第16回:スバル・フォレスター(後編)
2018.12.12 カーデザイナー明照寺彰の直言![]() |
たとえキープコンセプトであっても、従来モデルとの“違い”や“新しさ”を表現する方法はあるというのだが……。今回は、新型「スバル・フォレスター」のディテールを通し、現役のカーデザイナー明照寺彰が「国産車と輸入車の、考え方の違い」を語る。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
洗練はディテールに宿る
永福ランプ(以下、永福):それにしても新型フォレスター、「超キープコンセプトで洗練度を増していく」という考え方自体はいいんですけど、これに関しては特に洗練された感じがしないんですが……。
明照寺彰(以下、明照寺):洗練のポイントっていろいろありますけど、例えばヘッドライトを見ても、輪郭はほぼ変わってませんよね。ライトの中に入ってる、“コの字”をした発光部の形も変わっていません。ヘッドライトやリアコンビランプの形状は、洗練のポイントとして非常にわかりやすい部分なので、そういうところをもう一工夫すれば、かなり印象は変わったんだろうと思います。
ほった:リアコンビランプは、確かに変わったなっていう気もしますけど。
永福:でもあれはいかにも小細工だし、逆に洗練度は落ちたようにも見えるよ。
明照寺:それは、ややグラフィックが強すぎて、造形と絡んでないからそう感じるんだと思います。例えば「アストンマーティンDB11」のリアランプもコの字型ですけれど、あれは造形の結果そうなっているような形状なんですよね。一方フォレスターのコの字型はそうは見えません。
永福:アストンマーティンDB11は、メチャメチャ美しいですよね……。
ほった:ここでDB11の話が出るとは思いませんでした(笑)。
永福:DB11を引き合いに出してもらって、フォレスターも「以て瞑すべし(もってめいすべし)」だね。
スジが通っているのはいいけれど
永福:ただまぁ、全体としては新型フォレスター、やっぱり悪くないと思います。「先代より少し武骨な方向にいったかな」というくらいで、それはそれでスバルらしいですし、スバリストからも、デザインに関しては特に文句は出てないんじゃないでしょうか。
明照寺:確かに、写真よりも外光の下で見た方がカッコよく見えましたしね。リアビューのたたずまいも結構しっかりしてる。ヘッドライトとかグリルとかで、何かもうちょっと先進的な提案でもあればよかったんですが。
永福:でも妙な変化球を投げなかったのはよかったんじゃないかな。なにしろスバルには、とんでもないデザインをやってしまった過去がありますから。2代目「インプレッサ」のマイナーチェンジとか、「B9トライベッカ」とか……。
ほった:あれは悲劇でしたね。
永福:もうたぶんスバルは、ああいう迷走はしないでしょう。技術だけでなくデザインに関しても、一本スジが通った感じがするので。やろうとしていることがブレてない。
明照寺:デザインにブレがないというのは非常に重要です。今のスバルはそれができていてうらやましい。ただ、デザイナーの立場としては、代わり映えしなさすぎるというのも、やっぱり問題なんですよ。
永福:確かに、もうちょっと一般ユーザーにアピールできる“新しさ”があったほうがよかったかもしれない。
明照寺:進化に加えて、変化もしなくてはいけないですから。進化と変化って結構難しいところで、お客さまがパッと見わかるようなのが変化だったりするわけじゃないですか。その両方を実現することを、われわれは求められているんです。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
“ヘッドランプ水掛け論”ぼっ発
永福:特に一般ユーザーは、ランプ類に反応しますよね。LEDの個数を増やすとか、ウインカーをアウディみたいなシーケンシャルタイプにするとか。安易といえば安易ですが、一発で高級感が出せる。
明照寺:ただ、BMWやメルセデスのランプを分解してみると、日本車とは部品点数がまったく違います。
永福:そうなんだ!
