BMW M4カブリオレ コンペティション(FR/7AT)
新たな芸風の“M” 2019.01.18 試乗記 最高出力450psの直6ターボを搭載するBMWのオープン4シーター「M4カブリオレ コンペティション」が上陸。市街地からワインディングロードまで走らせてみると、これまでのMモデルとは違ったキャラクターが見えてきた。満を持してのトップレス
BMWジャパンは東京マラソンのオフィシャルパートナーである。2018年の先導車は、発売前の「i8ロードスター」だった。東京マラソンは各国から招待選手が集まるメジャー大会だが、その一方、ランニングイベントの世界では“グルメマラソン”なんていう分野が育ちつつある。エイドステーションで地元の名産品や名物料理がふるまわれる。出ると太っちゃう、楽しいマラソンだ。
M4カブリオレはスピードマラソンとグルメマラソンを一度に味わうようなクルマである。走る性能は“M”だが、屋根を開ければ、青天井が楽しいオープンカーだ。
BMWのスポーツイメージを長いこと牽引してきた「M3」には、2ドアの「コンバーチブル」もあった。M3をツーリングカーレース車両の降臨モデル的なイメージで売ってきた日本にはこれまで輸入されなかったが、1988年の初代M3(E30)コンバーチブル登場から30年、BMWジャパンが満を持して(?)導入したのがこのトップレスM4である。
フルネームは、M4カブリオレ コンペティション。すなわち、M4のなかでもよりパワフルでスポーティーな“コンペティション”をベースにしている。1383万円は当然、M4シリーズ最高額だが、M4クーペ コンペティションとの差は約80万円。Mでない「440i」の“カブリオレ代”約100万円よりお安くなっている。高いものほど安くする。言い換えると、高いほうに誘導する。BMWジャパンのうまいところだ。
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ルーフ自体はいいものの……
BMWジャパンの地下駐車場で待っていた試乗車は「フローズンレッド」という、つや消しの赤だった。この色だけで衝動買いを誘いそうな、すごみのあるカラーリングだ。室内は一転、真っ白である。純白のレザー内装と黒いダッシュボードのコントラストで、シャチみたいだ。
屋根あり状態でも、後席には大人ふたりがなんとか座れる。センターピラーがない開放感が効いている。カップホルダーもふたり分ある。
リトラクタブルルーフは3分割でトランクルームに収納される。開けるのに最短23秒、閉めるのに25秒。4座キャビンでトラベル量が大きいわりにはスピーディーだ。停車時だけでなく、ちょっと動いていても開閉できる。
屋根を閉めているときのトランク容量(445リッター)はクーペと変わらないが、オープンにするとトランクの深さは半減して、嵩(かさ)物は入れられなくなる。それは構造上、しかたないが、収納スペースクリアのセンサーになっているラゲッジルームセパレーターという隔壁を下げ忘れていると、スイッチを押しても屋根は開かない。それがけっこう起こりがちで、煩わしい。
基本的にジェントルマン
ボンネットにぎっしり収まるエンジンは、M社が手塩にかけた直列6気筒3リッターツインターボ。コンペティション仕様は450psを発生する。カブリオレはこのチューンだけだが、もしノーマルがあったら、プラス19psである。
まずは屋根を閉めたまま走りだすと、M4カブリオレは重厚な高級クーぺだった。“450psのM”を実感させる迫力はない。というか、意外やおとなしい。それもそのはず、カブリオレはクーペより240kg重い。車重1880kgといえば、「ジープ・チェロキー」より40kgも太っている。やっぱりグルメマラソンだ。M4クーペはルーフをカーボン製にするなど、モノコックから軽量設計に打ち込んだのが自慢だが、カブリオレは芸風が違う。“これはこれ”なのだろう。
ニュルブルクリンクに持ち込んで全開走行すれば、もちろんこれはこれで速いにきまっているが、実用スピードで走らせているとパンチが足りない。そう感じたので、ダッシュ中央のモニターにドライブモード設定を呼び出し、エンジン、シャシー、ステアリング、変速機をぜんぶスポーツ+にして、ハンドルスポークにある“M1”ボタンに登録した。こうすると、左親指でボタンを押せばいつでも最強最速のM4カブリオレが味わえる。
スポーツ+だと特に霊験あらたかなのはスロットルレスポンスで、あまりにアクセルが敏感になり過ぎて、加速時にジャダーが発生し、その前後動でさらに右足が動いてしまって無限ジャダーに陥るようなこともあった。
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屋根を開けるや別人に
しかし、スポーツ+奮発のおかげで、胸のつかえがおりた。都内から高速に上がり、行きつけの山道を走ってUターンしたところで屋根を開けた。本当に留飲が下がったのはそれからである。
このクルマは屋根を開けると別人になる。ストレート6ツインターボのエンジン音も、4本出しマフラーの排気音も、トップレスだと俄然ボリュームアップする。逆にいうと、このリトラクタブルルーフの上屋は格別に遮音性能がすぐれているのである。
クーペとしてはフロントピラーがわりと起きているから、太い窓枠がヒタイに迫るような鬱陶しさはない。ルーフパネルがなくなると、厚い上着を脱ぎすてたような開放感を覚える。ほぼ水平なウエストラインを見てもわかるとおり、オープンカーのなかでも特にオープンカー“甲斐”のあるクルマである。日陰の山道を走っていてありがたかったのはネックヒーターだ。うなじのあたりから温風が出る。
カブリオレは最もぜいたくなM4である。真骨頂はサーキット走行よりもオープン走行で、240kgの重量増は、上を開けるとだいぶ取り返せる。マットレッドのボディーに純白の内装。マラソン先導車のように目立っていきましょう。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
BMW M4カブリオレ コンペティション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4685×1870×1390mm
ホイールベース:2810mm
車重:1880kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:450ps(331kW)/7000rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2350-5500rpm
タイヤ:(前)265/30ZR20 94Y/(後)285/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:10.8km/リッター(JC08モード)
価格:1383万円/テスト車=1642万3000円
オプション装備:BMW Individualボディーカラー<フローズン・レッド・メタリック>(48万3000円)/BMW Individualエクステンド・レザー・メリノ(33万円)/BMW Individualインテリアトリム(5万円)/BMW Individualレザーフィニッシュダッシュボード(18万8000円)/パーキングサポート・パッケージ(11万3000円)/Mカーボン・セラミック・ブレーキ・システム(110万円)/Mドライバーズ・パッケージ<最高速度リミッター解除>(32万9000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2491km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:269.6km
使用燃料:45.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.0km/リッター(満タン法)/7.3km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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