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CMの世界がいよいよ現実に……
“手放し運転”を実現した新技術を紹介する

2019.05.27 デイリーコラム 林 愛子

いよいよ公道でのハンズオフが可能に

これまでもたびたび論争を呼んだ手放し運転“ハンズオフ”。真っ先に思い起こされるのは日産自動車のテレビCMシリーズだ。矢沢永吉がこちらに向かってほほ笑みながら両手をスッと上げる。その動きのカッコよさと「やっちゃえNISSAN」というコピーの鮮烈さによって、このCMは自動運転への関心度を高めることに成功した反面、いますぐにでも実現可能な印象を与えることを懸念する声も上がった。

あれから3年以上が経過して法整備も進み、ついに日産から、ハンズオフを実現する運転支援システム「プロパイロット2.0」がデビューする。高速道路の本線でナビゲーションシステムと連動してしか使えなかったり、何かあればドライバーが即座にハンドルを握れる状態でなければならなかったりといった条件はあるものの、これで(CM上の演出ではなく)本当に、ドライバーはハンドルから手を離すことが許されるようになった。

ハンズオフ機能の実用化には、他社も積極的に取り組んでいる。ゼネラルモーターズで言えば「スーパークルーズ」、テスラでは「オートパイロット」がそれだ。またBMWは「ハンズオフ機能付き渋滞運転支援機能」を今夏以降「3シリーズ」や「8シリーズ」などに搭載すると発表した。いよいよハンズオフが本格的な普及期を迎えたと言えそうだ。

技術的には、ハンズオフ機能は被害軽減ブレーキや車線逸脱防止機能などと同じADAS(先進運転支援システム)に位置づけられる。ハンドルから手を放すことは普通に考えれば危険行為だが、システムがハンドル制御や車間距離維持などを担うことでドライバーの運転を支援し、ドライバーの負荷低減を図る。ただし、現状のハンズオフは自動運転のレベルで言えば「レベル2」相当。運転の責任はあくまでドライバーにあることを忘れてはならない。

「プロパイロット2.0」のテレビCMにて、“手離し運転”をしてみせる矢沢永吉。これまではCM上の演出でしかなかった手離し運転だが、新世代のADASの登場により、いよいよ公道でもそれが可能となる。
「プロパイロット2.0」のテレビCMにて、“手離し運転”をしてみせる矢沢永吉。これまではCM上の演出でしかなかった手離し運転だが、新世代のADASの登場により、いよいよ公道でもそれが可能となる。拡大

新しい機能を支える3D高精細マップ

ハンズオフのベースになる技術のひとつが、前方を走行する車両に追従走行するオートクルーズ機能だ。日本では一部の軽自動車にも採用されているもので、現行の“初代”プロパイロットにも「インテリジェントクルーズコントロール」として搭載されている。

プロパイロット2.0では、初代が有する機能を強化し、前方車両が遅い場合には“追い越し”が可能になった。想定されるシーンは、高速道路の本線にてナビゲーションシステムを連動させてハンズオフで走行しているとき。システムが周辺状況の情報から前方車両を追い越し可能だと判断したら、ドライバーにディスプレイ表示と音で車線変更をオファーする。ドライバーがハンドルに手を添えてスイッチを押せば、それが合図となってシステムは車線変更を実行。同様の仕組みで、追い越し車線から走行車線に戻ることもできる。

ハンズオフに自動での車線変更と、これらの新しい機能を実現する上で重要な技術のひとつが、3D高精細マップだ。目的地までを案内するナビに地図が必要なのは当然のことだが、人間のドライバーと比べると、自動運転システムが必要とする地図情報は量も質もまったく違う。

人間は、初めて走る道路でも、複数の車線のうち自車が走行する車線を判断できるし、隣の車線が走行車線か追い越し車線かもわかるが、機械にとってはこれが容易ではない。また立体交差やトンネルなど、平面では表しきれない構造もシステムにとってやっかいな存在だ。センサー類を充実させて超高機能なコンピューターでリアルタイム処理すれば、地図に頼らない走行も不可能ではないが、技術のロードマップとしてもコスト面で考えても、それは非現実的だ。そうした中で生まれたのが、3D高精細マップである。

「プロパイロット2.0」では“手離し運転”に加え、状況把握と自動操舵の技術の進化により、自動での車線変更も実現している。
「プロパイロット2.0」では“手離し運転”に加え、状況把握と自動操舵の技術の進化により、自動での車線変更も実現している。拡大

情報の付帯で広がる可能性

3D高精細マップは、自動走行に必要な道路情報が三次元で構築されている。立体交差はもちろんのこと、道路のアップダウン、路肩の構造物、信号などの地物情報も網羅。現行のナビと同じようにGPSで自車の位置を大まかに把握したうえで、3D高精細マップの情報と車載カメラなどで検知する地物や白線などの情報をマッチングさせ、自車位置の詳細を特定する。地図情報は先読みにも活用され、より一層の安全に貢献している。

こうした地図の開発は、当初は各社が独自に進めていたが、3Dで高精細の地図を全国規模で作製するとなると、膨大なコストと時間がかかる。しかも基本的な地図は差別化が難しく、各社で競争する利点はほぼない。そこで自動車メーカーやカーナビメーカーなどが共同出資でオールジャパンの地図会社を立ち上げた。それがダイナミックマップ基盤株式会社。同社は2018年度末に国内の高速道路・自動車専用道の3D高精細マップを完成させた。

