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第13回:メルセデス・ベンツCLS(前編)

2018.11.21 カーデザイナー明照寺彰の直言 明照寺 彰
「メルセデス・ベンツCLS」
「メルセデス・ベンツCLS」拡大

プレスラインの極端に少ない、シンプルなデザインが特徴の「メルセデス・ベンツCLS」。メルセデスが「新世代デザインの嚆矢(こうし)」とうたうこのクルマは、現役のカーデザイナー明照寺彰の目にどう映ったのだろうか?

2004年に誕生した初代「CLS」。今ではおなじみとなった、ドイツプレミアムブランドの4ドア/5ドアクーペの先駆けとなった。
2004年に誕生した初代「CLS」。今ではおなじみとなった、ドイツプレミアムブランドの4ドア/5ドアクーペの先駆けとなった。拡大
3代目となる現行型「CLS」。プレスラインを極力排した、シンプルで丸みを帯びたデザインが特徴。
3代目となる現行型「CLS」。プレスラインを極力排した、シンプルで丸みを帯びたデザインが特徴。拡大
「CLS」の競合車種である「アウディA7スポーツバック」の、フロントまわりのサイドビュー。
「CLS」の競合車種である「アウディA7スポーツバック」の、フロントまわりのサイドビュー。拡大
「CLS」のフロントまわりのサイドビュー。長いノーズに短いフロントオーバーハング、ドアからやや距離を置いて配置されたタイヤなど、FR車ならではの特徴を生かし、さらに強調したスタイリングとなっている。
「CLS」のフロントまわりのサイドビュー。長いノーズに短いフロントオーバーハング、ドアからやや距離を置いて配置されたタイヤなど、FR車ならではの特徴を生かし、さらに強調したスタイリングとなっている。拡大

“プロポーション命”の直球勝負

ほった:……えー。今回のお題はメルセデス・ベンツCLSです。初代の登場時には、日本じゃ「『カリーナED』の再来?」とネガティブな反応が多かったクルマですけど、その後は4ドアクーペ路線が多くのブランドで定着して、市場的には正解だってことが証明されたわけですが……。明照寺さん、どうですか? 3代目のデザインは。

明照寺彰(以下、明照寺):CLSは4ドアですけどクーペなので、“趣味のクルマ”という側面が強いと思います。(タブレットに写真を表示しつつ)で、これが恐らく競合するだろう「アウディA7」。こうして見比べると、新型CLSにはサイドのキャラクターラインというものがないんですね。

永福ランプ(以下、永福):のぺーっとしてますね。

明照寺:下のほうにはありますけど、そこから上には何もないじゃないですか。つまりこれは、完全にプロポーションで見せてる。プロポーションがこうだから成立しているデザインだと思います。

永福:小細工をしていないんですね。

明照寺:アウディA7って、例えばサイドビューの後ろ半分を隠してみると、比較的どこにでもあるセダンに感じますよね。それに対してCLSは、前を隠しても後ろを隠してもスポーティーに見えます。つまり、A7がリアですごく頑張ってクーペライクに見せているのに対して、CLSはFRのプロポーションを武器に、それだけでスポーティーさを十分に表現している。加えて、ウエストラインより下に対して上のキャビンの比率をとても小さくしてる。もうそれだけで、つまりプロポーションだけでクーペの勢いやスポーティーさを表現できているというのが、第一印象ですね。

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もう少し工夫があってもいいのでは?

永福:キャラクターラインをなくしたというのは、くしくもBMWの「X2」や新型「3シリーズ」と軌を一にしている印象もありますが。今後世界のデザイントレンドは、こっちの方向へドーッと流れていくんでしょうか。

明照寺:キャラクターラインに頼らないデザインが、今後主流になるのかなぁとは思います。「トヨタ・カローラ スポーツ」の時にも話しましたけど、これからどんどんクルマのデザインがシンプルになっていくんじゃないかってことですね。そんな中、メルセデスはこれがデザイン改革の一番手みたいな触れ込みですが。

永福:……実際、これってカッコいいですか?

明照寺:それは非常に難しい質問ですね(笑)。自分としては、どこかとりとめのないデザインだと感じます。

永福:とりとめがない……。実はディーラーに実車を見に行ったんですけど、サイドがすごくシンプルで、ちょっと安っぽく見えたんです。シンプル・イズ・ベストとは言いますが、う~ん、本当にこれでいいのかなぁ、って感じました。アウディ的にサイドのキャラクターラインのエッジが立ってると、それだけでちょっと高級に見えるじゃないですか。CLSはそれがまったくないので。

明照寺:フォルムがすごく単純なんですよ。単純すぎて、デザイナーの工夫が感じられないんですよね。

永福:あえて工夫を捨てた、断捨離デザインですかね?

