メルセデス・ベンツC220dステーションワゴン アバンギャルド(FR/9AT)
ライバル泣かせのベンチマーク 2018.12.12 試乗記 フルモデルチェンジに匹敵するほどの大幅改良を受けた「メルセデス・ベンツCクラス」。新世代ディーゼルエンジンが搭載された「C220dステーションワゴン」の試乗を通し、新しい技術や装備を矢継ぎ早に投入する、メルセデス・ベンツの戦略に触れた。今も昔も基幹モデル
2017 年におけるメルセデス・ベンツの乗用車世界販売台数は約 230 万台。実は、そのうちのおよそ2割を担っているのが「Cクラス セダン/ステーションワゴン」だ。SUVの台頭で、特にステーションワゴン人気の凋落(ちょうらく)が言われるけれど、現行型は日本だけでも累計約6万9000台が販売されており、メルセデスにとってCクラスが基幹モデルであることは今も昔も変わりない。
それゆえモデルチェンジに力が入るのは当然のことだ。2014年にデビューした4代目Cクラス(型式205)が登場から4年を経てマイナーチェンジした。“マイナー”チェンジといっても従来モデルに対して変更箇所は6500にもおよび、その中身はフルモデルチェンジに匹敵するものだ。
注目の改良点はまずパワートレインにある。ひとつは「C200」のパワーユニットを従来の2リッターガソリンターボエンジンから1.5リッターターボに48V電気システムを組み合わせたマイルドハイブリッド仕様にしたこと。もうひとつが、「C220d」の2リッターディーゼルエンジンを、「Eクラス」も搭載する最新版へとアップデートしたことだ。
今回、試乗用に用意されたのは「C220dステーションワゴン アバンギャルド」だった(ベース価格は602万円)。セダンと比較すれば、車両重量は約60kg重く、荷室容量はセダンの455リッターに対し、460~1480リッターにまで拡大する。車両価格はセダンのほうが24万円安い(C220d比)。
ちなみに現在のCクラスのラインナップで、「ディーゼルのステーションワゴンが欲しい」となるとグレードはこのアバンギャルドの一択となる。試乗車は、これにオプションの「AMGライン」(37万円)、「レーダーセーフティパッケージ」(20万1000円)、「レザーエクスクルーシブパッケージ」(55万円)、「パノラミックスライディングルーフ」(21万6000円)などが付いて、車両価格は約750万円となっていた。
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そこかしこに見られる進化のポイント
AMGラインを選ぶと、まずエクステリアではフロントマスクがダイヤモンドグリル仕様となり、左右エアインテーク部に2本のフィンが備わるなど、精悍(せいかん)な顔つきになる。また空力性能を追求した新設計の「18インチAMGデザインアルミホイール」を標準装備する。
ちなみにタイヤは、乗り心地の面で不評だったランフラットの採用をやめ、一部モデルを除いて日本仕様では標準タイヤを装着するようになった(試乗車のタイヤはブリヂストン製「ポテンザS001」)。アウトバーンもなく、スピードレンジが遅く、パンクの件数も少ない日本市場を鑑みての判断だという。乗り心地重視派にとっては朗報といえるだろう。
インテリアには「AMGスポーツステアリング」が備わり、手を離さずにナビゲーションの操作や車両の設定などが行えるタッチコントロールボタンや、ACC(ディストロニック)を設定するスイッチを左右に配置するなど、最新世代のデザインとなったことで操作性が向上している。
AMGラインのもうひとつの大きな特徴は、エアサスペンション仕様になることだ。導入当初は「Cクラスにエアサスなんて」と驚いたこの装備も、4年の歳月によってもちろん進化を遂げている。終始おだやかでしっとりした乗り心地は、エアサスならではのものだ。もちろんワインディング路などでCクラスが本来持つアジリティーを試したいなら、スポーツモードを選択すれば瞬時にダンピング特性が切り替わる。
C220dが搭載する2リッター直4ディーゼルエンジンは、最高出力194ps、 最大トルク400Nmを発生する。シリンダーブロックとピストンに熱膨張率の異なる素材を採用することや、独自の表面コーティングを施すことで摩擦を低減し、効率性を向上。音や振動を抑制し、さらにエンジン単体重量も約16kg削減しながら、従来型より出力を24ps高めている。また、9段ATを搭載したことで、そのトルクをより無駄なく使えるようにもなった。低回転域からすばやくトルクが立ち上がるため、レスポンスも上々。高速巡航時の静粛性はディーゼルであることを忘れてしまうほどで、ゆったりとロングドライブすることが多い人は、ガソリンよりもこちらを選ぶほうがいいだろう。
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ぜひ選んでほしい2つのオプション
ADAS(先進運転支援システム)も、「Sクラス」譲りのものに進化した。先行車を追従するディストロニックは、一般道であれば再始動は3秒以内のところ、高速道路での渋滞時には、自動停止した際に30秒以内であれば先行車の動きに応じて自動発進してくれる。ステアリングアシストは車線だけでなく、車線が不明瞭な道ではガードレールなども認識するため、かなりの精度でレーンキープをアシストしてくれる。そして、そのステアリングアシスト起動時にウインカーを点滅させれば、3秒後に自動で車線変更までしてくれる。「レベル2の自動運転」といっても、ここまでくれば相当なものだ。いったん慣れてしまえば、もはやこの機能なしで長距離ドライブには行きたくなくなる。
これらを考慮するとオプションの「AMGライン」と「レーダーセーフティパッケージ」は“ぜひモノ”の装備としてつけておきたい。近年は安いクルマだからといって、装備差をつける時代ではなくなってきた。戦略的に「Aクラス」からボイスコマンド「MBUX」を投入して普及を促進する一方で、SクラスやEクラスの機能を惜しみなくCクラスにも投入する。トップダウンもボトムアップも、メルセデスは戦略を臨機応変に使い分けている。
そう考えれば、C200で電動化を推し進めながら、一方でC220dのアップデートもやるという一見ダブルスタンダードにも思える戦略にも合点がいく。いまは、どちらか一方ではすべての顧客の要望をカバーすることは難しい。したがってその両方が必要なのだ。しかし、この選択肢の豊富さ、その完成度の高さをもって「これがDセグメントカーのベンチマークだ」と言われたら、競合もさぞかし頭が痛いに違いない。
(文=藤野太一/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC220dステーションワゴン アバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1810×1440mm
ホイールベース:2840mm
車重:1790kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9AT
最高出力:194ps(143kW)/3800rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1600-2800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95Y/(後)245/40R18 97Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:18.5km/リッター(JC08モード)
価格:602万円/テスト車=744万8000円
オプション装備:メタリックペイント(9万1000円)/レーダーセーフティパッケージ(20万1000円)/AMGライン(37万円)/レザーエクスクルーシブパッケージ(55万円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(21万6000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト車の走行距離:1555km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:339.1km
使用燃料:19.2リッター(軽油)
参考燃費:17.7km/リッター(満タン法)/18.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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