明照寺:ヨーロッパのメーカーのランプには、下手したら日本車の10倍ぐらい部品が入ってます。彼らはそれくらいすごい量のパーツ数を使ってる。日本車は、「どれだけパーツ数を減らせるか」っていうことをまず考えてクルマを造ってますから、必然的にやれることが限られるんですよ。
永福:うわ~~~~~~。ベルサイユ宮殿 VS もったいない精神だ。
明照寺:コストのかけ方が全然違うんです。ただまぁ欧州車も、本国仕様の廉価版はすごく安いヘッドライトですけど。
永福:電球色のヤツ?
ほった:そういうの好きです。そういう仕様を日本にも入れてほしい。
永福:いかにもマニアだね……。ハロゲンランプの欧州車なんて、日本じゃ売れないでしょ。ゼイタクするために買うんだから。MTのほうがまだしも需要ある。
ほった:いやぁ。ワタクシなんかはカタログとかに「LEDが○○個!」って書いてあるのを見ると、「何考えてんの?」って思っちゃいますが。
永福:そういうことが大事なんだよ! ほった君は一度もエリート感のあるクルマを愛車にしたことがないでしょ。そういうクルマに乗ると、みんなの見る目が違うんだよ。そしてそれは、とても気持ちのいいものなんだよ(笑)。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
“見てくれ”にどこまでお金をかけるべきか
明照寺:ただね、パーツ数が増えると当然重量も増えるんですよ。オーバーハング部に重量物を載せることになりますから、クルマの性能は阻害することになります。
永福:いやぁ、レーサーにしかわかんないような性能より、大事なものがあるんじゃないかな……。先代「トヨタ・クラウン」は、ヘッドライト内のスモールランプに、両端だけにLEDを入れて全部が点灯してるように見える、ロッドみたいなのを使ってましたよね?
明照寺:導光棒というやつですね。光源がひとつあれば、棒全体がビューって光るんです。日本車では主流です。
永福:ああいう節約って、ユーザーにはしっかり感じ取られてますからね。やっぱり見え方が違うもん。
ほった:とはいえ、お値段300万円級のSUVの話で、LEDテンコ盛りの、お値段にしたら2倍以上もするような高級車の装備を引き合いに出されましてもねぇ。
明照寺:日本車でなかなかそこまでやってるトコは少ないですよ。レクサスでもそこまでじゃない。でも、そういうところでクルマの高級感が上がって、ユーザーの満足感も上がるなら、日本車はもうちょっとそのあたりに注力すべきかなと思います。
永福:まぁ、注力したらしたで、「そんなことにカネかけてるんじゃねぇよ」みたいな意見も出るでしょうけど。
ほった:絶対出ますね(笑)。
(文=永福ランプ<清水草一>)

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
-
第41回:ジャガーIペース(後編) 2019.7.17 他のどんなクルマにも似ていないデザインで登場した、ジャガー初の電気自動車「Iペース」。このモデルが提案する“新しいクルマのカタチ”は、EV時代のメインストリームとなりうるのか? 明照寺彰と永福ランプ、webCGほったが激論を交わす。
-
第40回:ジャガーIペース(前編) 2019.7.10 ジャガーからブランド初の100%電気自動車(EV)「Iペース」が登場。SUVのようにも、ハッチバックのようにも見える400psの快速EV。そのデザインに込められた意図とは? EVデザインのトレンドを踏まえつつ、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
-
第39回:アウディA6 2019.7.3 アウディ伝統のEセグメントモデル「A6」が、5代目にモデルチェンジ。新世代のシャシーやパワートレインの採用など、その“中身”が話題を呼んでいる新型だが、“外見”=デザインの出来栄えはどうなのか? 現役のカーデザイナー明照寺彰が斬る。
-
第38回:三菱eKクロス(後編) 2019.6.26 この“顔”はスポーツカーにもよく似合う!? SUV風のデザインが目を引く、三菱の新しい軽乗用車「eKクロス」。迫力満点のフロントマスク「ダイナミックシールド」の特徴とアドバンテージを、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
-
第37回:三菱eKクロス(前編) 2019.6.19 三菱最新のデザインコンセプト「ダイナミックシールド」の採用により、当代きっての“ド迫力マスク”を手に入れた「三菱eKクロス」。そのデザインのキモに、兄弟車「日産デイズ」や同門のミニバン「三菱デリカD:5」との比較を通して迫る。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。