ジャガーEペースR-DYNAMIC SE P250(4WD/9AT)
SUVの皮をかぶったスポーツカー 2019.03.09 試乗記 ジャガーのエントリーSUV「Eペース」に試乗。舞台として選ばれたのは冬の長野・白馬村。冬季オリンピックが開催されたこの地で、同車自慢の4WD性能を試すはずだったのだが……。前日の雨で路面から雪は消えていた。ジャガーの末っ子SUV
英国を代表するプレミアムブランド、ジャガーのエントリーSUVであるEペース。何の予備知識もなくその姿カタチを見ても、これはまぎれもなくジャガーの一員であると分かる。精悍(せいかん)でマッシブな印象を与える兄貴分の「Fペース」に比べマイルドさも感じられるEペースのフロントマスクは、ボルボの「XC60」と「XC40」の関係にも似ていると思う。
ジャガーに敬意を払ってネコ科の動物に例えてみると、Fペースが「アジアンレパードキャット」だとすれば、Eペースはさしずめ「ベンガル」。「ネコ好きじゃないから分からない」という方のためにご説明すれば、前者が東南アジアに生息する野生種で、後者がそのアジアンレパードキャットをベースにいわゆるペットとして改良された品種。見た目は似ており、どちらも身体能力が高く運動量が多い。ただし、アグレッシブさのレベルが野生種とペットではやはり大きく違うのである。
ジャガーのラインナップを眺めてみれば、SUVのFペースに対してセダンの「XF」、同じくSUVのEペースに対してセダンの「XE」という関連付けができそうだが、世の中そう単純ではない。Eペースは「レンジローバー・イヴォーク」との関連が深く、プラットフォームも基本供用している。したがってFペースやXF、XEが後輪駆動用のプラットフォームをベースにしているのに対して、Eペースは前輪駆動用、すなわちエンジンが横置きで搭載される点で大きく異なっている。
一方、Eペースとイヴォークの2台は、足まわりが少々異なっている。イヴォークのサスペンションが前後ともストラットであるのに対して、Eペースはリアがリンクストラットと呼ばれる形式。このリンクストラットは、Fペースのインテグラルリンク式サスペンションと構造がほぼ同じだが、サイズやサブフレームの取り付け位置などに違いを見いだせる。
参考までに各車をホイールベースの長さ別に並べてみると、Eペース:2680mm<XE:2835mm<Fペース:2875mm<XF:2960mmという順番になる。車種によって細かく設定を変えているあたり、走りを重要視するブランドらしいこだわりだと感心する。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
どんな路面も自信をもって進める
今回の試乗コースは、冬季オリンピックの舞台ともなった長野・白馬~長野市内までの雪上……のはずだった。しかし前日までの大雨で路面にほとんど雪はなく、それでも雪を求めて走れば、交通量の少ない道で路肩部分に若干雪が残っているような状況だった。したがって残念ながら、本来の目的だったEペースの“ガチ”な雪上性能が試せていないことを、あらかじめお断りしておかなくてはならない(実は雪上試乗がまともに行えなかった理由がもうひとつあるのだが、これは後述)。
「P250」と名付けられた試乗車が採用する4WDシステムは、前輪と後輪のトルクを路面状況によって可変。ブレーキを用いたトルクベクタリングシステムも組み込まれた、エフィシエントドライブラインとジャガーが呼ぶシステムになっている。ドライ路面を走行する通常時は、前輪にそのトルクのほとんどが配分されているが、何らかの事情で前輪のトラクションが減ったと車両が判断すれば、後輪のトルクを適宜、一瞬で増やす。
しかし、オンデマンド4WDであるという先入観を持っていても、実際にステアリングを握り感じた走りは、極めて自然だった。つまり、走行中はことさら前輪の駆動力を意識させることなく、かといって後輪に駆動力が配分された瞬間、挙動が変わって走行フィールに違いをみせるわけでもなかった。
たまたまカーブの途中で路肩に残った雪(前日の夜に気温が下がり凍った状態)に左輪が乗り、左右輪のグリップ(右輪はドライ)が明らかに違うようなシチュエーションに陥っても、ステアリングを切ったまま何事もなくクリアすることができる。ドライバーに負荷をかけない、何も意識させない安定感ある走りは、地味ではあるものの、速さやハンドリングの楽しさと並んで称賛されるべき性能だろう。
言い方を変えれば、緊張感を強いることなくクルマ任せでどんな路面やシチュエーションでも自信をもって進んでいけるのはありがたい。試乗車が履いていたのは、どちらかと言えば高速走行時のスタビリティーを重視したコンチネンタルの「コンチバイキングコンタクト6」スタッドレスタイヤ。それでも身構えることなく、路面に残った雪を越えていくことができた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ジャガーらしいドライバーとの一体感
冬場の長野であっても、ある程度除雪された路面や今回のようにドライ路面と雪解けの水たまりが交互に現れるような道を進む分には、Eペースにおいてなんら不都合など生じない。P250の上には「P300」、すなわち同じ2リッター直4ターボながら最高出力が300psにアップしたモデルも用意されるが、250ps仕様であってもパフォーマンスに不足はない。
右足に連動したかのように吹け上がるこのパワーユニットは、いつ乗っても秀逸だと感じる。9段ATとのマッチングもよく、ドライバーの意思にシンクロするかのごとく即座にパワーを生み出してくれる。DCTのような忙(せわ)しないイメージなしに、最低限の変速ショックでいつの間にか速度が上がっていく。
