとって、ボディーカラーはとても重要ですよね。
明照寺:本当に重要です。私がX2に感じた印象も、イエローの写真を見た限りではあまりいいものではなかったのに、黒の実物を見たら非常にスポーティーで、スタンスもすごくしっかり感じて、カッコいいものになった。色のさじ加減が違うと、クルマって見え方がガラッと変わるんです。
永福:X2のイエローはともかく、たとえばフェラーリだと、どうしてもグリーンだけは受け付けない。そういうのってありますね。
ほった:さいです? 私はべつにグリーンでもいいなと思いますけど。
永福:キミは変態だから。デザイナーはやっぱりボディーカラーのことを考えながら、デザインしてるんですか?
明照寺:カラーはカラーで、造形を担当する人間とは別のカラーデザイナーがやっています。統括するのは同じ人間ですけど、実務としては離れています。
永福:明照寺さんがデザインするときは、色のことはあまり頭にない?
明照寺:加飾というか、例えばグリルの中に何か差し色を入れるとか、そういう時は考えますけど。そもそも、造形のときのボディーカラーは絶対的にシルバーなんですよ。
永福:そうなんだ!
明照寺:クレイモデルって、くすんだ茶色ですけど、そのままだとツヤがないのでフィルムを貼って確認するんです。そのフィルムがシルバー。シルバーが一番ニュートラルに形状が確認できるので、ほぼ全世界そうだと思います。造形担当はシルバーで形状確認するので、その前段階では基本的に色のことは考えないですね。
怒涛のラインナップ拡充に民族性の違いを見る
ほった:スケッチもやっぱりシルバーで描くんですか?
明照寺:商品のキャラクターによっては、あえて有彩色で描いたりすることはありますけどね。特に元気を入れたいモデルのときなんかは。
ほった:そういやX2のスケッチにも黄色がありましたね。「こんなキャラの立った色でスケッチすることもあるんだ」と思ったのを覚えてます。
明照寺:でも、クレイモデルに関しては基本的にシルバーです。フェラーリは赤色に塗って確認するというウワサもありますが。
永福:へえ~!
ほった:クレイを赤くしてるのはフェラーリぐらいですか?
明照寺:そう聞きましたけど、最近はわかんないですね。
永福:最近はフェラーリも、赤の販売比率が落ちてますしねぇ……。それにしても、BMWもメルセデスもものすごいニューモデル攻勢で、車種を減らそうなんていう気持ちはかけらも感じませんね。
明照寺:すき間、すき間に入れていくじゃないですか。すごいですよね。
ほった:「5シリーズ グランツーリスモ」はさすがにやめたと思ったんですけど、いつの間にか「6シリーズ」になって継続してたし。「8シリーズ」とか「X7」とか、より巨大な方のモデルもどんどん発表している。これだけ増えると、デザイナーさんも作り分けが大変なんじゃないですか?
明照寺:それもそうですけど、モデルをひとつ新規開発するのって、すごい開発費がかかるんです。これだけ広げるっていうのは、相当ですよ。
永福:「X2」みたいなすき間産業モデル(笑)でも、やっぱりかなりかかるわけですか?
明照寺:さすがにまるっきりの新型ほどじゃないですけど、それでも何百億円という単位にはなるんじゃないですか。
永福:それでも数を増やすんですね。日本のメーカーがモデル数を絞ろうとしているのとは、正反対ですね。
明照寺:やっぱりそれが、日本人のもったいない精神なのかもしれません(笑)。
(文=永福ランプ<清水草一>)

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。