BMW M4カブリオレ コンペティション M xDrive(4WD/8AT)
日常で味わえる非日常 2022.02.08 試乗記 最高出力510PSを誇る、BMWのオープン4シーター「M4カブリオレ」。そのステアリングを握った筆者は、ワインディングロードでの走りはもちろん、街なかを流すだけで伝わってくる「いいクルマ」っぷりに感銘を受けたのだった。長い名は体を表す
2021年5月に本国でデビューし、9月に本邦に上陸した「M4カブリオレ コンペティション M xDrive」は、全部カタカナで書くと大変長い名前である。BMWをビーエムダブリューと書くだけでも長いのに、その後ろにエムフォー カブリオレ コンペティション エム エックスドライブと続く。
長い名前にはもちろん理由がある。屋根が開かない「M4クーペ」には最高出力480PSと510PSの2種類があり、510PSの高性能版を「コンペティション」と呼ぶ。M4クーペ コンペティションの駆動方式はFRと4WDがあり、BMWの高性能車の開発部隊であるM社が磨きをかけた後者をM xDriveと称するのである。
つまり、新型M4カブリオレは、M4の屋根開きの高性能な510PS版で、なおかつ4WDでもあるという、ポーカーで言えば、ロイヤルストレートフラッシュという感じでしょうか。手持ちのカードを全部投じてつくった、最強にして最高にぜいたくなM4なのだ。
いや、そうではなくて、思い直しました。それもあるけれど、バイエルンのエンジニアたちは、いままでだれも体験したことのない、新しいM4カブリオレをつくりたかったのである、おそらく。オープンの4WDという、2代目M4に加わった新たなモデルは、彼らにとって新たなチャレンジであり、大いなるモチベーションになったことだろう。
これを買わないのは……
もうひとつの特徴は、先代M4カブリオレがリトラクタブルハードトップだったのに対して、ソフトトップに回帰していることだ。こちらのほうがクラシックで軽快だし、軽量化にもつながる。鋼板とファブリックという異素材のコーディネートは、オシャレでもある。
ソフトトップといっても、開閉は4枚のサイドウィンドウも含めて完全全自動で、50km/hまでなら走行中でも開閉できる。必要な時間はおよそ18秒。ウィンドウまで含めると、筆者の計測で、開けるのに22秒、閉じるのに24秒かかる。それでも、赤信号で待っているあいだに悠々と完了するからお気楽だ。
むかしは、自動で開閉するなんて夢のようだった……。ということもあってか、オープンカーを前にすると、屋根を開けなければならないという強迫観念に私はかられる。しかしながら、冬は寒いし、目立って恥ずかしい……というようなことも同時に思う。けれど、M4カブリオレの場合はためらいがなかった。ひと目見たその瞬間、あまりのカッコよさに、センターコンソールにある開閉スイッチに手を伸ばした。
ほろが開きはじめると、開放感も広がっていく。それは取材前日のことだったけれど、オープン状態のM4カブリオレで街に繰り出した私は、メチャクチャいいクルマだ! と思った。お金があるのに、これを買わないヤツはアホだ。ということばが浮かんでくるほどに。
冬の午後の日差しを浴びながら、首都高速をゆったり流しているときの気持ちよさといったら、5段階評価で★★★★★の満点を差し上げたい。強化された足まわりとボディーの堅牢(けんろう)さは、ビスポークのシューズのごとし。って、考えてみたら、私は注文靴というものを履いたことがなかった……。たぶん、そうじゃないかなぁ、と。スチール製で堅牢感バツグンなのに、この靴は一分のスキもなく、足にピッタンコで、ドタドタしたりブカブカしたりすることがまったくない。ゴム感も、皆無ではないけれど、ごく薄くて、まるで、つけていないみたいである。
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とにかく気持ちがいい
ちなみにタイヤサイズは前275/35ZR19、後ろ285/30ZR20の前後異径の異サイズで、ミシュランの「パイロットスポーツ4 S」という高性能タイヤを履いている。例によってMはランフラットではないけれど、とはいえ、35、30という超極薄、ZR規格の19、20インチという大径で、しかも4座の開口部の広いオープンボディーにして、このしっかり感。でもって、30、35という薄さゆえ、大地のアスファルトがそのまま、ステアリングやシートを通してダイレクトにこちらに伝わってくるビビッドな感覚がある。
オープンで4WDゆえ、車重が重いのでは? という懸念は正しくもあり、間違いでもある。カタログで重量を比べると、M4カブリオレ コンペティションM xDriveは1930kgもある。ファブリックのフードは先代のリトラクタブルハードトップよりおよそ40%軽いとはいえ、2t近い車重の持ち主なのだ。M4クーペ コンペティションの後輪駆動モデルは1730kgだから、ピッタリ200kg重い。
ところが、単独で乗っている限り、M4カブリオレはむしろ軽やかに感じられる。ひとつにはフロントに搭載する2992cc直列6気筒DOHCツインターボが510ps/6250rpm、650N・m /2750-5500rpmという強大な最高出力と最大トルクを、いともたやすく発生するからだ。先代「M3」「M4」のストレート6よりも、パワーで60PS、トルクで100N・mもアップしている。とりわけトルクは、自然吸気だったら6.5リッター級の大排気量エンジンに匹敵する分厚さである。タコメーターを眺めていると、街なかでは2000rpm以下でシフトアップしている。100km/h巡航も8速トップで1600rpm程度にすぎない。豊かなトルクは乗るひとの気持ちを豊かにする。
エアロダイナミクスにはそうとう気を使っているようで、ウインドディフレクターなしでも、両サイドのウィンドウを上げていれば、風の巻き込みはごく軽微。そよ風とたわむれながら、高速巡航を続けることができる。
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峠道では本性むき出し
高速道路を、自宅最寄りのインターチェンジで降り、一般道を走行中、赤信号で止まっているあいだに屋根を閉じた。日が落ちてきて、ちょっと寒くなってきたからだ。すると、あれほど都心で素晴らしいと感じた乗り心地が、ちょっぴり硬めに感じられるようになった。東京はるか郊外のウチの近所の凸凹路面は合わないのか、あるいは速度が低すぎるせいか……。
