ランボルギーニ・ウルス(4WD/8AT)
この猛牛はよく懐く 2018.11.16 試乗記 ランボルギーニが“スーパーSUV”と呼ぶ「ウルス」がいよいよ日本に上陸した。全長5m超のボディーに、最高出力650ps、最大トルク850NmのV8エンジンを備えたこの“猛牛”は、果たして日本の交通事情の中で生き延びていけるのだろうか……。出会いは見間違いから
ウルスが街にやって来た! これはもう、サンタが街にやって来るぐらいめでたいことなので、いつもより濃いめに入れたコーヒーを飲んで、気分をシャキッとさせてから集合場所へ急ぐ。ウルスは、どんな猛牛なのだろう。
待ち合わせをした御殿場のコンビニの駐車場はだだっ広くて、でもまだウルスは来ていない。と思ったら、遠くに止まっていた「『トヨタC-HR』にしてはデカいな」と思っていたSUVがウルスだった。ウルス、少なくとも遠目に見る後ろ姿はそんなに派手じゃない。
ただし、接近して、前に回って顔を見るとやっぱりその迫力はスゴい。サイズのデカさもあって、ウルスとC-HRだと猛牛とソニーの「aibo」ほど違うと思った。
私は、猛牛とaiboを見間違えたことを言おうかどうか迷ったけれど、その場で素直に告白した。すると、カメラマンの向後さんも編集部の藤沢さんも異口同音に、「一瞬、C-HRに見えました」と白状したのだった。ウルスの山吹色が、C-HRでよく見るボディーカラーだという理由もあるだろう。ちなみにボディーカラーの正式名称は「Giallo Auge」で、“トップ・オブ・黄色”の意だという。
というわけで、「猛牛」「モンスター」というウルスに対する事前のイメージは、ちょこっと親しみやすい方向にシフトしたのである。
「1時間ほど別のクルマを撮影するので、軽く試乗から始めてください」とのことだったので、「フォン!」とエンジンをスタートして、パドルを手前に引っ張ってDレンジに入れてから、緊張していることを悟られないように何食わぬ顔でコンビニの駐車場を後にした。
「フォン!」はほかのランボルギーニと同じ演出で驚かなかったけれど、駐車場から出る際の段差ではびっくりした。猛牛が前足をしなやかに折り曲げて、段差からのショックをやわらげてくれたからだ。こんなに乗り心地がいいのか。
驚くと同時に、そうか、ひとつ屋根の下で暮らす、「アウディQ7」「ポルシェ・カイエン」「ベントレー・ベンテイガ」とプラットフォームが同じ、つまり基本骨格が同じなんだという事実を思い出す。ちなみに、前後マルチリンクというサスペンション形式も、エアサスを採用している点も共通である。
しばらく走って、別のコンビニの駐車場に入る。さり気なく走りだしたけれど、猛牛を操るにはコックピットドリルが必要だ。隅っこに止めて、各種スイッチをチェックする。
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いざ猛牛と一騎打ち
まずステアリングホイールのスポークに備わる「VIEW」というボタンを押して、インパネに何を表示するかを決める。ここまでの走行情報(何時間走って、燃費は平均どれくらいかを表示)とか、日付と時間とか、いろいろあるけれど、4輪の空気圧をチェックした後で、パワーとトルクを「%」で表示するモードを選んだ。
続いて「Tamburo(タンブーロ)」と呼ばれる、操縦桿(かん)のようなレバーを操作して走行モードを選ぶ。選べる走行モードは、「ストラーダ」「スポーツ」「コルサ」「テッラ(グラベル)」「ネーヴェ(スノー)」「サッビア(デザート)」の6つで、取りあえず「ストラーダ」から始める。
操作系をひと通りチェックしたことで心が落ち着き、シフトパドルがステアリングホイールと一緒に回転するタイプであることと、樹脂製であることを確認。再びDレンジに入れて、今度こそ本格的に試乗をスタート。
市街地では、やはり乗り心地のよさに感心する。バイパスの50km/h程度のスピードでも、4本の足は突っ張ることなく、よく伸び縮みしている。猛牛というより、竹富島で乗った、やさしそうな瞳の水牛が引く牛車の、ゆったりした乗り心地を思い出す。
