第547回:「雪も走れる夏タイヤ」のうたい文句は本物か!?
ミシュランの新タイヤ「クロスクライメート」をテストした
2019.01.30
エディターから一言
2019年2月にミシュランが本格展開する新タイヤ「クロスクライメート シリーズ」をテストした。そのキャッチフレーズは「雪でも走れる夏タイヤ」。うたい文句どおりであればまさに理想的といえる商品だが、果たしてその出来栄えは!? まずはドライ&ウエット性能をチェックした。
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オールシーズン系タイヤの新商品
2015年の5月にヨーロッパでローンチされて以来、かの地でたちまち高い評価を獲得しているのを耳にしていたことから、個人的には「これは日本市場でもアリなのではないか……?」とひそかに注目をしていたのが「クロスクライメート シリーズ」という名称を与えられた、ミシュラン発のブランニュータイヤだ。
寒冷地でも優れた性能を発揮し、通行規制時にも冬タイヤとして認められることを示す“スノーフレークマーク”が与えられることや、さまざまな天候に対応することを示唆する名称などから、それがいわゆる“オールシーズンタイヤ”に属するアイテムであることは明らか。実際、2015年当時のプロモーションビデオでは、ドライやウエット路面上におけるサマータイヤにも見劣りしない性能を強調しながらも、路面が一部凍結した状況もカバーすることを連想させるアニメーションも用いられていたものだった。こうして“冬季の路面”にも強いことをアピールしていたのだが、現在は当のミシュランから、オールシーズンではなく「冬でも使うことが認められたサマータイヤ」という慎重な言い回しで紹介されている。
そんな新コンセプトによるヨーロッパ生まれのタイヤが、「雪でも走れる夏タイヤ」という独自のキャッチフレーズとともに、いよいよ日本の市場へと本格上陸することになった。
“本格”という注釈を加えたのは、実はこのモデルは2018年3月から、すでに一部の販売店を通じて試験的(?)に国内販売されてきた実績があるゆえ。それが2019年2月に設定サイズを大幅に拡充し、さらに全国の販売店で本格販売がスタートした……というのが、ここでのニュースなのである。
販売開始時期はちょっとワケあり……
冬が近づけばスタッドレスタイヤへの履き替えが当然で、実際の路面状況を鑑みても、そうしないと日々の暮らしが成り立たないことになる、北海道や北陸を中心とした降雪地帯。
しかし、そこまで厳しい環境には住んでおらず、積雪に見舞われるのはせいぜい年に10日ほど。そんな“非日常”での万一のシーンに備えながらも、通年を1種類のタイヤのみで過ごしたい――。そんな悩ましいユーザーに向けて、ドライやウエット路面上ではサマータイヤと変わることのないグリップ能力や快適性を発揮しながらも、冬タイヤとしての能力もある程度は同時に備える……というのが、いわゆるオールシーズンタイヤの狙いどころだ。
一方で、かくも幅広く“オールマイティー”なキャラクターを目指すがゆえに、下手をすれば「どっちつかず」という烙印(らくいん)を押されかねないのが、こうしたモデルの難しいところ。ミシュランがあえてオールシーズンという表現を避けたのは、「サマータイヤとしての性能もウインタータイヤとしての性能も、どちらも低レベルにとどまる」というイメージを付与されたくないという意向があったようだ。
それに加えて、本格販売開始のタイミングが2月という点には、社内の販売サイドの意向も見え隠れする。例年、9月には早くも販売プロモーション活動が本格化する日本のウインタータイヤ市場は、冬シーズン真っ盛りという年明けのタイミングでは、すでに終わったも同然。
クロスクライメート シリーズの本格販売開始が2月に設定されたのは、「そのシーズンのセールスに影響を与えてほしくない」という、ウインター(スタッドレス)タイヤ取扱店への最大限の配慮が盛り込まれているとも考えられるわけだ。
普通の夏タイヤよりも静か
オールシーズン、またはそれに準じたオールマイティーなキャラクターを備えたタイヤを導入することで“新たな需要”の発生は見込めるものの、「それだけ」で通年を過ごせるとなってしまえば、ウインタータイヤへの影響はもちろん、下手をすればサマータイヤのセールスがダウンしてしまうことも考えられるという“痛しかゆし”の存在にもなりかねない。
しかし、これまではグッドイヤーが「ベクター4シーズンズ」でほぼ独占的に先行してきたこのカテゴリーに、ついに巨頭であるミシュランも参入! ということになれば、ブリヂストンを筆頭とした他のタイヤブランドも、日本での展開を真剣に考えなければならなくなるのは確実だ。
そうした点においても、業界のエポックメーカーということになりそうなクロスクライメート シリーズのポテンシャルを、まずは通常のサマータイヤが守備範囲とする領域、すなわちドライとウエット路面で早速試してみた。
ちなみに、回転方向性が顕著なV字型のトレッドパターンが深く刻まれたクロスクライメートは、昨今の一般的なサマータイヤとは大きく異なり「ひと昔前の、排水性の高さを売り物としたスポーツタイヤのごとし」というのが見た目に対する第一印象。
その種のタイヤの多くがほぼ例外なく、走行中に大きなパターンノイズを発したことを知る身にとっては、まず懸念したのはノイズが大きいのではないかということだった。
結論から言えば、その心配は杞憂(きゆう)に終わることになった。実際に走りはじめてみると路面や速度に関わらず、耳に届くノイズは前述の派手なパターンから予想したよりもはるかに小さく、端的に言って「ほとんど気にならない」という水準。実はミシュランでも「既存の『エナジーセーバー+』よりもむしろ静か」というデータを得ているというが、クロスクライメートとエナジーセーバー+を「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に装着して行った比較試乗の印象でも、そんなコメントは実感と一致した。
ハンドリング路で走らせてみても、ターンイン時のコーナリングパワーやコーナリング中のグリップ力のピークが、むしろクロスクライメートの方が上を行くことに驚かされた。クロスクライメート シリーズにおける「サマータイヤとしてのドライ路面での能力は徹底的にキープする」という考え方は、こうして実感することができたのだった。
来るべき雪上テストに向けて
まずは「サマータイヤとしてのポテンシャル」に不満がないとなると、次に気になるのは当然ウインタータイヤとしての性能。あいにくこの日はテストする環境が用意されていなかったものの、近いうちに取材予定があるので、別途ご報告できる予定だ。
ちなみに、トレッドパターンを目にした限りで大きな期待を持てるのが、本格的な積雪路面へと至る以前に遭遇するような、シャーベット状の路面におけるハイドロプレーニング現象への対応能力だ。
というのも、高い氷上性能を得るためになるべく接地面積を広く採りたいスタッドレスタイヤでは、“排水路”としての溝を少なくするのが昨今のトレンド。そのため、スタッドレスタイヤの中にはハイドロプレーニング現象を起こしやすいものが少なくない。特に、高速道路走行の機会が多い、都市部に住む人の中には、この点を我慢しつつスタッドレスタイヤを履いていた人もおられるだろう。
というわけで雪上テストドライブでは、ぜひともそのあたりを入念にチェックしてみたい。サマータイヤとしてのポテンシャルが優れていただけに、ますます期待が高まる新コンセプトタイヤなのである。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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