明照寺:うーん。これはデザイナーとしての私見ですけど、モデリング(デザイナーのスケッチを参考に、モデラーがクレイモデルを使ってデザインを立体に起こす作業)にはすごく時間かけたのかな、っていう気がします。逆にデザインは、そんなに時間かかってないだろうなと。

永福:つまり、デッサンはシンプルで、その分クレイモデルの段階での微調整というか、作り込みには時間をかけたというわけですね。

明照寺:あくまで憶測ですけどね。

当連載でも取り上げた「トヨタ・カローラ スポーツ」(上)と「BMW X2」(下)。複雑なプレスラインではなく、シンプルな面構成でクルマをデザインするのが、世界的なトレンドとなりつつある。
当連載でも取り上げた「トヨタ・カローラ スポーツ」(上)と「BMW X2」(下)。複雑なプレスラインではなく、シンプルな面構成でクルマをデザインするのが、世界的なトレンドとなりつつある。拡大
「アウディA7スポーツバック」のリアビュー。エッジの立ったプレスラインを走らせるのは、プロダクトの精密さや高級感を表すうえで有効な手法だ。
「アウディA7スポーツバック」のリアビュー。エッジの立ったプレスラインを走らせるのは、プロダクトの精密さや高級感を表すうえで有効な手法だ。拡大
明照寺:「新しい『CLS』って、シンプルなのはいいんですけど、フォルムが単調でデザイナーの工夫が感じられないんですよね」
明照寺:「新しい『CLS』って、シンプルなのはいいんですけど、フォルムが単調でデザイナーの工夫が感じられないんですよね」拡大
3代目「CLS」のデザインスケッチ。
3代目「CLS」のデザインスケッチ。拡大
リアビューでは、丸みを帯びたショルダーラインが目を引く。
リアビューでは、丸みを帯びたショルダーラインが目を引く。拡大

これが、これからのベンツの顔?

明照寺:最初のスケッチは、引き算、引き算で考えたんじゃないかな。肯定的に言うと、どんどん省いてシンプルにした。だけど実車を見ると、なにも工夫してないじゃないかと感じてしまうんですよ。盛りすぎてダメになる例もあるんですけど、CLSについては、もうちょっと何かないのかと。それによって、高級感とか上質さとかがより感じられるものにできたんじゃないのかと。今のCLSだと、「前から後ろに続くショルダーラインがあって、あとはドアをドーンと付けただけで終了」っていう感じがします。

ほった:このデザイン、メルセデスは「このCLSが始まりだ」って言ってますけど、個人的には「AMG GT」が本当の始まりだったんじゃないかなっていう気がしてるんです。あれもサイドのプレスラインが少なかったですよね。

明照寺:そうかもしれませんね。逆スラント的なところから立体が始まるっていう点は、多分そこからヒントを得たのかなあと。フロント部のサイドビューを比べて見ると、これがCLSで、これが新型「Aクラス」、そしてこれがAMG GTの4ドアで……。

永福:えっ? これが新型Aクラスですか?

ほった:Aの4ドアですね。

永福:うわ~、ぜんぜん見分けつかないや。

明照寺:私も比べてみてびっくりしたんですけど、細かいディテールまでほぼ変わらないんですよ。もちろんシルエットは違うし、キャラクターラインにも差はあるけれど、顔まわりをこれだけ似せてくるっていうのは、CLSのこの顔が「これからのメルセデスにとって、決して特別なものではないよ」ということなんでしょうね。

永福:今後、全部この流れになる予感がビンビンしますね~。

(文=永福ランプ<清水草一>)

明照寺:「この『CLS』って単純すぎて、“ドアをドーンと付けただけ”に見えちゃうんですよ」
明照寺:「この『CLS』って単純すぎて、“ドアをドーンと付けただけ”に見えちゃうんですよ」拡大
ほった:「個人的には、新型『CLS』のぬるりとしたデザインの路線って、『AMG GT』が始まりだと思ってるんですけど」
明照寺:「どうでしょう。逆スラントのフロントマスクから立体が始まる、という点では、そうかもしれませんね」
ほった:「個人的には、新型『CLS』のぬるりとしたデザインの路線って、『AMG GT』が始まりだと思ってるんですけど」
	明照寺:「どうでしょう。逆スラントのフロントマスクから立体が始まる、という点では、そうかもしれませんね」拡大
2018年9月に登場した「Aクラス セダン」。
2018年9月に登場した「Aクラス セダン」。拡大
新型「CLS」のフロントマスク。見比べると、「Aクラス」のフロントマスクが本当にそっくりであることが分かる。
新型「CLS」のフロントマスク。見比べると、「Aクラス」のフロントマスクが本当にそっくりであることが分かる。拡大
明照寺 彰

明照寺 彰

さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。

永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。

webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。

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