メルセデスAMG GT(FR/7AT)/AMG GT S(FR/7AT)/AMG GT Cロードスター(FR/7AT)/AMG GT Rプロ(FR/7AT)
不易も自信があればこそ 2019.04.24 試乗記 仕様変更が施された、メルセデスの高性能スポーツカー「AMG GT」シリーズ。ベーシックモデルから限定20台のトップモデルまで、最新型のステアリングを握ってわかったこととは? ドイツから報告する。化粧直しはごくわずか
クーペにカブリオレ、日本でも発表されたばかりの4ドアモデルにレーシングモデルまで含めると、今やAMG GTのラインナップは15車種にも達する。今回参加したのは、AMGの本拠地アファルターバッハを起点とする、その2ドアクーペのフェイスリフト版のメディア向け試乗会。ホッケンハイムリンクまでの往復の一般道、そしてサーキットでの走行で、その進化ぶりを確認した。
デビューから4年たっての変更だが、その規模はそれほど大きくはない。すでに一昨年の「AMGパナメリカーナグリル」の採用で迫力を増していたフロントマスクには、「AMG GT 4ドアクーペ」にも使われているアロー形状のポジショニングライト/ウインカーを備えるLEDハイパフォーマンスヘッドライトが組み合わされ、アイデンティティーを一層強化した。
テールランプもLEDを用いた新デザインのものになり、「AMG GT R」以外ではリアバンパーも主にディフューザー部分に手が入れられた。なお、テールパイプはAMG GTが円形の、「AMG GT S」と「AMG GT C」がスクエア型の、デュアル ツインエキゾーストエンドが用いられている。
車内はずいぶん先進的に
従来のオーセンティックなスポーツカー的空間から、一気に先進感を高めたのがインテリアだ。最新デザインの「AMGステアリングホイール」の向こうにのぞくのは、12.3インチのTFTモニターを使ったフルデジタルインストゥルメントクラスター。多種多様な情報を整理して表示するだけでなく、“Classic”、“Sport”、“Supersport”の3つのモードに表示を切り替えて、好みに合ったコックピットを作り出すことも可能だ。
そしてセンターコンソール上には従来より格段にワイドな、10.25インチマルチメディアディスプレイを搭載する。これらの表示内容はステアリングホイールから手を離すことなく、スポーク上に設置されたタッチスイッチを使って運転中でも簡単に変更できる。
インテリアの特徴であるV型8気筒エンジンをモチーフにしたセンターコンソールには、新たにTFTを用いたディスプレイボタンが採用された。グラフィック表示のおかげで機能や選択中のモードが瞬時に判別しやすくなった。ステアリングホイールにも、やはりTFT内蔵のAMGドライブコントロールスイッチが備わっており、ドライブモードの切り替え、ESPやアイドリングストップなどの制御はここでも操作できる。なので、実際にはセンターコンソールに手を伸ばす機会は、そう多くはないに違いない。
ちなみに2ドアクーペの場合、シートヒーターやハザードといったスイッチは天井に付いている。「ロードスター」ではセンターコンソールのごく当たり前の位置に付くだけに、使いやすいわけではないこの場所にこだわる必要はないと思うのだが。また、タッチパッドに蹴られて、かなり手前に置かれたシフトセレクターも相変わらず操作しにくい。いっそMBUXの音声コントロールに託して、タッチパッドを廃止してもいいのにと思ったが、残念ながらAMG GTには新型でもMBUXは未設定なのだった。
違いは乗り心地に表れる
ボディーやシャシー、パワートレインなどの走りに関わる部分については特に変更点はアナウンスされていない。目新しいところといえば、まずスロットルやギアボックスの特性、ダンパー減衰力、排気音などを好みで変更できるAMG DYNAMIC SELECTが、「Slippery」を含む6モードとされたこと、そして「Basic」「Advance」「Pro」「Master」の4モードで電子制御式LSD、トルクベクタリング、後輪操舵の制御を変更するAMD DYNAMICSが新たに設定されたことが挙げられる。それにしても非常に紛らわしく、ややこしいネーミングである。
サーキットまでの往復ではAMG GT、AMG GT S、そしてAMG GT Cロードスターを試したが、この日は雨模様だったこともあり、率直に言って一般道ではその動力性能の片りんしか確認することはできなかった。
いずれも低速域から力感たっぷりではじけるようにレスポンスし、トップエンドまでたけだけしく吹け上がるのは一緒。トランスアクスルレイアウトとされた7段DCTの変速感はダイレクトで、パワーを余すことなくトラクションへとつなげてくれる。
一方、ライドコンフォートには小さくない差があった。AMG GTは想像通り、この中では一番マイルド。タイヤサイズがおとなしいこともあって路面からの当たりが柔らかく直進性も上々で、ストレスなく走りを楽しめる。そこからAMG GT Sに乗り換えると、締め上げられたサスペンションの特に伸び側の減衰力が強すぎるようで常に体が揺さぶられるし、4輪のグリップ感がどうにも薄く、いろいろな意味であまりリラックスできなかった。この印象は以前と一緒。改良されてもよかったと思う。
