ホンダCR-VハイブリッドEX・マスターピース(4WD)
真面目に 丁寧に 2018.12.21 試乗記 新型「CR-V」のフルモデルチェンジに、少し遅れて設定された「ハイブリッド」。国内外のブランドがひしめくミドルクラスSUVの中にあって、国内販売を復活させたCR-Vの、ハイブリッド車の持つセリングポイントとは何なのか? その走りから確かめてみた。つくり手みずから「傑作」を名乗る
ドアを開けて驚いた。濃い茶色のレザーシートがおごられている。なんと、ローバーとの提携時代を思わせる、いまどきイギリス車にもない、いや、あくまで「木目調パネル」だからホンモノのオーセンティック(本物)とはいえないかもしれないけれど、それでもそのクラシックな雰囲気は新鮮で、居心地がよい、と筆者は思った。
車内にあった資料には、「CR-VハイブリッドEX・マスターピース4WD」とある。5代目となる新型CR-Vには、1.5リッターターボのガソリンと、2リッター+電気モーターのハイブリッドの2種類のパワートレインがある。グレードは基本的にEXのみだけれど、前述したように本革仕様があって、それがEX・マスターピースと呼ばれる、今回のテスト車なわけだ。つくり手みずから「傑作」を名乗るのもなんだかなーと思ったりするけれど、それぐらい自信があると解すべきだろう。
2018年8月、国内市場での2年の空白を挟んで登場した5代目CR-Vの、遅れて11月に追加されたCR-V初のハイブリッドである。ホンダのハイブリッドは現在3種類あって、すべて「スポーツハイブリッド」という冠がつく。
で、筆者はてっきり「フィット」等の小型車用かと思ったら、さにあらず。「アコード」等で用いられている「i-MMD(intelligent Multi-Mode Drive)」が使われている。発電用と走行用、ふたつのモーターを持つこれは、低速ではEVモードで、強い加速時にはエンジンの力で発電した電気でモーターを駆動するハイブリッドモードで、高速巡航時はより効率に優れるエンジンの力で走行するというマルチなモードを持つ。
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EVなのに旧世界の4気筒フィール
この最新i-MMDのおかげで、お正月のテレビ番組等でおなじみの獅子舞みたいな見かけのSUVが箱根の上り坂をスイスイ、実にスムーズかつ力強く走る。このとき筆者はまったく分かっていなかった。CR-Vハイブリッドの走行用の電気モーターは、最高出力184ps/5000-6000rpmはともかくとして、最大トルクが315Nmもあることを。
しかも、その発生回転は電気モーター特有の0-2000rpmである。最初の1回転目からして最大トルクを生み出す。1700kgの車重のSUVが徐々に動き始めるのではなくて、いきなり、瞬時に飛び出す。CR-Vのカタログには「3リッターV6エンジン並みのトルク」とあるけれど、実際にはもっとスゴイ。「3リッターV6エンジン並みのトルク」をいつだって取り出しちゃうのだから、魔法のごとし異次元のごとしである。それも、2リッター4気筒の自然吸気エンジンのテイスト(具体的にはサウンド)で。
前述したように、その2リッター直4はアトキンソンサイクルで最高出力145ps/6200rpmと最大トルク175Nm /4000rpmを発生するわけだけれど、高速巡航時以外は発電に専念している。専念しているわけだけれど、ドライバーが感じる彼の仕事はそれだけではない。アクセルを全開にするとムオーッとうなりをあげ、あたかもエンジンで走っているように感じさせるのだ。うなり声が加速とシンクロしている。
これは、従来のi-MMDで「違和感がある」という指摘を受けて、走り込みによって人間の感性に合うようにチューニングしたのだそうだ。筆者のような旧化石燃料人的感覚の持ち主でも違和感がないのだから、称賛に値する。EVなのに旧世界の4気筒のフィールがあるから、旧世界人にも受け入れられる。
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山道でも走りやすく乗り心地も良好
ハイブリッドなのに違和感がなく、乗り心地がいい。SUV特有のタイヤの硬さが目立っていない。235/60R18とサイズが穏当であることが効いている。カッコ優先ではなくて、生活優先。オンロード/コンフォート重視の「ブリヂストン・デューラーH/L」タイヤが選ばれていることからも、開発者の意図は明らかだ。
現行「シビック」から使われ始めた、新しいプラットフォームが持つボディー剛性の高さと、リアサスペンションに採用されたマルチリンクが乗り心地とハンドリングの両面で効いていることもあるだろう。「液封コンプライアンスブッシュ」や「振幅感応型ダンパー」といった新アイテムも使われている。