冷静になって考えてみたら、オープンカーのつねで、ほろを閉じると、しなやかさがちょっぴり封じ込まれるのである。ああ、そうだった。オープンカーは、やっぱり開けているときのほうが気持ちいいのだ。
翌日、冬の箱根を走りまわることができた。3000rpm以上回してやると、メカニカルな快音を発しはじめ、4000rpmを超えるとボリュームが大きくなって、猛烈な加速を披露する。美声というよりは男性的なサウンドで、どっひゃー、と速い。モーレツに速いので、早々にアクセルを控えめにする。
4WDシステムは、アジリティー(俊敏性)とトラクションの最適化を図り、電子制御の多板クラッチを介して前後輪に適切なトルクを配分する、とされる。これにDSC(ダイナミックスタビリティーコントロール)とリアのアクティブMディファレンシャルが連携する。
M xDriveは、スタンダードの4WD、スポーツ走行向けの4WD SPORT、そして2WDと、全部で3つのモードを選ぶことができる。公道での試乗ということもあって、今回は4WDしか試していないけれど、4WDであることを意識させない。低速と高速でギア比を切り替える可変ステアリングのおかげもあって、クルマの動きはとてもシャープで、4輪操舵だとカンちがいしそうなほど、よく曲がる。
リアのアクティブディファレンシャルは黒子に徹していて、効果のほどは不明ながら、パーキングスピードでステアリングを大きく切って発進しようとすると、ゴゴゴゴッという音とともに断続的なショックが伝わってくることで、その存在は認識できる。乗りはじめるや、“スゴイもの感”がある。
なんていいクルマなんだ
オプション装着のカーボンセラミックブレーキは強力な制動力を瞬時に発揮するスグレモノで、高性能スポーツカーには欠かせない。財布に余裕があれば、選んでおきたい装備である。バネ下の軽量化にもなり、ということは、乗り心地にも貢献していると思われる。
唯一、個人的にほんのちょっぴり残念なのは、ギアボックスが先代のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)からトルクコンバーター式オートマチックに替わっていることだ。これにより、低速での動きがよりスムーズになっている、とはいえるだろう。ただ、ブレーキングしただけで、電光石火で自動的にブリッピングしながら2段ほどギアが落ちる、DCTならではのスポーティーな感覚が味わえなくなっている。それが、ちょこっと寂しい。
正直申し上げて、今回の新型M4カブリオレの試乗で「いいなぁ」と思ったのは、箱根の山道で、ではなくて、東京に戻ってきて恵比寿周辺を走っているときだった。もちろん箱根の山道もよかったけれど、最高出力510PS、最大トルク650N・mの高性能スポーツカーである。0-100km/h加速は3.7秒の俊足で、メーカーのデータとしては、例えば「ポルシェ911カレラ4Sカブリオレ」よりコンマ1秒速い。その能力を堪能する、なんてことは私の手に余る。
それよりも、ごく日常的に、交差点を曲がってフツウにアクセルを軽く踏んだときに、男性的なサウンドを発しながら軽やかに加速する、その加速っぷり、そのレスポンスに、再び、なんていいクルマなんだ……としみじみ思った。屋根を開けていれば、そのサウンドはライブで直接耳に届く。
ホイールベースが45mm延びたおかげで、だろう。後席は大人が乗っても膝まわりに余裕があるし、ソフトトップを採用したことで、格納時の荷室の容量が若干増えてもいる。サーキット走行もイケる。のかもしれないけれど、ビジネスにもギリギリ使えそうなパーソナルカーとして、日常の快適な移動を約束しつつ、瞬時に祝祭空間に切り替えてもくれる。それでいて価格は1462万円と、絶対的にはともかく、相対的にはお値打ちだ。911カレラ4Sカブリオレより629万円もお求めやすいのだから。
もちろん、ポルシェにはそれだけの価値がある。と認めたうえで、このフレーズが頭から離れない。これを買わないのは……である。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
BMW M4カブリオレ コンペティション M xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1885×1395mm
ホイールベース:2855mm
車重:1930kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510PS(375kW)/6250rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2750-5500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR19 100Y/(後)285/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:9.6km/リッター(WLTCモード)
価格:1462万円/テスト車=1760万7000円
オプション装備:ボディーカラー<ポルティマオ・ブルー>(10万円)/BMW Individualフルレザーメリノ アイボリー・ホワイト×ブラック(35万円)/M Driveプロフェッショナル(12万4000円)/Mカーボンセラミックブレーキ<ゴールドキャリパー>(107万5000円)/アンソラジットシルバーエフェクトソフトトップ(4万2000円)/ウインドディフレクター(4万8000円)/カーボンファイバーインテリアトリム(15万1000円)/アクティブベンチレーションシート(11万7000円)/Mドライバーズパッケージ(33万6000円)/Mカーボンエクステリアパッケージ(64万4000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3414km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:331.0km
使用燃料:43.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/7.7km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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