AMG GT Cロードスターは、サスペンションこそさらに引き締まった印象だが、姿勢が常にフラットに保たれるためかえって快適と感じられた。ワイドトレッド、そして後輪操舵によってコーナリングでの安定感、安心感も上々。この3台の中では最も好印象だったといっていい。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
期待の高まる「Rプロ」
ホッケンハイムリンクで用意されていたのは新設定の「AMG GT Rプロ」。専用のCFRP製パーツ、空力アイテム、鍛造ホイール、バケットシート等々のほか、車高だけでなく減衰力も細かく調整できるダンパー、CFRP製のアンチロールバー、スフェリカルベアリングを使ったリアロアウイッシュボーン……と、サーキット走行をとことん楽しむための装備が満載されたモデルだが、今回は天候不順とマシントラブルで、そのパフォーマンスをうかがい知るような走りを試すことはかなわなかった。AMG GT Rの垂涎(すいぜん)の走りを思えば、期待できない要素は何もない。その領域はぜひ、実際にオーナーとなられた方に究めていただければと思う。
新型メルセデスAMG GTの変更点はほぼ内外装が中心で、走りの印象はほとんど変わりがなかった。きっと、それはゼロからのスタートからたった4年で、このセグメントにおいて一定の存在感を確立してきたことへの自信の表れに違いない。
先に記したように、この新型AMG GTはすでに日本でも発表済み。AMG GT Rプロについては限定20台の販売となり、すでに予約は埋まりつつあるとのことである。
(文=島下泰久/写真=メルセデス・ベンツ日本/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
メルセデスAMG GT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4544×1939×1287mm
ホイールベース:2630mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:476ps(350kW)/6000rpm
最大トルク:630Nm(64.2kgm)/1900-5000rpm
タイヤ:(前)265/35ZR19 98Y XL/(後)305/30ZR20 103Y XL(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:1645万円
オプション装備:--
※価格とスペックは日本仕様車のもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
メルセデスAMG GT S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4544×1939×1288mm
ホイールベース:2630mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:522ps(384kW)/6250rpm
最大トルク:670Nm(68.3kgm)/1900-5000rpm
タイヤ:(前)265/35ZR19 98Y XL/(後)305/30ZR20 103Y XL(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:1993万円
オプション装備:--
※価格とスペックは日本仕様車のもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
メルセデスAMG GT Cロードスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4551×2007×1260mm
ホイールベース:2630mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:557ps(410kW)/5750-6750rpm
最大トルク:680Nm(69.3kgm)/2100-5500rpm
タイヤ:(前)265/35ZR19 98Y XL/(後)305/30ZR20 103Y XL(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:2309万円
オプション装備:--
※価格とスペックは日本仕様車のもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
メルセデスAMG GT Rプロ
全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:585ps(430kW)/6250rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1900-5500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR19 100Y XL/(後)325/30ZR20 106Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:--km/リッター
価格:2900万円
オプション装備:
※価格は日本仕様車のもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。