ハンドリングに関しては可変ステアリングギアレシオ(VGR)の採用と、「アジャイルハンドリングアシスト」なるブレーキ制御が山道の走りやすさに貢献していると思われる。
さらに、i-MMD初の4WDでもある。新型CR-Vのそれは電子制御式で、コーナーにはFWDで進入し、出口でアクセルを開けると後輪に駆動力を伝えてRWDのように脱出するという。こうした電子デバイスもそうだが、ホイールベースが2660mmと短めであることや、前後比で57:43という重量配分も、走りやすさにつながっていそうだ。どの要素がこうだから、ということは正直に申し上げてよく分からない。
なお、前後重量配分は、前970kg:後ろ730kgで、前輪駆動ベースの4WDにしてはフロントが重すぎない。ハイブリッド用バッテリーの重量や配置が、その重量バランスに貢献しているのであろう。ちなみにリチウムイオンバッテリーは、後席後方のフロア下に積まれているため、ハイブリッドに3列7人乗り仕様の設定はない。
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自画自賛にもうなずける
基本的なサイズや重量配分に始まり、それに新しいプラットフォーム、各種電子制御の要素が加味され、さらに国内で発売するまで2年間、熟成が図られた。そうして最終的に、ドライバーの操作に対して、まるでハッチバックみたいに生き生きと応えてくれるCR-Vハイブリッドというクルマが誕生した。
もっとも、CR-Vハイブリッドは、本当はアクセル開度8分目ぐらいが、もっとも静かで快適であることは疑いない。そんなこといったら、どんなクルマだってゆったり走っているほうが快適に決まっているわけだけれど、旧化石燃料人的スタンダードで見ると、モーターで粛々と走っているCR-Vは不可思議なくらい静かで軽やかなのだ。
「だれも、新しいワインを古い革袋に入れたりはしない。そんなことをすれば、ワインは革袋を破り、ワインも革袋もダメになる。新しいワインは、新しい革袋に入れるものだ」と聖書にあるという。CR-Vハイブリッドは、古い革袋に新しいワインである。イエス・キリストに知れたら怒られるかもしれない。とはいえ、この新しいワイン、おいしいんだから、いいんじゃないの。
いや、「古い革袋」と書いたけれど、考えてみたら初代CR-Vは1995年登場で、二十数年前は新しき革袋だった。ホンダはこれを基本的にはキープコンセプトのモデルチェンジを続けて、こんにち、主力モデルのひとつに育てあげた。新型CR-Vハイブリッドのドライビングインプレッションがほとんど文句のつけようがないのは、農業製品であるワインとて偶然にできるわけではないように、つくり手がマジメに丁寧な仕事をしているからなのである。「マスターピース」という自画自賛も、乗ると気持ちは分かります。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
ホンダCR-VハイブリッドEX・マスターピース
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4605×1855×1690mm
ホイールベース:2660mm
車重:1700kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:145ps(107kW)/6200rpm
エンジン最大トルク:175Nm(17.8kgm)/4000rpm
モーター最高出力:184ps(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315Nm(32.1kgm)/0-2000rpm
タイヤ:(前)235/60R18 103H/(後)235/60R18 103H(ブリヂストン・デューラーH/L33)
燃費:25.0km/リッター(JC08モード)/20.2km/リッター(WLTCモード)
価格:436万1040円/テスト車=442万5840円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムクリスタルレッド・メタリック>(6万4800円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2045km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:368.4km
使用燃料:29.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.7km/リッター(満タン法)/14.0km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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