ホンダ・スーパーカブC125(MR/4MT)
スーパーちょうどいいホンダ 2018.12.10 試乗記 これまで1億台が生産された“小さな巨人”「ホンダ・スーパーカブ」。その誕生60周年の節目にデビューした「スーパーカブC125」とはどんなオートバイなのか? ホンダのこだわりがつまった小排気量車の魅力に触れた。“脱・道具”のスペシャルモデル
試乗中、「あとちょっと」と思った点はひとつ。フロントフォークのストロークスピードが速すぎるため、もう少し減衰が効いていればハンドリングはより落ち着いたものになるのではないか、ということだ。
そして試乗後「どうせなら」と思った点も、やはりひとつ。各種スイッチには光沢のある塗装が施されているものの、それがコスメティックなごまかしに感じられてもったいない。できればスイッチそのものが、あるいはそのベースプレートやボックスがアルミだったなら、そこに触れるたびに気持ちが満たされたに違いない。
いずれもささいな事ではあるが、かなりの部分が専用設定、もしくは専用設計になっているため、もうひと越えしてくれれば文句なしだった。とはいえ、望むのはその程度でもある。それ以外は見ても乗っても和ませてくれたのが、ホンダから登場したスーパーカブC125である。
車名からも外観からも分かる通り、C125はスーパーカブのバリエーションモデルとして、2018年9月に販売が開始された。2018年はスーパーカブの生誕60周年にあたり、ホンダはそれを記念したモデルを展開。C125はその中でも特別な存在といえる。
それが分かりやすいカタチで表れているのが、39万9000円という車体価格だ。スタンダードモデルに相当する「スーパーカブ50」が23万2200円、「スーパーカブ110」が27万5400円なのだから、なかなかの割り増しである。
ただし、相対的には抜きんでて高価ではない。ホンダがラインナップしている6機種の125ccモデルのうち、最安価のスクーター「リード125」ですら30万円を超え、ロードスポーツの「CB125R」は45万円に迫る。
久しぶりにバイクの世界に触れた方は「たかが125ccにそんな価格はあり得ん」と驚くかもしれないが、排気量や馬力のヒエラルキーはあまり意味を成さず、このクラスだからといって役に立つかどうかも絶対的な基準ではない。
そう、C125が他のスーパーカブと一線を画するのはそこだ。あくまでも生活密着型の道具として存在していた既存のスーパーカブと異なり、ホンダはこれをパーソナルコミューターと定義。つまり、趣味のひと時を過ごす愛玩の対象に仕立てたのである。
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誰でも分かるイイモノ感
実際、C125とスーパーカブ110の間に互換性はほとんどない。鋼管で構成されたフレームの基本設計こそ共通ながら、エンジンハンガーもヘッドパイプもシートレールも別モノ。ハンドルとシートのマウントも異なり、剛性の強化や振動の低減が図られている。
また、エンジンも排気量のみならずベース自体が異なる。C125のそれは、系統で言えば「モンキー125」の兄弟にあたるもので、そのクラッチ機構を自動遠心化。エンジン内部やギア周辺のベアリングを高精度なものに換装するなど、「タイプR」的なチューニングが施されているのだ。
とりわけシフトフィーリングはスーパーカブ史上最良のもので、静かに、滑らかに切り換わっていく。スーパーカブ110が「ガチャ」ならC125は「コクッ」。他のモデルを知らなくとも「お!」と思えるイイモノ感があり、それは普段乗り慣れない人が試しても分かるものだ。
目に見えない部分ですらこうなのだから、その他は推して知るべしである。スーパーカブ110との共通パーツはボルトの類い程度で、外装はもちろんリアキャリアもシートもマフラーも異なり、前後のステップバーやペダル、グリップですら専用品を採用。リアフェンダーは樹脂ではなく、わざわざプレス成形のスチールが用いられ、初代スーパーカブ、C100の柔らかい曲線が再現されているのだ。
足まわりに目を移すと、サスペンションのストローク量がフロント10mm、リアに至っては19mm延長され、ドラムだったフロントブレーキがディスクに変更されたことによって走りに余裕が生まれている。
また、そのたたずまいに大きく影響しているのがホイールだ。代々リムとスポークで構成されていたが、C125ではアルミのキャストが新たに採用された。表面に切削加工が施されたエンケイ製のそれは手触りが滑らかなだけでなく、ただでさえきゃしゃなフロントのハブとスポーク部分が中空化されるなど、工芸品のように凝った作りを持つ。
というように、C125のディテールを眺めていくと、そこにかけられた手間ひまに半ばあきれさせられるが、「アレもしたい、コレもしたい」という思いが隅々にまで盛り込まれ、喜々として開発された様子が伝わってくる。
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トップ・オブ・ネオクラシック
レーシングマシンをデチューンして公道に送り出してしまった「RC213V-S」や「CRF450L」はホンダならではのモデルだが、ホンダらしいモデルはなにかと問われれば、このC125を真っ先に挙げる。過去の名作をモチーフにしたネオクラシックの分野でも世界最良の一台に挙げたい。
ところでここは「試乗記」ゆえ、乗ってどうだったかにももう少し触れておかなければいけない。終始一貫しているのは当たりの柔らかさで、それはシフトフィーリングのみならずハンドリングにも出力特性にも共通する。
サウンドやバイブレーションもそれらとちゃんとリンクし、回転音の割に加速が鈍いとか、乗り手のイメージよりもエンジンが先走ったりすることもない。なにか操作すれば、それがそっくりそのまま挙動として返ってくる、そのごまかしもなければ特別なおもてなしもない関係性が心地いいのだ。
エンジンの出力を右手一本で制御し、ギアを駆使しながら効率よく路面へ伝えていく。そういうシンプルな「操っている感」がちりばめられ、しかもリスクを感じることなく楽しめるのが魅力だ。それは最高出力が9.7psにすぎない空冷OHC 2バルブ単気筒だからではない。世の中にはピーキーな6psもあれば、ダルな50psもある。
C125にビッグバイクのような非日常性はないが、スクーターほど日常を引きずらない。その合間にある、ちょうどよい乗り物である。
(文=伊丹孝裕/写真=向後一宏/編集=関 顕也)
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1915×720×1000mm
ホイールベース:1245mm
シート高:780mm
重量:110kg
エンジン:124cc 空冷4ストローク単気筒OHC 2バルブ
最高出力:9.7ps(7.1kW)/7500rpm
最大トルク:10Nm(1.0kgm)/5000rpm
トランスミッション:4段MT
燃費:69.0km/リッター(国土交通省届出値 定地燃費値)/66.1km/リッター(WMTCモード)
価格:39万9600円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。