普通に流すくらいだとタコメーターは2000rpmを超すことはなく、音も静かだ。Bang & Olufusenのオーディオシステムから、FMラジオがいい音で聞こえてくる。視界が悪い、ということもない。リアのガラスが天地方向に狭いので、さすがに「スバル・フォレスター」のように360度見渡せますというほどの視界のよさはないけれど、慣れれば不自由は感じない。
静かに感じたというのは、エンジン音、排気音、ロードノイズが遮断されているということもあるけれど、ボディーがしっかりしていて、どこからも低級な音が聞こえてこない、ということでもある。いかにもつくりがよく、工作の精度が高いという印象を受ける。
車内は平和で、これならサイズさえ気にならなければ、十分にファミリーカーとして使える、と思った。猛牛との一騎打ちを覚悟してきただけに、肩すかしを食らった気分だ。ステアリングフィールも滑らかで、粗さはまったく感じられない。
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加速に粗さを伴わない
高速道路に入っても、フツーに運転しているとクルマの教科書に書いてあるように動く。すなわち、しっかりしたボディーはねじれないからサスペンションも正しく伸びたり縮んだりを繰り返し、路面からの衝撃を乗員に伝えない。80km/h巡航程度だと、前出のメーターは、パワーだと3%とか4%、トルクで7%とか9%しか使っていないことを表示する。まだそんなに残っているのか、と思うと心にゆとりが生まれる。金持ちケンカせずとは、こういうことだろう。
タンブーロを「スポーツ」に移すと、ギアが落ちて、それまでブルーで表示されていたタコメーターが、オレンジの表示となる。ステアリングホイールの手応えも、グッと重みを増す。
試しに料金所を出てアクセルペダルを踏み込むと、さすがに加速はスゴい! 抜けのいい乾いた快音とともに、あっという間に1速が吹け切って体がシートに押しつけられる。あまりの加速にメーターを見る余裕がなかったけれど、ちらっと見えた感じだと1速が吹け切った時点で60km/h程度。相当の自制心を持たないと、すぐにとんでもない速度になってしまう。
ちなみに前述したベンテイガのW12気筒ターボは最高出力が608psだから、ウルスの650psは“トップ・オブ・スーパーSUV”だといえる。
おもしろいのは、とんでもない加速感なのに、粗さは感じないことだ。エンジンの出力が、一滴も無駄にされずに路面に伝わっている感じ。与えられたパワーがばらばらに散らばるのではなく、一点に向かって収束して車体を加速させる。
この暴力的なのに精密さを感じさせる加速感、何かに似ていると思って浮かんだのは、アウディの「RS」シリーズだ。「インテル入ってる」ならぬ、「アウディ入ってる」だ。
ここでタンブーロを「コルサ」へ。タコメーターは赤の表示となり、雰囲気を盛り上げる。アクセルペダルをオフにすると、「パパン、パン」というアフターファイヤーのような音が響いて、やる気を高める。ただし高速道路を走るぐらいだと、「コルサ」はシフトショックがガツンガツンと大きくなるぐらいで、あまりいいことはない。「コルサ」の出番は、やはりワインディングロードだった。
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「ウラカン」「アヴェンタドール」との決定的な違い
ワインディングロードに入ると、猛牛のサイズがぎゅぎゅっと、ふたまわりほどコンパクトになったように感じる。ステアリングホイールを切ると、タイムラグなしにノーズが向きを変えるからだ。
ロールをあまり感じない、ボディーが水平な姿勢を保ったまま次々とコーナーをクリアしていく様は、「ロータス・エリーゼ」のようだ。軽く2tはあって、全高も1.6mを超えるこんな巨体が、ライトウェイトスポーツのように走るなんて!
