モーガン・ロードスター(FR/6MT)
良き時代のスポーツカー 2019.03.08 試乗記 古式ゆかしき“クルマづくり”を今日も守り続ける英国のスポーツカーメーカー、モーガン。そのラインナップの中でも、3.7リッターV6エンジンを搭載したホットモデル「ロードスター」に試乗。富士山麓でのドライブを楽しみつつ、良き時代に思いをはせた。1930年代の姿そのままに
昨年(2018年)設立されたモーガンカーズ・ジャパンが用意したロードスターのメディア向けデモカーには、ご覧のように“1909”という登録ナンバーが選ばれている。モーガンファンならこの時点でピンとくるはずだが、それは自動車メーカーとしてのモーガンの創業年=1909年を示している。こうして三輪の「3ホイーラー」でスタートしたモーガンは、1936年に「4/4」で四輪車事業に進出した。以来、モーガンはパワートレインを時代ごとにアップデートしながらも、車体やシャシーの基本設計を大きく変えないままつくり続けられてきた。
もっとも、2000年にはそれまでと別物の四輪独立シャシーをもつ新世代モーガン「エアロ8」が登場して、それをベースにした第2世代の「プラス8」も2012年に発売されたものの、これらエアロ8/プラス8は昨2018年に生産が終了してしまった。
現在つくられているモーガンには、1936年以来の基本設計を受け継ぐ四輪車の3グレードのほか、1953年にいったん生産終了した後に2011年に復刻した3ホイーラーがある。つまり、いろいろと曲折を経つつも、今のモーガンは結局、1930年代と大きく変わりない顔ぶれに落ち着いているともいえる。……と書いている真っ最中に、ジュネーブショーで新開発プラットフォームの「プラス6」がベールを脱いでしまった(笑)。
とはいえ、そんな公開したてホヤホヤのニューモーガンをひとまず横に置けば、モーガン・ロードスターは3グレードある現時点での四輪車ラインナップのうち、動力性能ががもっとも高いモーガンという位置づけである。現行四輪車のエンジンはすべてフォード製で、ベーシックな4/4が1.6リッター4気筒、ひとつ上級の「プラス4」が2リッター4気筒、そして現在の最速モーガンとなる今回のロードスターが3.7リッターV6を積む。
フロントがスライディングピラー式、リアがリジッドのサスペンションをもつスチールラダーフレームにアッシュ(トリネコ)材の骨組みとアルミパネルによる上屋を組み合わせた車体構造など、パワートレイン以外の部分は3グレードで“基本的に”共通である。
加速性能は「タイプR」に比肩する
ここでわざわざ“基本的に”という注釈を入れたのは、今回試乗した最新のロードスターでは、リアリジッドアクスルのスプリングが、従来のリーフからコイルに進化していたからだ。リアのコイル化は先ごろ輸入されたロードスターからだという。弟分の4/4やプラス4での変更は今のところ伝えられていないそうだが、前記のようにモーガンの車体やシャシーは3グレードで基本的に同じである。4/4やプラス4に同様の変更がいつ加えられても不思議ではない。
このリアサス以外のロードスターならではの特徴としては、やはり専用となるパワートレインが挙げられる。モーガンに使われるV6エンジンは、フォードでは「サイクロン」や「デュラテック」と呼ばれるもので、フォード傘下時代のマツダも「MZI」の名で北米向けモデルに使っていたものの3.7リッター版だ。
モーガンカーズ・ジャパン担当のジャスティン・ガーディナー氏によると、「V6と6MTはどちらも『フォード・マスタング』のものですが、細かくいうとエンジンは先代モデル用、変速機は現行モデル用」とのことだ。まあ、エンジンスペックについてはマスタングと微妙にチューニングが異なるようだが、基本的にはそういうことなのだろう。
284ps、352Nmという出力、トルクは現代の3.7リッターとしてはどうということのないレベルであるが、それを積むモーガン・ロードスターの車重は「マツダ・ロードスター」とほぼ同等の約1t(!)しかない。パワーウェイトレシオ、トルクウェイトレシオはそこいらのスポーツカーを蹴散らすレベルだ。
0-100km/h加速5.5秒というロードスターのメーカー公表値は、現代のクルマでいうと、たとえば「ホンダ・シビック タイプR」、あるいはポルシェでたとえるなら、「718」になる前の2.7リッター6気筒を積んでいた「ボクスター」のPDK車とほぼ同タイムである。
強力なキック力こそ身上
数値的にはなるほどスーパーな動力性能を誇るモーガン・ロードスターだが、その味わいは最新の武闘派スポーツカーのようなトゲトゲしいものではない。フォードV6そのものがけっこう牧歌的なフィーリングであると同時に、そのピーク性能を実際に引き出すにはそれなりのハードルがあるからだ。
