第21回:ダイハツ・ミラ トコット(前編)
2019.01.30 カーデザイナー明照寺彰の直言 拡大 |
今も昔も、軽乗用車のメインターゲットといえば女性。ぬいぐるみのようにかわいい女性向けモデルもずいぶん登場してきたが、「ダイハツ・ミラ トコット」は女性向けでありながら、それらとはかなりデザインテイストが異なる。そのあたりを現役デザイナーはどう見たか。
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「エフォートレス」というよりは……
明照寺彰(以下、明照寺):ミラ トコットのデザインは「エフォートレス」(effortless)というのがキーワードなんですよ。
永福ランプ(以下、永福):エフォート(effort)って、つまり努力ですね。
ほった:それがレス(less)してるわけだから、この場合は「努力しない」って意味ですか?
明照寺:基本的にはファッション用語なんですけど、「頑張らない」とか「気負わない」とか、抜けた感じを指します。
永福:トコット以前にあった「ミラココア」は、いかにも“努力”して女の子っぽくしてました。
明照寺:ああいうコテコテに決めた感じではなくて、頑張らない感じ。だけど、決してだらしなくはないというようなところを狙っていて、それはすごく時流に乗っているなと感じます。自分もいつかそういうテーマに挑戦したいと思ってます。
永福:つまり、ユニクロや無印良品のセンでしょうか。
明照寺:いや、ユニクロってもっとベーシックじゃないですか。もう少しふわっとしてるというか、もう少しおしゃれな感じでしょう。
永福:それは無印良品(笑)?
明照寺:うーん、もうちょっとだけおしゃれ寄りかなぁと思います。最近、体にぴったりしているよりは、だぼっとしてるパンツとかがはやりですけど、そういうのをどれだけだらしなく見せずに着こなせるかというところですね。
永福:ミラ トコットのカタログ、モデルさんの衣装もそういう系ですね~。
明照寺:そんな訳で、エフォートレスはユニクロかっていうと、ちょっと違うと思うんです。でも、結論から先に言ってしまうと、ミラ トコットは結果的にユニクロっぽくなっちゃってるんですよ。
一同:ハハハハハハ。
シルエットに工夫がほしかった
永福:ユニクロじゃないけどユニクロっぽいというのは?
明照寺:先ほど言った通り、エフォートレスってつまりは“抜けた感じ”なわけですけど、それでもシルエットには気を使わないとダサくなるんです。どこかにメリハリをつけないと、ただだらしない、どうでもいい人みたいに見えてしまう。そこは技を使わないといけない。ミラ トコットは、もうちょっとシルエットにこだわってほしかった。
永福:つまり、狙いはユニクロよりオシャレ寄りだったのに、結果は全身ユニクロみたいなデザインになってるんですか?
明照寺:そうです。クルマで「シルエットに気を遣う」というのは、いつも言ってますけど、タイヤに対しての全体の造形がポイントなんです。ミラ トコットも、もうちょっとだけでもタイヤを感じさせるようなシルエットにできなかったのかなぁって思います。例えば「ホンダN-ONE」とか「スズキ・アルト」を見ると、もちろんトコットとは毛色は違いますけど、もう少しフェンダーを出したりして、タイヤを感じさせているじゃないですか。
永福:先代の「ホンダN-BOX」も、すごくフロントフェンダーを感じさせましたよね。あれで、ただの立方体が機能美のある自動車に見えた。
明照寺:そうです。それに対してトコットは、ただ単純なせっけん箱みたいなボディーに、タイヤが“ぽこっ”とついています。これが狙いなんでしょうけど、それでシルエットがやぼったく見えている。だから、おしゃれな技がなにも入っていない、全身ユニクロの人みたいに見えるんです。
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力を抜けばいいってもんじゃない
永福:そのへんの話は個人的にすごく食いつきたい。僕はまさに全身ユニクロなんですよ(笑)。でも、全身ユニクロでも、適度におしゃれには見せられる。数年前、『最速でおしゃれに見せる方法』(扶桑社)っていう本が出たんですけど、それを読んですごく感動しました。「ユニクロは玉石混交だから、全身ユニクロでダサくもおしゃれにもなる」っていう内容なんですけど、おしゃれに見せる最重要ポイントが、「パンツはひたすら黒のスキニーを履け」っていうことでした。まさに「タイヤを感じさせろ」みたいなものですよね!
明照寺:それです! トコットはすべてが平均的で、締まった部分がないんです。
永福:ただの全身ユニクロ。
明照寺:だから、70~80年代の軽自動車、初代アルトなんかのデザインに近い雰囲気があって、自分がちっちゃい頃のクルマみたいで懐かしいなって感じました。これはこれで、若い人には新鮮かもしれないですけど。
永福:狙いはわかるんだけれども、なんか足りないみたいな感じですね。力を入れるのは全部やめよう、そのほうがオシャレでしょ、ってことなんだろうけど、もうちょっとだけ締まりがほしかった。それで言うと、N-ONEあたりはとてもいい線じゃないかなって思うんですけど。
明照寺:トコット、N-ONE、アルト、「ミラ イース」と並べると、ミラ イースが一番“頑張ってるサイド”で、トコットが一番エフォートレスなんですけど、「おしゃれなエフォートレス」をうたうのなら、N-ONEのあたりじゃないかなって思います。Bセグだったら「フォルクスワーゲンup!」みたいな感じですね。
永福:とってもシンプルだけど、クルマらしさは失ってない。
デザイナーの苦労がしのばれる
明照寺:個人的にはN-ONEとか、かつての「ダイハツ・エッセ」とかは、荷物はそんなに詰めないけれど、すごくシルエットが面白いと思います。トコットも、もうちょっとシルエットで面白さを足した方が、この車のコンセプトに合っていたんじゃないかな。
永福:ダサくはないけど、色気を完全に放棄している感はありますね。
明照寺:ただ、やりすぎるとコンセプトから外れると思うので。デザイナーはすごく悩んだんだろうなあ。すごく悩んで苦労した結果、「何もしなかった」っていうことかもしれませんね。
ほった:企画担当の女性陣と、男性の開発陣との間で、身も心もすり減らすようなデザイン議論があったんじゃないですかね。
永福:ケンカでもしてたの?
ほった:技術資料にも、「チーフエンジニアたちが持っている、女性=かわいいもの好きという固定概念を覆すのがとても大変だった」なんて女性プロジェクトチームのグチが書いてあるくらいですから。
明照寺:うわあ。
永福:それで、いらないものを削(そ)ぎに削いでいったら、ウエストのくびれもすべて消えました、みたいな。
明照寺:実際に手を動かしていたデザイナーは、「どれが正解なんだろう?」って必死に考えてたんでしょうね。その苦労がしのばれます。
(文=永福ランプ<清水草一>)

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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