マツダ3 開発者インタビュー
目指したのは“意のまま感” 2019.03.21 試乗記 マツダ株式会社車両開発本部 副本部長 兼 車両開発推進部長
松田健二さん
もうすぐ日本の道を走り始める新型「マツダ3」。新世代の“スカイアクティブテクノロジー”が投入されたハッチバック/セダンは、どのような考えとプロセスでつくられたのか? 車両開発を統括する松田健二さんに聞いた。
「歩く」ように「乗って」ほしい
マツダのエンジニアと話すと、みんなが同じ方向を見ていることが分かる。彼らが語る「いいクルマ」の像にブレがないのだ。それぞれ強いこだわりや考え方を持つ技術者たちがまとまって、思いを共有できるのはなぜなのか?
――マツダのクルマづくりでは一貫して「走る歓び」を目標に掲げていますね。試乗前のプレゼンテーションでも、エンジニアが繰り返し口にされていたのが印象的でした。
はい、「走る歓び」「人馬一体」ですね。それを実現するための「人間中心のクルマづくり」ということも常々言ってるんですが、マツダ3の開発ではあらためてその原点に戻り、「人間中心ってこういうことだよね」と定義し、コンセンサスを得るということをやった。それが難しかったですね。
――「人間中心のクルマづくり」って、ちょっとテーマが大きすぎて分かりにくい気もするんですが。
人の感じ方、「あれがいい」「これがいい」というのはそれぞれですから、ひとくくりにするのは難しい。でも突き詰めて考えれば“意のまま感”というか、自分の思った通りにクルマが動いてくれる、というのが大事なのかなと。
――プレゼンでは、「人間の歩行を研究した」と仰(おっしゃ)っていたのが面白いと思いました。
「歩行」は人が無意識のうちに行っている行為ですよね。だから「歩いているのと同じようにバランスを保ち、クルマをコントロールできる」というのが、まさに“意のまま感”じゃないかと。
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目的を定めて逆算する
――無意識を顕在化し、それを技術に落とすというのは難しそうですね。
そこを見つけ出すのが一番しんどかったです。その方法として僕は、「『IPO』でモノゴトを整理してみよう」と言っています。インプット(I)があって、プロセス(P)があって、アウトプット(O)がある。非常に単純なんですけどね。「乗り心地」の性能をそれで考えてみるときれいに整理できる。「音」の世界も同じです。それを今回の開発では徹底してやりました。
――具体的にはどんなふうに進めるんですか?
じゃあ、これはここで見せるだけ、ということで……(と言って社内資料の紙を出す)。これはシートの事例のために作ったものです。まず僕らがお客さまに提供したいのは、「人馬一体」とか「走る歓び」である。これがアウトプットです。
――最終的な「目的」ですね。
はい。そのアウトプットを実現するためには、シートについては「快適」とか「疲れない」とか、そういう要素が必要だね、と。じゃあ人はどういう状態になれば「快適」で「疲れない」と感じるんだろう? 難しいですけど、そこをいろいろ考えるんです。
――アウトプットから“逆算”していくんですね。シートについて考える場合のインプットとはなんでしょうか?
まずお客さまがクルマに乗り、「シートに座る」ということです。クルマに乗るといろいろな“座り方”や“揺られ方”がありますから、その中で今度は「疲れない」を目的にして考えるんです。
――一段階ブレイクダウンして考えると。
そうです。「疲れない」がアウトプットになると、どういうシートで、クルマがどういう振る舞いをすればいいのか考えようということになる。今度はそれを考えるためのインプットは「路面からの入力」や「お客さまの体重」だということになり、それを研究し次の段階に進むんです。
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究極的には人間研究
――なんだかマトリョーシカみたいです(笑)。次から次へと次の“中身”が現れる。
どんどん中へ、中へと突き詰めていきます。クルマという乗りものをつかさどる因子は、シャシー、ホイール、タイヤ、シート……と本当にたくさんあるので、そのすべてについてこういうやり方でダダダーっと進めていくわけです。
――マツダのクルマはエモーショナルな部分を大切にしているというイメージがありますが、実際にはそうしてロジカルにつくられているんですね。とはいえ、数値化しにくい“感性”とか“感覚”をみんなで共有し、クルマに落とし込んでいくというのは、やはり大変だと思うのですが。
昔は「クルマのしっかり感が大事だ」と言うと、「じゃあ車体の剛性だな」ということになり、それをドンドン高めていくということをやっていました。剛性というのは数値化できるからやりやすいんです。でも、そうすると強固なクルマにはなりますが、それが心地よい、扱いやすいクルマかというと、ちょっと違うぞと。今は「しっかり感とはなんなんだ?」というところを考え、解きほぐしていこうとしているので、難しさはありますね。
――究極的には「人間」そのものを研究するということですよね。すると日本人と外国人でも、ずいぶん変わってきませんか?
実は人間の本質っていうのはあまり変わらないんです。もちろん体格差はありますけど、調整機能で対応できる範囲。それを僕らは「グローバルワン」と呼んでます。もちろん日本と海外で市場の環境は違いますから、それは開発の中に織り込んでいますが。
今度のデザインは大変
――エンジニアリングだけでなく、デザインについても“新しいマツダ”を感じます。
うちのデザイナーがよく言っている「引き算の美学」を表現したのが、そう感じられているんだと思います。ボディー曲面にキャラクターラインを入れるとか、そういうことをせずに“素”のままの美しさを追求しようと。それを実車としてカタチにするのがわれわれ開発陣の仕事で、なかなか大変なんですけど(笑)。
――「引き算の美学」をカタチにしようとすると、どんなところで苦労するのですか?
分かりやすい例で言うと、今回のマツダ3のボディーサイド曲面には凹凸がない。僕らは「逆ネガ」というんですが、エンジニアリング的には剛性面で不利なんです。
――折り目がついていたほうがいい?
トタン屋根と同じです。ただの平らな板ではペラペラだけれど、波型にすることで押してもたわまない、強さが増すという。でもそういうプレスラインを入れた“キン肉マン”にはしたくないわけです。柔らかい曲面のまま、求められる剛性をどうやって出すか、そういうところに苦心しました。
――2012年に登場した「CX-5」は、マツダの提唱した「スカイアクティブテクノロジー」と「鼓動デザイン」が“惑星直列”のようにつながった、エポックメイキングなクルマだったと思います。それが一周してすべてのラインナップに行きわたり、今回のマツダ3を起点にニュージェネレーションが始まるという気がするのですが。
「G-ベクタリングコントロール」や「i-ACTIV AWD」といった、絶えず進化させてきた技術群の開発が一段落して、それをヨーイドンで新車の中に入れることができたのがこのマツダ3、ということになると思います。
――スカイアクティブ第2章のスターターとなるマツダ3、早く日本のさまざまな道で乗ってみたいと思います。楽しみにしています。
(文=河西啓介/写真=ダン・アオキ、マツダ、webCG/編集=関 顕也)
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河西 啓介
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