ロータス・エリーゼのようだと感じたのは、コーナーに向かってステアリングホイールを切り込んでいく際のフィールだとか、エンジンが4000rpmから4500rpmに回転を上げていくときの手応えだとか音だとか、そういった感触が繊細に感じられたからだ。
超ハイパフォーマンスカーであるけれど、ガーッと踏んでダーッと曲がる、という大味さは微塵(みじん)もない。デカくて重くて背の高いクルマがエリーゼのように走るという、物理の法則に逆らうかのようなドライブフィールや、タイトなコーナーを苦にせずにクルッと回り込む感触は、おそらく後輪ステアの働きによるものだろう。
正直なところ、猛牛が持つ力をすべて解き放つにはサーキットに持ち込むしかないだろう。けれども、ぶっ飛ばさなくてもスポーツドライビングの所作が楽しめるから、高速道路やワインディングロードでも退屈でないどころか楽しい。闘牛は闘牛でも、ルールをきっちり守る闘牛だ。
撮影のために、あちこち移動してみると、ウルスが世界的にバカ売れしているという事実が肌でわかった。最近のランボルギーニは、ほかのモデルもフツーに走れば運転がしやすいけれど、気になるのは下を擦ること。でもウルスは、そんなことを気にせずに気楽に移動できるのだ。
ランボ好きの中には、段差がイヤで都内から東名高速で海老名サービスエリアに行き、そこで食事と給油をして次のインターで折り返して帰宅、というデートを繰り返している人もいるそうだけれど、ウルスだったらどこでも行ける。
ウルスは、モンスターで猛牛だけど、暴れ牛ではなかった。ちょっと派手だけど知的で繊細なアスリートというか、サイボーグの猛牛というか。
ランボがSUVをつくるのか!? と思ったけれど、そういえばV型12気筒エンジンをDOHCにしたのも、ミドシップしたのも、フェラーリよりランボのほうが早かった。ランボルギーニの持ち味は、「カウンタック」ならぬ“カウンターアタック”。スポーツカーの王道を行くフェラーリに対して、新しいタイプのスポーツカーを一歩先んじて提案するのだ。
てなことを考えていたら、ファイティングブルのエンブレムが、ウルスにぴったりに見えてきた。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウルス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5112×2016×1638mm
ホイールベース:3003mm
車重:2360kg(車検証記載値)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:650ps(478kW)/6000rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2250-4500rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)325/35ZR22 114Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.6リッター/100km(約7.9km/リッター 欧州複合サイクル)
価格:2779万9200円/テスト車=3342万6667円
オプション装備:エクステリアカラー<ジアーロオージェ>(36万2595円)/Nathリム22インチホイール<チタニウムマット>(49万3771円)/カーボンセラミックブレーキ<ブラックブレーキキャリパー>(12万6929円)/21インチスペアホイール(7万7671円)/電動パノラマルーフ(31万0416円)/スタイルパッケージ<ハイグロスブラック>(21万3096円)/オフロードモード(7万1032円)/マットブラックエキゾーストパイプ(9万1464円)/Q-cituraウィズレザー(35万2637円)/オプショナルステッチ(7万0501円)/フロアマット<レザーパイピング&ダブルステッチ>(7万0501円)/ヒーター付きマルチファンクションステアリングホイール<パーフォレーテッドレザー>(14万1134円)/コントラストステッチ<ステアリングホイール>(4万2353円)/電動フロントシート<ベンチレーション&マッサージ機能付き>(35万2637円)/4人乗り仕様(42万3270円)/ブランディングパック(9万8781円)/Bang & Olufsenアドバンスト3Dオーディオシステム(70万5407円)/ヘッドアップディスプレイ(21万1635円)/アンビエントライトパッケージ(33万9095円)/ハイウェイアシスタントパッケージ(31万0416円)/アーバンロードアシスタントパッケージ(20万7811円)/ナイトビジョン(29万6475円)/ウエットアームワイパー&ヘッドライトウオッシャー&RVCクリーナー(9万4931円)/ハンドレステールゲートオープナー(9万2408円)/カーゴマネジメントシステム(7万0501円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:3856km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:402.8km
使用燃料:60.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.7km/リッター(満タン法)/7.3km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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