BMW M340i xDrive(4WD/8AT)
原点を思い出す 2018.12.26 試乗記 BMWのセダンをBMWのセダンたらしめてきたものといえば、ライバルとは一線を画した走りのスポーティーさだ。7代目となる新型「3シリーズ」は、歴代モデルが受け継いできたそのアイデンティティーを、一気に昇華させたモデルといえるだろう。スペイン南部、アルガルヴェで試した。販売総数は1600万台以上
世の中的にはプレミアムDセグメントなどと称されるモデル群は枚挙にいとまがないが、その源流をたどると1台のクルマに行き着く。それはBMWが今から半世紀以上前の1961年、ノイエクラッセ=新しいクラスと銘打って発表した「1500シリーズ」だ。
前後のタイヤを覆うフェンダーとドアパネル、エンジンフードが面一化した、今日的な自動車の先駆けともいえるスタイリングはミケロッティの作。当時の「クラウン」がまだ初代だった……といえば、それがいかにモダンな形だったかが伝わるだろう。しかも単に形だけでなく、技術的にもモノコックの車体骨格に前:マクファーソンストラット&後:セミトレーリングアームというサス形式、オーバーヘッドカムレイアウトのエンジンやディスクブレーキなど、現在のクルマが用いるポピュラーなエンジニアリングがいち早く採用されていた。
この1500シリーズは市場でも人気を博し、1800、2000と排気量を拡大しながら1972年まで生産が続く。その過程で4ドアの大型モデルや2ドアの派生モデルも登場、これが現在のBMWセダンの原点となっているわけだ。
スポーツセダンを再定義
2ドアの派生モデル=「02シリーズ」からつながる3シリーズは、1975年のE21系を初代とし、これまで6代にわたって販売されている。その販売総数が1600万台オーバーと聞けば、世界的名車と評するのに異論はないだろう。
7代目となるG20系3シリーズの話をする前に歴史に触れたのは、このノイエクラッセ時代のモデルたちが、軒並みスポーツサルーンとしての礎を築いてきたからだ。すなわち新しいモデルの趣旨は至って明確に、スポーツセダンを再定義することにある。やれ今日日のモデルは快適性を重視しすぎて走りがヌルくなってるんじゃないかとか、他銘柄はアジリティーだなんだとお株を奪うようなこと言ってるじゃないかとか、近頃のBMWにそういう嘆きを抱くような向きには、そのパフォーマンスは驚きと喜びをもって受け入れられるだろう。
ただし、現状の印象として言えるのは、失ったものもなくはないということになる。
新型で突き抜けたかったポイント
ひとつは車格だ。新型3シリーズのスリーサイズは全長×全幅×全高=4709×1827×1442mm。これは現行「Cクラス」の寸法に相当近く、先代にあたるF30系3シリーズに対して全長で85mm、全幅で16mm大きい。しかし、日本仕様の先代3シリーズはドアノブ形状を工夫することで車検証上の全幅を1800mmに抑えていた。これによって都市部での古い機械式パーキングなどにも対応できる自在性が確保されていたわけだが、新型はドアノブが引っ込もうが形状的に1800mmを超えるのは確実。使用環境によっては選択を諦めざるを得ないという人もいるだろう。
そしてもうひとつは乗り心地だ。新型3シリーズは日常で多用する低中速域で細かなロールやバウンドが目立ち、それが鋭く体を揺さぶる。いかにもコイルやスタビライザーのレートが影響しているようなライド感に、さすがにちょっと硬すぎかなと、こちらが余計な心配をしてしまう。試乗車はあらかたMスポーツサスを装着していたため断じることはできないが、低速域から優しいタッチだった先代のようなおおらかさはうかがえない。ともあれ、新型3シリーズは過去2代のバランスが取れたキャラクターとは一線を画してでも何かに突き抜けたかったことは、「Z4」にも迫るステアリングのギアレシオからも伝わってくる。
BMWを選ぶ理由
最高出力374psのストレート6を搭載する「M340i xDrive」の試乗は、発表時期の関係もあってクローズドで、さらには軽くマスキングが施された状況で行われた。しかもそのコースは激しいアップダウンを伴いつつ逆カントの高速コーナーが続くという意地の悪さで、中途半端なクルマはすぐにアラが出そうな、テスト向きのタフな環境である。
その中で、M340iはほれぼれするようなハンドリングとスタビリティーを示してくれた。その回頭性はxDrive(=4WD)であることをまったく感じさせない鋭さで、キビキビと向きを変える。が、そこから向こうの旋回感は思いのほか穏やかで挙動にもつかみにくさはない。自分でも唖然(あぜん)とするほどのアベレージでコーナーに入っても、タイヤがしっかりと路面を捉え抜いていることは、スキール音の少なさやインフォメーションの豊かさからも実感できる。そういう“人当たりのよさ”はブレーキのコントロール性にも表れており、刺激的なパフォーマンスの中にもこの手のクルマに期待される万人向けの落ち着きどころに対して、新型3シリーズはしっかりと気が配られているようだ。
そもそもサーキットでの性能になんの意味があるのかと言われればそれまでだが、あまたのクルマの中でBMWを選ぶ、その理由がどれほどのものかを端的に示せるのがこうした場所であることもまた確かだろう。内装の質感は上がり、後席の居住性も改善された。コネクティビティーやADAS(先進安全装備)の技術的進展も十分に見応えはある。でも、新型3シリーズの最大価値は純然たる動的能力にあり、それがライバルとは完全に一線を画す、新しい水準に達したことは間違いない。
(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW M340i xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:374ps(275kW)/--rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/--rpm
タイヤ:(前)225/45R19/(後)255/40R19(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:--
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。