ヤマハSR400(MR/5MT)
完成されたマシン 2019.03.02 試乗記 一時は販売中止に至るも、みごと復活を遂げた「ヤマハSR400」。排ガス対策が施された最新型は、走りに制約を受けるどころか、驚くほど官能的なライディングを楽しめるオートバイになっていた。いまや貴重なご長寿モデル
ひとつのものを進化させながら長い間作り続けていく。ちょっと聞くと簡単なことのようだが、日本の工業製品でこういうものは決して多くない。そんな中でSRは非常に貴重なマシンだと言うことができるだろう。何しろ1978年に登場してから40年以上、基本的なスタイルとメカニズムを変えずにきている。今回の試乗は、そんな「作り続けることの大切さ」を再確認することになった。
現行型のSR400が登場したのは2018年の秋。その前はどうだったかというと、しばらくの間、カタログから姿を消していた。排ガス規制に対応するための開発を進めていたからである。実をいえば、2008年にも同じようなことがあった。
生産中止になるたび、マニアたちの間では「今回こそ復活できないんじゃないか」なんていう声があがる。何しろ基本設計が40年も前。ヤマハが4ストロークを作り始めた頃のエンジンだからである。70年代中盤まで、ヤマハは2ストローク一筋のメーカーだった。そんなヤマハが初めて開発した4ストロークビックシングルが「XT500」。パリダカの第1回大会で優勝という快挙を成し遂げた名車である。そのロードスポーツバージョンとして生まれたのがSR400なのだ。
排ガス規制が加速度的に厳しくなっているのはご存じの通り。海外でも古くから続いていた伝統的なエンジンが、排ガス規制を乗り越えることができず一新されたりしている。SR400が同じ運命をたどったとしても何も不思議ではない。
対策が難しいのは当然。走りやエンジンのフィーリングがおとなしくなってしまってもしかたない。そう考えていたが、実際に試乗してみてこの考えが完全に間違っていることに気付かされることになった。
かつてないほど官能的
エンジンのフィーリングは従来モデルよりも明らかに快活になっていた。低回転からスロットルを開けていくと単気筒エンジン特有の鼓動感と排気音を響かせながら加速していく。低回転をキープしたままでもシングルのトルクを生かし、力強く、キビキビと走る。長年かけて熟成されてきたエンジンは、回り方がとても滑らか。体に伝わってくる雑味もなくメカノイズも少ない。だから余計に排気音と鼓動感がクリアに体に伝わってくる。
20年くらい前まで、SRには「500」もあって、どちらも知っているライダーたちは500こそが本当のSRだ、なんて言っていた。僕自身もそう思っていた。400はどうしてもパワーがなくてダルな感じがしてしまっていたのだ。ところが現行モデルは、500を知るライダーさえも納得させてしまうような爽快な走りを実現させている。400cc特有のマイルドさや軽快さがうまく引き出され、鼓動感と歯切れの良い排気音が組み合わされたことで、これまでの400にも500にもなかった、心地良いフィーリングが生まれているのだ。
この走りはエンジン本体ではなく、排気系を見直してエキゾーストサウンドを作り込んだことから生まれているという。こういった官能性能は、これからも開発が進んでいきそうな部分である。
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進化が肌で感じられる
SRでもうひとつ素晴らしいのがハンドリングだ。フレームやディメンションは70年代から変わっていないし、相変わらず前後18インチのバイアスタイヤだ。けれどこの車体だからこそ、17インチラジアルの高剛性フレームとは違って、実用速度域で軽快なハンドリングにすることができる。それがサスペンションやブレーキの改良で進化しているのである。
柔らかめにセットされ、シットリしたダンピングの利いたフロントフォークやリアサスのおかげで乗り心地も良く、交差点では18インチタイヤらしい軽快さを発揮して、気持ち良くバンクしていく。サスが適度に動いてくれるから、ノンビリ走っている時でもスロットルやブレーキの操作に合わせて体重移動してやればマシンはさらにキビキビ動く。18インチタイヤを装着したマシンの中でも比較的マッタリとした感じ。スポーティーに走りたいライダーなら、サスペンションを含めて手を入れればシャキッとさせることもできる。何しろ昔はサーキットや峠で大暴れしていたマシンだ。ポテンシャルは高い。
ついでに書いておくと、SR400に使用されているフロントフォークはクラシックバイクレースのチューニングパーツとしても人気が高い。見た目がクラシカルなのに内部の構造にも妥協がなく動きが素晴らしいからだ。それくらい性能の高いパーツが使われているのである。
現行のSR400は、長い年月をかけて作り込まれた結果、パワー、トルク感、排気音、ハンドリング、すべてが心地良くてちょうどいいところに落ち着いている。オーソドックスな普通のバイクというものは、世の中にたくさんあるのだけれど、ここまで完成されたマシンというものは他にない。シングルエンジンを搭載したオートバイはたくさんあるけれど、乗り比べてみれば、どれだけSRが洗練されているかわかるはずだ。
厳しい排ガス規制に対して単に延命させるのではなく、もっと魅力的にしていこう。そんなヤマハの思いが伝わってくる。素晴らしいバイクになったと思う。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=関 顕也)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2085×750×1100mm
ホイールベース:1410mm
シート高:790mm
重量:175kg
エンジン:399cc 空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ
最高出力:24ps(18kW)/6500rpm
最大トルク:28Nm(2.9kgm)/3000rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:40.7km/リッター(国土交通省届出値)/29.7km/リッター(WMTCモード)
価格:57万2400円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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