第27回:メルセデス・ベンツAクラス
2019.03.20 カーデザイナー明照寺彰の直言 拡大 |
これまでのデザインから一転して、シンプル路線へと舵を切ったメルセデス・ベンツ。新しくなった「Aクラス」も、そうした流れをくむ一台だ。“スリーポインテッドスターのこれから”を具現したコンパクトハッチバックに、現役のカーデザイナー明照寺彰は何を思う?
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煩雑だったサイドビューとはお別れ
明照寺彰(以下、明照寺):「CLS」のときにもお話ししましたが、最近メルセデスはキャラクターラインをなくしたり、整理したりして、極力シンプルに見せようとしてるんですよ。
永福ランプ(以下、永福):期せずしてBMWやマツダとともに、ですね。
明照寺:(画像を見せながら)これがAクラスの旧型と新型です。旧型と比べると、新型Aクラスは結構ボンネットが下がっていて、前から後ろまでズバーンと行く勢いがあって、カタマリ感も出ていると思います。逆に、こうして久しぶりに旧型Aクラスのサイドビューを見ると、プロポーションは悪くないんですが、ドア面が結構煩雑だったと思いますね。いまさらですが。
永福:新型と比べると、旧型はキャラクターラインだらけで、ずいぶんこれ見よがしに感じるなー。出たときは全然自然に思えたんですけど。
ほった:この頃はキャラクターライン全盛期で、どのメーカーもこんな感じでしたからねぇ。
明照寺:いま旧型Aクラスのサイドを見ると、何の脈絡もない感じがするんですよ。どのラインも起点と終点にあまり説得力が感じられない。この頃のメルセデスはみんなこんな感じでした。CLSだって、前型はまさしくこんな感じで。
永福:あの頃はこれがトレンドだったんですね。
明照寺:それに比べると新型Aクラスは、逆スラント的なグリルから始まった形がズバーンとそのまま後ろに流れてて、ボディーサイドもその流れに沿った感じがするわけです。
リアビューに漂う“これじゃない感”
明照寺:ただ、リアまわりに“フロントから出発した勢いの終点”というイメージがない。なんか、リアまわりだけ“これじゃない感”があるんですよ。
永福:個人的には、斜め後ろから見た時の新型Aクラスって、メルセデスっぽい威厳とか攻撃性が感じられなくて、とってもホンワカしてて好きなんですけど。
明照寺:個々で見るならいいんですけど、クルマ全体ではもうちょっと一貫性が欲しいところですね。フロントサイドからきた流れの中で見ても、一貫性のなさを感じる。例えば、ドアパネル下部のキャラクターラインがリアに抜けていってますけど、ハッチバックにしろセダンにしろ、それがホイールハウスをまたいだ先で、どこにつながるのかがよくわからない。
ほった:ホントだ。
明照寺:なんというか、「つなげるならつなげる、つなげないならつなげないよ」というような感じの意思が感じられない。あいまいな感じがある。こういうあいまいさは、最近のメルセデスのすべてのモデルに感じるところです。
永福:ちょっと詰めが甘いんだ。
明照寺:(写真を示しつつ)これは「アウディA3セダン」です。個人的には、このクラスのセダンの中では、これが一番デザインがいいかな、と思ってます。サイドからの関係がそのままリアにもきてるでしょう。シンプルにそのままズバーンとつながってる。リアから見たたたずまいもしっかりしてて、シンプルだけど、すごくいいリアビューをしてるんじゃないかなと思います。
永福:シンプルに首尾一貫ですね。
明照寺:一方の新型Aクラスは、リアコンビランプのグラフィックも含めて、あまり必然性が感じられない。
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ちょっとクセがあるくらいがちょうどいい
永福:個人的には、逆に顔だけ取って付けたように浮いている気がしました。顔以外は自己主張の弱い、優しいフォルムの癒やし系で、従来のメルセデスのイメージを覆す感じがある。ある意味日本車的な。
ほった:後ろから見ると日本車っぽいですよね。
永福:ハッチバックはシュッと痩せた「三菱コルトプラス」みたいな。どこか懐かしい感じがして、シンパシーを感じてしまったよ。
明照寺:私は、「リアだけがちょっと疑問かな」という感じですね。とはいえ、結構フロントもロー&ワイドなイメージで精悍(せいかん)だし、インテリアもこのクラスの中では先進的だし、総合的に見ると商品力は高いと思います。個人的にも、「買ってもいいかな」という気がしなくもないです。
永福:私もです。私の場合は、顔以外の癒やし感に引かれるなぁ。でも顔くらいは勢いがないと、メルセデスなのに前のクルマがまるで譲ってくれないだろうから、総合的にはこれでちょうどいいのかも(笑)。
ほった:市場的には、これはこれでよかったりするのかもしれませんねぇ。
明照寺:そうですね。まあ、総評はそんな感じで。全体的には普通にいいデザインに仕上がっているのかなと思いますし。
永福:顔だけ、あるいはリアだけ浮いてるのも、「あたばにえくぼ」というか、ちょいバランスが崩れているところを逆に好きになったりしますからね。まったくスキがないA3より。
ほった:女性の好みに似てるかもしれませんね。
永福:あくまで男性目線だけど、女性とクルマはかなり近い存在だよね。愛する対象として。
上から下まで“同じ顔”で大丈夫?
明照寺:ただ、それにしても疑問なのは、なぜ上級車からボトムまで“同じ顔”にするのかっていうところですね。グリルとかランプの基本的なデザインはそろえても、バランスや線の質などは、他のメーカーは変えてくるじゃないですか。だけど新型Aクラスは、本当に驚くほどCLSと変わらない。今後出てくるであろう他のメルセデスも、たぶんこの顔なんじゃないでしょうか。
ほった:その気配が濃厚ですね。
明照寺:もちろん戦略があってのことなんでしょうけど、ここまで一緒だと、ごく普通に考えるとですよ、エントリーモデルのお客さまはいいでしょうけど「Sクラス」などのハイエンドのユーザーからすると、ちょっとイヤじゃないのかな? と。
永福:ごく普通に、それは思いますね。
明照寺:これは日本人の感覚なのかもしれないですけど、そこら辺の戦略がどうなってるんでしょう? グリルとヘッドランプだけじゃなくて、フォグランプまわり含めて同じですから。
永福:そういう意味でも、Aクラスは一番有利な立場ですよね。これからSクラスが自分の後を追ってくるんだから。
明照寺:そういうことですね(笑)。
(文=永福ランプ<清水草一>)

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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