第35回:シトロエンC3
2019.05.29 カーデザイナー明照寺彰の直言 拡大 |
ユニークなデザインで注目を集め、デビューとともに一躍人気モデルとなった現行型「シトロエンC3」。いまやすっかりブランドの屋台骨となっている同車のデザインは、現役のカーデザイナー明照寺彰の目にどう映るのか?
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オリジナルは「ジューク」じゃないの?
永福ランプ(以下、永福):シトロエンC3が非常によく売れてますよね。私は長年のシトロエンファンですが、シトロエンがこんなに一般層に受け入れられたのは初めてなのでビックリしています。
ほった:主に誰が買ってるんでしょう?
永福:大ざっぱに言えば、やっぱり都市部のオシャレ層なんだろうけど、実際に耳に入ってくるのは、クルマにそれほどこだわりのない中高年女性が「これ、かわいい!」って言って買ってったっていう話なんだよね。その最大の要因は、デザインと価格だろうと思うんですが、明照寺さんはC3のデザインをどう見ていますか?
明照寺彰(以下、明照寺):まずは顔まわりの話からさせてもらいますけど、ヘッドライトの機能を2つに分けてますよね。上側の細長いほうはデイライトなんですが、このデイライトをメインっぽいデザインに仕立てて、本物のヘッドライトをその下側に、いかにも「サブですよ」といった雰囲気で持ってきてる。昔のフォグランプ風に。これにはデザイナーとして「あ、こういう手があったんだ!」とうならされました。
永福:それは同感ですが、これの元祖は「日産ジューク」じゃないですか?
明照寺:そうです。もともとはジュークが始めた手法ですよね。ただ、C3はBセグメントコンパクトっていう非常にポピュラーなモデルで、決してデビュー当時のジュークみたいに特殊な存在じゃない。そういうポジションのクルマに、こういう本流から外れた、どっちがヘッドライトなのかいまひとつわからないようなデザインを持ち込んだことがスゴいんです。
永福:そうかなぁ。私はこれを見た瞬間に、「うわ、あのシトロエンが日産をパクった!」って、非常に誇らしい気持ちになったんですけど(笑)。
ほった:誇らしいって(笑)。
明照寺:(笑)シトロエンがこれを最初にやったのは「C4ピカソ」ですけどね。
ほった:C4ピカソ、今は「C4スペースツアラー」って名前になってますね。
“表現しているもの”が違う
明照寺:あれを見て、「フロントマスクで“目”になる部分をデイライトだけで完結させれば、顔がすごく精悍(せいかん)になるんだな。こういう手があったんだ」と感心していたら、他社でもやりだしたんですよ。特にヒュンダイは早かった。ヒュンダイって他社のアイデアを取り入れるのがすごく早いんです。具体的にはSUVの「サンタフェ」と「コナ」なんですが、このふたつも、顔の“精悍さ”のためにこういうつくり方をしています。だから、この2台もジュークとちょっと考えが違うんです。
永福:同じSUVだし、ヒュンダイの2台こそジュークの後追いじゃないんですか?
明照寺:手法は変わらないけれど、“表現しているもの”が違うんですよ。
永福:ジュークは精悍さが狙いじゃなかったってことですね。
明照寺:そうです。精悍さというよりも、これは……。
ほった:虫(笑)?
明照寺:“キャラクター”ですかね(笑)。別にこれはこれでいいんです。個人的にはジュークが出たときにも「すごいなぁ」と思いましたし。ただ、このテイストがクルマの本流かというと、そうじゃない。それがシトロエンのパターンだと、とがったキャラクターではなく精悍さにつなげているので、いろいろなクルマに応用が利くんです。これまでにも、いろんなメーカーがヘッドライトをなるべく小さく、薄く見せて、顔を精悍にしようと頑張っていたけれど、あまりコストをかけられない量産車でそれを実現するには限界があった。欧州ではデイライトが法規になっていて、皆ヘッドライトの中にシグネチャー、つまりグラフィック的なランプを仕込んで個性を出していますよね。あれも精悍さのアピールが目的ですが、シトロエンは「じゃあ、それだけ独立させてしまえ!」という考え方をしたわけです。
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これからますます流行しそう
永福:うーん。聞いてるだけだと、やっぱりジュークも同じじゃないかと思うんですが……。
ほった:どこまでもジュークにこだわりますね(笑)。
明照寺:いや、手法そのものは実際ジュークが最初ですし、ジュークはホントにすばらしいんですけど(笑)。でも日産自体、ジュークに続くモデルを出さなかったじゃないですか。
永福:それはそうですね。
明照寺:それに対して、シトロエンでは他のクルマにもこれを展開して、他社もすぐに追従し始めた。その差ですよ。
永福:その点は確かに、日産はもったいないことしてますね。もっとも、私も今この場ではジュークの肩を持ってますけど、個人的には好きじゃないんです。生理的にキツい(笑)。その点、この新しいカタチが世界の自動車デザイン界で高く評価されているというのは、明照寺さん的にオッケーなんでしょうか?