3.7リッターV6は意を決して踏み込めばリミットの6700rpmまできちんと回ることは回るものの、スロットルペダルが渋いうえに、車重が軽いので3000rpmも回せば十二分に速い。そんなありあまるエンジン性能に加えて、エンジンと運転席との間には薄壁が一枚あるだけ。5000rpmにも達すれば盛大なエンジンノイズとクルマ全体が身ぶるいするような振動、そして圧迫感にさいなまれる。
……というわけで、洗練された現代のクルマの経験しかないと、ピーク性能のはるか手前で右足をゆるめるか、あるいは耐え切れずにシフトアップしてしまうことだろう。
もっとも、それでもこのクルマの本質は存分に味わえる。V6モーガン最大の妙味は、そんなトップエンド領域より、速度やギアポジション、エンジン回転数、あるいは勾配など関係ないかのように、いかなる場面でも繰り出される強力なキック力だからだ。
また、カタログ表記の最高速度はじつに225km/hだが、実際には車速90~100km/hをさかいにステアリングの手応えが明らかに薄れはじめて、直進性も少しずつ悪化していく。サーキットコースなどでの経験によると120km/h以上になると、足もとがドシバタ暴れる。これは古典的なシャシー設計の影響もあろうが、いかにも空気をはらみそうなクラムシェルフェンダーや後ろ下がりのスタイリングによる、浮きやすい空力特性の影響が大きいと思われる。
確かに進化しているものの……
現行モーガンで最上級となるロードスターゆえに、今回の試乗車はエンジン以外の装備やメカニズムも(モーガンとしては)上級のものが選ばれていた。たとえばフロントとサイドの4カ所のホックを外すだけで後ろに折りたたまれるモヘアのソフトトップは簡易な取り外し式PVCトップより高価な上級オプションだし、プラス4にだけ用意されるオプションのエアコン(!)も装備されていた。
また、このロードスター専用にパワーステアリングも標準装備されるのだが、実際のステアリング操作は、正直なところ、そうとは思えない程度には重い。V6による前軸荷重の増大と相殺されてプラマイゼロといった感じか。
コイル化されたリアサスペンションは、25年ほど前の初試乗、そして十数年前の最後の試乗……という私個人のモーガン体験の遠い記憶を呼び起こしても、路面の細かい凹凸を吸い込むように、しなやかにストロークするようになったのは間違いない。モーガンの古典パッケージでは自分のお尻のすぐそばにリアアクスルが位置しているから、その効能は意外なほど如実に分かるのだ。それに、205幅の最新スポーツラジアルタイヤの恩恵で、少なくともドライの舗装路では3.7リッターV6のトルクに対するグリップ力にも不足はない。
……とはいえ、約80年前の設計を受け継ぐモーガンを、現代のクルマと真正面から比較するのは無理がある。
路面のウネリを通過すると、木製骨格の上屋がミシミシとねじれるのが手に取るように分かる。フロントのスライディングピラー式サスペンションはおそらく現代でもっとも簡素な形式(ラジコンカーに詳しい向きなら「キングピンコイル式」と呼んだほうが分かりやすいかも)で、伸び側を規制するリバウンドスプリングも備わって適度にロールを抑制しようとしているが、中立付近には明確な不感帯があり、しかもそこからの舵の利きも一定ではなく、路面からのフィードバックも薄い。
バイアスタイヤの時代のクルマ
だから、モーガンでは「ブレーキをわずかに残しながらターンイン」といった現代風の運転はあまり向いていない。
もちろん、今回履いていたエイヴォン(現在は米クーパータイヤ傘下)の最新スポーツタイヤ「ZV7」のグリップが優秀なので、そういう走りをしても取っ散らかったりはしない。……しないけれど、モーガンを山坂道で走らせるときは、コーナー手前の直線部分できっちりと速度を落としつくしてから、ステアリングを切るのが基本作法である。
ただ、いったん曲がりはじめれば、それ以降の主役はリアアクスルだ。ドラテクに覚えがあれば、スロットルを積極的に踏み込んで自在に曲げることも可能だろう。そうやってステアリングに頼らない状態に持ち込めれば、モーガンの前後重量バランスは静的にはわずかにリア優勢=すこぶる好バランスなので意外なほど素直に曲がって、コントロール性も高い。
……といった味わいのモーガンに乗りながら、このクルマが最初に設計された1930年代はそもそもラジアルタイヤがない時代だったことに思いがいたった。
現代のラジアルタイヤとそれ以前の主流だったバイアスタイヤの技術的な差異をここで説明することはしない。ただ、おおざっぱにいうと、バイアスタイヤは本体のケース剛性がより低く、より丸っこい断面形状をしており、早い段階から徐々にグリップを失う……というか、そのグリップ限界のボーダーラインを使って走るのが基本である。
1948年に実用化されたラジアルタイヤはそれとは逆で、ケース剛性が高くて変形しにくく、それゆえに接地面を最大限に確保できる角ばった断面形状をしている。グリップを失うときにはバイアスのように粘らず、一気に抜ける。そういうラジアルタイヤを使いこなすには、走行中もいかにタイヤを垂直(か、それに近い理想的な角度)に接地させてグリップ限界を引き出せるかが肝要である。そしてラジアルタイヤがあったからこそ、キャンバー変化を排除すべく現代の複雑なサスペンション形式が発展してきた……という側面もある。