ボディーが軽く感じられる走りもこのクルマの魅力で、コンパクトなサイズを武器に、ワインディングロードでもドライバーの実力以上と思わせる気持ちのいいコーナリングをみせてくれる。2tをわずかに切る1910kgという車重なれど、とてもそうは感じさせない。
よく動く足でもって、フラットな路面で披露してくれるドライバーとの一体感あふれる走りは、SUVにカタチを変えても、Eペースがスポーティネスを大切にするジャガーのまぎれもない一員であることを思い出させる。狙ったラインを正確にトレースし、気が付けば速く快適なのだ。4WDのパフォーマンスと同じように何かを主張するわけではなく、さらりとそうしたことをやってのける。それは一流アスリートがただ走っているだけで美しいように、自然体のまま、全身がスポーツカーとして成立しているとでも言おうか。
冷静に考えてみれば、イヴォーク由来となるプラットフォームは、発表から結構な時間がたつ新しいとは言えないものだ。そのイヴォークは第2世代に移行し、間もなく日本にも新型モデルが上陸するだろう。Eペース自体は2018年に日本上陸を果たしたブランニューモデルだが、出自は前述の通りである。それでも古さを感じないのは、熟成が正しい方向性をもって行われたからに違いない。プラットフォームの開発年次が、そのままパフォーマンスに直結はしないという事実が確認できたように思える。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
雪道では判断力がモノをいう
久しぶりに味わったオンロードでの出来栄えに感心しつつも、ここは長野である。せっかくなので本格的な雪上の走りを楽しもうと、アンジュレーションや結構な勾配を持つテーブルトップなどが作られた試乗のための特設コースに乗り入れてみる。
と、そのハードなコースは、ランドローバー用だという。当然だ。いかにSUVにカテゴライズされオーバーハングが短くても、前後のスポイラーデザインはたしかにオフロード向けではない。スポーティーなルックスを引き立てる、オンロードユース前提のデザインである。フロントで265mm、リアで215mmの最低地上高は、その数値だけを見れば立派にも思えるが、オフロードではアプローチアングルやデパーチャーアングルがモノをいう。
そんな経緯もあって、ジャガー向けとされた整地済みの雪原に案内され、そこで4WDの走破性でも試そうかとEペースで走りだしたところ……見事にハマった。きれいに4輪が沈む、まさに絵に描いたようなスタックである。
実は前日の雨の後、一晩たった当日朝の冷え込みによって雪原の表面こそアイスバーン風だったが、その下の地表に近いところまでは固まらず、2tの重さが加わったとたんにタイヤの接地部分だけが大きく沈み込んでしまったのだ。人間が歩く分には、“いい感じ”のアイスバーンなのだから始末が悪い。知らずに入った「レンジローバー」を含む4台が餌食となった。
ところがレンジローバーたちはオフロードモードに入れて最低地上高を引き上げ、自慢のテレインレスポンスを用いて見事に脱出。残されたわがEペースは、自慢の「ロートラクションローンチ」の出番もなくレスキューのために用意されていた重機のお世話になった。スキーを趣味とし、学生時代からゲレンデ通いを続けており比較的雪道の経験が豊富だと思っていても、このざまである。
電子デバイスの恩恵で今の4WDは昔のそれとは比較にならないほど進化してはいるが、最終的には物理的条件(今回の場合は雪の深さと最低地上高の関係)がモノをいうワケだ。同時に雪道やオフロードでは、行けるかどうかの正しい判断もまた重要だと身に染みた。時には勇気をもってこの先に進まないというジャッジもできなくてはならない。走るたびに違った表情を見せる雪道には、まだまだ学ぶべきところが多いとつくづく思った冬の白馬だった。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ジャガーEペースR-DYNAMIC SE P250
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1900×1650mm
ホイールベース:2680mm
車重:1910kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:249ps(183kW)/5500rpm
最大トルク:365Nm(37.2kgm)/1300-4500rpm
タイヤ:(前)235/55R19 105W/(後)235/55R19 105W(コンチネンタル・コンチバイキングコンタクト6)
燃費:11.2km/リッター(JC08モード)
価格:650万円/テスト車=875万5000円
オプション装備:メタリックペイント(8万8000円)/コンフィギュアルインテリアムードランプ(5万6000円)/ハンズフリーテールゲート(1万9000円)/パーフォレイテッドエクリプスウィンザーレザースポーツシート(55万4000円)/電動18ウェイフロントシート<フロントシートヒーター メモリー機能付き+リアシートヒーター>(25万8000円)/ストレージパーティションネット(2万4000円)/レッドブレーキキャリパー(6万1000円)/セキュアトラッカー(9万9000円)/追加パワーソケット(3万3000円)/マトリックスフルLED(14万円)/ジャガースマートキーシステム(0円)/アクティビティーキー(6万5000円)/パノラミックルーフ(19万円)/デジタルTV(11万9000円)/ヘッドアップディスプレイ(19万6000円)/コンフィギュラブルダイナミクス(0円)/フロアマット(2万円)/プライバシーガラス(6万7000円)/イオン空気清浄テクノロジー(2万1000円)/スマートフォンパック(3万8000円)/フルTFTインタラクティブドライバーディスプレイ(11万2000円)/コールドクライメイトパック(9万5000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(0)/山岳路(5)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