明照寺:まったくオッケーです(笑)。ジュークはこれまでのデザインとは違うことをしていました。特に顔まわりについては。ヘッドランプの話に戻ると、ジュークだと上側のランプはターンシグナルランプとポジションランプですよね。だから、上側は常に光っているわけじゃない。でもシトロエンはデイライトなんで、夜でも昼でも常時光ってるわけです。そこの考え方も、両車でちょっと違う。
ほった:細かいですねえ。
明照寺:それに、C3はデイライトの側にターンシグナルも付いてますよね。それでもあんなふうに薄く設計しているわけで、ここら辺にはそれなりにコストをかけてるんじゃないかと思います。ただ、下側のメインのヘッドランプはいたってフツーなハロゲンのパラボラランプでしょ。だから、こちらのコストは安いはずです。
ほった:そこで帳尻を合わせてるのか。
明照寺:たぶん今後、このコンセプトは他のブランドでも広がっていくんじゃないかな。そこがこのクルマというか、今のシトロエンデザインの最大のトピックじゃないでしょうか。
永福:こっちのほうがコンセプトとして広がりがあったってことですね。
ほった:そういや、三菱の「デリカD:5」もこういうデザインでしたね。まぁデリカのはハイ/ロービームも全部LEDっていう“お金持ち仕様”でしたけど。
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“SUVライク”でなくてもよかったのでは?
明照寺:ところでC3って、乗用車とSUVの中間を狙ったんですかね?
ほった:恐らく。
永福:SUV的なユーティリティーをイメージさせたかったのは確かなように思います。
明照寺:ところが、シトロエンには「C3エアクロス」というモデルも存在する。
ほった:この夏から日本でも販売が始まります。
明照寺:(写真を見せつつ)全高はC3より高いけど、あまり変わらないでしょう。個人的にはエアクロスのほうが好きなんですけど。
永福:……あれ、この2台は別物なの?
ほった:似てるけど別物ですよ。
明照寺:これ、実は全然違うんですよ。パネルもまったく違う。だったら、こんなにイメージをそっくりにしなくてもいいんじゃないかな、つまり普通のC3のほうはもっとシンプルにしてもよかったんじゃないかな、と思うワケです。
永福:言われてみれば。
明照寺:C3のデザインにはカタマリ感があって、特にリアビューやスタンスを見ると「さすがシトロエン!」という感じがします。ただ、ディテールに関しては、フランス車ってちょっと“余計なひと手間”をやりがちじゃないですか。そこがフランス車らしいんでしょうけど、今回はもっとシンプルに見せてもよかったんじゃないかと。
永福:エアバンプとかも?
明照寺:上級グレードのルーフの塗り分けなんかもですね。わざわざSUVテイストにしているグラフィックも含めて、もっとシンプルなほうがこのクルマらしいかなと。
永福:逆にそこがウケている気がしますけどねぇ、日本では。
ほった:評判よかったですもんね。C4ピカソのディーゼル追加もあって、あの頃のシトロエンは毎月みたいに「前年比ウン十%増!」ってなってた。
永福:すごい伸びてた。最近はちょっと落ち着いてるけど、今じゃ販売の9割がC3だっていうもんね。まぁ、今のシトロエンには2車種しかクルマがないんだけれど(笑)。
(文=永福ランプ<清水草一>)
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明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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