第19回:レクサスUX(前編)
2019.01.16 カーデザイナー明照寺彰の直言![]() |
いよいよ登場したレクサスのコンパクトSUV「UX」。レクサスブランドにとってSUVは、グローバルではもちろんのこと、国内販売でも過半を占めているだけに、ラインナップのボトムを担うUXはブランド成長の核となり得る重要なモデルだ。UXのデザインを、現役のカーデザイナーはどう見たか?
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UXの話をする前に……
明照寺彰(以下、明照寺):UXの前に、まず「NX」について話したいと思います。個人的には一番いいなと思っているレクサスがこのNXなんです。
永福ランプ(以下、永福):NX、バランスいいですよね。
明照寺:サイドビューを見ると、ルーフの頂点が結構後ろ寄りにある。リアシートの真上あたりですね。普通はもうちょっと前にきます。
ほった:空力的にはそっちのほうが有利でしょうに。
明照寺:でもNXのルーフは、リアシートの上あたりの頂点までなだらかに上がり続けているんです。その結果、シルエットが前傾姿勢になり、スポーティーさが強調されています。
永福:言われてみれば、って感じですが。
明照寺:これはかなり挑戦的ですよ。
永福:すいません、そんなの全然見えてませんでした(笑)。
明照寺:こういうチャレンジングなことをやっているのに、シルエットにまったく悪影響が出てなくて、すごく巧みな感じがします。それに、ドア断面の大胆な造形にも驚かされました。
永福:えっ、それも私には見えてませんが……。
明照寺:フロントドアに前下から後ろ上へと斜めにピークの線が入っていて、そこで面が折れているでしょう。普通はこういうことをやると、いらない凹みができてしまったりするし、今まで誰もやろうとしてこなかったことだと思うんですよ。デザイナーとしては衝撃でした。
永福:これが衝撃なのか……。自分を含めほとんどの人は、気付いてもいないでしょう。
ほった:自分で手洗い洗車してみて初めて気付く、みたいな感じですかね。
明照寺:でも、これが普通のドア断面だったらここまでダイナミックな雰囲気は出てこなかったと思います。
見どころが多いレクサスのデザイン
明照寺:このように、レクサスってデザインのネタがすごく豊富なんですよ。だからデザイナーとしては、いつも楽しく見てますし、すごく参考になります。
永福:そうなんですか!
明照寺:レクサスのデザインには、「こういう造形をやっていいんだ」っていう、ブレイクスルーがいろいろあるんです。ただ、全体の“まとまり”に関しては、「もうちょっとここはこうしたらいいのに」と思うモデルもありますけど。
永福:とにかく、UXの兄貴にあたるNXのデザインは、デザイナーとして高く評価できる、ということですね。
明照寺:そうなんです。で、UXなんですけど、これまでのレクサスよりもボリューム感が強い。面の張り感とか、リアフェンダーの出っ張り感とかもそうですけど、「立体のボリュームで見せよう」としているのが感じられます。
ほった:全幅でいうと、C-HRより45mm大きいですから、ボリュームも多めに盛れることになりますよね。
明照寺:その分、基本の立体構成はシンプルでわかりやすい。そういう意味ではレクサスも、次のステージを探してるのかなと思うんですよ。
永福:今日のお話はちょっと難解だなぁ。
明照寺:(笑)ただ、惜しい点がふたつあります。ひとつは顔まわり。他のレクサスと比べても、あまりグリルやヘッドランプなどの比率が変わらない。このクラスのSUVなら軽快感が欲しいと思うんですけど、その点から見ると、もうちょっとグリルの比率を下げてやってもよかったんじゃないでしょうか。
永福:“レクサスらしさ”を優先した感じはしますね。
明照寺:お客さんからしてみれば、「同じレクサス顔が欲しい」という要望はあるでしょうけど。もうひとつは、レクサスのラインナップの中では一番デザイン的に遊べる立場なので、もうちょっと、何か新しいテーマがあったらよかったな、と思います。
永福:確かに、NXや「RX」より、むしろコンサバに感じました。
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“コンサバ感”“オジサン感”が否めない
明照寺:ただ、リアコンビランプのあたりは、これまでのレクサスとはだいぶ違いますし、このクルマならではの部分が出てていいんですよ。
ほった:リアランプをスポイラー風に造形してますね。アメ車の“テールフィン”みたいに。
明照寺:これ、作り手として見ると「どうやって型を抜いてるんだろう?」って思います。どこかで型を分割してるんでしょうけど、パーティングラインもまったく見えない。これはかなりのブレイクスルーですよ。現場の人間としては、スゴいことやってるなぁと思わざるを得ない。
永福:これ、スゴいんですね?
明照寺:スゴいです。市販車でここまで立体的なものは、なかなかないですよ。コンセプトカーとかならあるかもしれませんが。
永福:でもユーザーにしたら、樹脂パーツなんてどうにでも作れるんだろうって思ってしまうなぁ。
明照寺:これを実現させるのは大変だったはずです。
永福:確かに面白い造形ではありますけど。……で、全体としてはどうなんでしょう? UX。
明照寺:リアでは冒険しているけど、フロントは「いつも通りにしようか」みたいに考えたのかなぁと感じました。
永福:私が思うに、ベースがトヨタC-HRでしょう。なにせC-HRのデザインがぶっ飛んでますから、それに比べると非常にコンサバに見えるんですよ。それが悪いとは言いませんが、リアコンビランプで頑張ってはいても、全体にはオッサンっぽく見える。RXやNXよりもオッサンっぽいくらいに。
明照寺:C-HRとは、できるだけイメージを離したかったんでしょうね。それより疑問は、リアゲートまわりのシルエットです。全体に対して下がり気味なんですよ、お尻のピーク感が。
永福:ですね。“垂れ尻”気味に見える。
明照寺:全体のウエッジ感を考えたら、もうちょっとピークを高いところにもっていくべきだったのかなぁと思います。そのほうが軽快感にも寄与するはずですし。
永福:垂れ尻はあきらかに“オッサン感”につながりますからね。それが最大の原因かもしれないな。さっき話していたリアコンビランプの立体感も、生きてないと思うんですよ。お尻の位置が低い、垂れ尻フォルムのせいで。
明照寺:そこはもったいない感じはしますね。
(文=永福ランプ<清水草一>)
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明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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