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多少の不便さえ新鮮に感じる
だから、モーガン・ロードスターに乗りながら「バイアスタイヤを履いた本来のモーガンは、もっとステキな乗り味なんだろうな」とも思った。キャンバー変化の大きいスライディングピラー形式サスペンションも、そもそもが丸い断面形状のバイアスタイヤありき……の設計である。
それに、バイアス特有の粘りつくようなグリップ感があれば、今はデッドな感触が気になるステアリングも、路面からより濃厚なフィードバックを伝えるはずだ。また、バイアスでのコーナリングではタイヤが滑るのが基本だから、モーガンの生来の優れた前後重量配分がいよいよ輝くこと間違いなしである。
誤解のないようにいっておくが、これは「バイアスを履け」という意味ではない。乗用車用バイアスタイヤの入手はもはや困難だし、最新のラジアルとバイアスとではタイヤ単体性能は雲泥の差がある。わざわざ性能の低いタイヤを好んで履くなんて、安全性という意味でも現代ではありえない。
ただ、そんな良き時代に思いをはせつつ、右腕にぴったりフィットするように切り欠かれた合板製ドアにヒジを置いてモーガンを転がす……という行為は、なんとも上級エンスーのうらやましい世界だということだ。
現代のモーガンでうれしいのは、今回のにわかオーナー体験中も、信頼性やトラブルの不安とはまるで無縁だったことである。車体はなにせ80年もつくり続けられてトラブルシューティングなどとっくに終わっている。そこに現代の量産パワートレインを積むのだから、そもそも壊れそうなところはひとつもない。
今回は冷房性能を試すことはできなかったが、ヒーターは真冬の試乗でも基本的に強力に効くのでご安心を……と、ここでも“基本的に”と注釈をつけたのは、市街地ではヌクヌクだったモーガンも車速が90km/h前後に達すると、ヒーターから出てくる温風が途端に冷たくなったからだ。スカスカのエンジンルームに現代エンジンを積むモーガンだからオーバーヒートの心配はまずなさそうだが、このぶんだとオーバークールには配慮が必要なようだ。
まあ熱害ではなく冷えすぎ対策なら、人間とクルマの両面で、いくらでも工夫が可能だから心配ない……と、いまさら自然環境に左右されるクルマ生活はなんとも新鮮である。こういう不便もすべてひっくるめて楽しむのが、モーガンに乗るという行為である。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4010×1720×1220mm
ホイールベース:2490mm
車重:950kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:3.7リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:284ps(209kW)/6000rpm
最大トルク:352Nm(35.9kgm)/--rpm
タイヤ:(前)205/60R15 91V/(後)205/60R15 91V(エイヴォンZV7)
燃費:--km/リッター
価格:993万6000円/テスト車=1186万9200円
オプション装備:6×15 Blackワイヤーホイール<4本>+スペアホイール<1本>(29万1600円)/エアコンディショニング(54万円)/ブラックメッシュグリル(6万4800円)/ブラックパック(7万5600円)/ブラックストーンガード(5万4000円)/ブレーキリアクションバー(2万1600円)/ドアポケット(7万5600円)/フードカバー<Mohair>Black(9万7200円)/カラーパイピング<YWD BRK PEBBLE>(5万4000円)/ラバーフロアマット(3万2400円)/スピーカー&アンテナ(6万4800円)/エンジンスタートボタン(5万4000円)/防水レザー<XT>Black(43万2000円)/コントラストステッチワーク<YWD BRK PEBBLE>(5万4000円)/ユニオンジャックボンネットバッジ(2万1600円)
テスト車の年式:2018年型
テスト車の走行距離:2362km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:402.2km
使用燃料:38.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(満タン法)/10リッター/100km(10.0kmリッター、車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。