トヨタGRヤリス/GRカローラ/GRヤリスMORIZO RR プロトタイプ【試乗記】 2026.5.4 進化を続ける「トヨタGRヤリス」と「GRカローラ」の、最新バージョンに試乗。硬派な4WDスポーツならではの、サスペンションチューニングの難しさを知るとともに、100台の限定モデル「GRヤリスMORIZO RR」に、そのひとつの回答を見いだすことができた。
-
シトロエンC5エアクロス マックス ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.5.2 シトロエンのコンセプトカー「OLI(オリ)」の思想を継承する新デザイン言語を用いた2代目「C5エアクロス」が上陸。ステランティスの最新プラットフォーム「STLAミディアム」や48Vマイルドハイブリッド機構によってどう進化したのか。その走りを報告する。
-
アストンマーティン・ヴァンテージS(FR/8AT)【試乗記】 2026.5.1 英国の名門アストンマーティンのスポーツモデル「ヴァンテージ」が、「ヴァンテージS」に進化。より高出力なエンジンと進化した足まわりを得たことで、その走りはどのように変わったのか? パフォーマンスを存分に解放できる、クローズドコースで確かめた。
-
ディフェンダー110オクタP635(4WD/8AT)【試乗記】 2026.4.29 「ディフェンダー」シリーズの旗艦「オクタ」が2026年モデルへとアップデート。メカニズム面での変更はごくわずかのようだが、その速さと快適さは相変わらず圧倒的で、それはオンロードでもオフロードでも変わらない。300km余りをドライブした印象をリポートする。
-
ケータハム・スーパーセブン2000(FR/5MT)【試乗記】 2026.4.28 往年のスポーツカーの姿を今日に受け継ぐケータハム。そのラインナップのなかでも、スパルタンな走りとクラシックな趣を同時に楽しめるのが「スーパーセブン2000」だ。ほかでは味わえない、このクルマならではの体験と走りの楽しさを報告する。
-
NEW
ジープ・アベンジャー4xeハイブリッド アップランド(4WD/6AT)【試乗記】
2026.5.6試乗記ジープのなかでも最も小柄な「アベンジャー」に、4WDのマイルドハイブリッド車「4xe」が登場。頼りになるリアモーターと高度なマルチリンク式リアサスペンションを備えた新顔は、いかなる走りを見せるのか? 悪路以外でも感じられる、その恩恵を報告する。 -
NEW
第111回:新型BMW i3(後編) ―BMWの挑戦が浮き彫りにした、BEVセダンのデザイン的課題―
2026.5.6カーデザイン曼荼羅BMWが発表した新型「i3」は、スポーツセダンの世界的ベンチマーク「3シリーズ」の電気自動車(BEV)版ともいうべきモデルだ。彼らが思い描く、BEV時代のセダンの在り方とは? そこから浮かび上がる、未来のセダンの課題とは? カーデザインの識者と考えた。 -
NEW
バンコクモーターショー訪問記 「ランドクルーザー“FJ”」目当てに出かけた先で起きた大事件
2026.5.6デイリーコラム年に2度開催され、毎回盛況のバンコクモーターショーをライターの工藤貴宏が訪問。お目当てはついに正式発表&発売の「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だったのだが、現地では数十年ぶりとなる大事件が起きていた。会場の様子とともにリポートする。 -
アルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ プレミアム(FWD)【試乗記】
2026.5.5試乗記アルファ・ロメオのコンパクトSUV「ジュニア」にラインナップする電気自動車「ジュニア エレットリカ プレミアム」に試乗。1973年型の「GT1600ジュニア」を所有していたかつてのアルフィスタは、最新のフル電動アルファに触れ、何を感じたのか。 -
“ウインカーのカチカチ音”は、どんな理由で決められているのか?
2026.5.5あの多田哲哉のクルマQ&Aウインカー(方向指示器)を使う際の作動音は、どんなクルマでも耳にする一方、よく聞くとブランドや車種によって差異がある。一体どんな根拠で選定されているのか、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタGRヤリス/GRカローラ/GRヤリスMORIZO RR プロトタイプ【試乗記】
2026.5.4試乗記進化を続ける「トヨタGRヤリス」と「GRカローラ」の、最新バージョンに試乗。硬派な4WDスポーツならではの、サスペンションチューニングの難しさを知るとともに、100台の限定モデル「GRヤリスMORIZO RR」に、そのひとつの回答を見いだすことができた。
















