現状、3D高精細マップはシステムによる自動運転の支援に使用されるが、今後は幅広い活用が期待されている。例えば、道路工事や清掃による車線規制、交通事故のような突発的な出来事を道路情報として即時提供できれば、利便性が高まるだろうし、店舗や施設が発信する情報を地図にリンクさせて、新しいサービスを提供できる可能性もある。また、車両をプローブとして気象情報を収集すれば、ゲリラ豪雨や竜巻のような急な天候の変化を、リアルタイムで情報共有できるかもしれない。

3D高精細マップとは、その名の通り道路情報を3Dデータ化したもので、実にcmレベルの緻密さを誇る。また、破線や白線、黄線といったすべてのレーンの区分線情報や、速度標識、案内表示、ランドマークなどの情報も含んでいる。
3D高精細マップとは、その名の通り道路情報を3Dデータ化したもので、実にcmレベルの緻密さを誇る。また、破線や白線、黄線といったすべてのレーンの区分線情報や、速度標識、案内表示、ランドマークなどの情報も含んでいる。拡大

長足の進歩を遂げたセンシング技術

もうひとつの重要な技術となるのが、カメラやセンサー類だ。プロパイロット2.0ではカメラ7台、レーダー5個、ソナー12個を搭載して360°のモニタリングを実現する。非常に大まかに言えば、カメラは画像認識に用いられ、レーダーは長距離を、ソナーは短距離をそれぞれモニタリングするために使用する。

自動運転ではレーダーを上回る分解能を誇るLiDAR(ライダー)に注目が集まるが、今回日産は採用しなかった。理由はおそらくコストパフォーマンスだ。プロパイロット2.0はコンパクトカーや軽自動車にも展開するはずで、1個数十万円の装置を搭載するのは難しい。レベル2の自動運転というフェーズから考えてみても、いまは高価な新技術に挑戦するより、価格的にも安定した成熟技術の方が良いという判断だったのではないだろうか。ただ、LiDARの価格は下がってきている。いずれは広く普及する日がくるかもしれない。

カメラやレーダー、ソナーは成熟した技術ではあるが、進化もしている。例えば、プロパイロット2.0にも採用された「トライカム」と呼ばれる3眼カメラは今後、普及していきそうだ。車載カメラのほとんどは単眼なので、対象物までの距離が分からないのだが、画角の異なるカメラを組み合わせて3種類の画像を高速処理することで、単眼の短所をカバーできるという。日産はイスラエルのモービルアイの、BMWは独ZFのトライカムを採用している。

また、カメラは車内のモニタリング用としても必須の装備である。ハンズオフはドライバーが前方を注視し、何かあれば即座にハンドルを握ることが条件だが、ドライバーが常にその状態を維持しているとは限らない。よそ見や居眠りをしていて運転に戻るタイミングが遅れると、重大事故を引き起こしかねない。そこでハンズオフを実現した車両は、ドライバーの状態をモニタリングして、何かあれば音などで警告する仕組みを持っているのだ。

より高い精度での状況把握や、ドライバーの状態確認などといった、これまでにはない要件が求められる新世代のADAS。外からは見えないあまたの技術革新が、それを支えているのだ。

自動運転時代のセンサーとして期待を集めているLiDAR。レーザーを用いて対象物の形や距離を測定するもので、高い分解能を誇る。写真はオムロンが開発した3D-LiDAR。クルマや歩行者といった遠方障害物はもちろん、縁石や路面上の落下物、傾きや凹凸といった路面形状まで把握する能力を備えている。
自動運転時代のセンサーとして期待を集めているLiDAR。レーザーを用いて対象物の形や距離を測定するもので、高い分解能を誇る。写真はオムロンが開発した3D-LiDAR。クルマや歩行者といった遠方障害物はもちろん、縁石や路面上の落下物、傾きや凹凸といった路面形状まで把握する能力を備えている。拡大
現行型「BMW 3シリーズ」に装備されるトライカム(3眼カメラ)(写真=郡大二郎)。
現行型「BMW 3シリーズ」に装備されるトライカム(3眼カメラ)(写真=郡大二郎)。拡大

ADAS以外の分野にも注目してほしい

最後にひとつ、普段webCGでは取り上げないようなユニークな、しかし切実な取り組みを紹介しよう。運転そのものを支援する仕組みではないのだが、ADASを構成する技術があるからこそ実現したものとして注目したい。

オムロンが開発したのは、呼吸する際の胸の動きを電波で捉える「呼吸時体動検知センサー」。同社では、これと車載カメラによる“ドライバー見守りシステム”、気温などのセンシング情報を組み合わせた、“置き去り事故防止”のソリューションを提案している。つまり、カメラで乗員が子どもか大人かペットかを判定し、自力で車外に出られない生体がいる場合には、呼吸時体動検知センサーで生体の状態をモニタリングするとともに、気温などの情報から救援可能なうちに各所に通報するというもの。通報先としてはドライバーだけでなく、周辺歩行者や通行車両、さらには警察や消防までも想定している。

フランスのヴァレオも同様に、呼吸で生体を検知するシステムを開発し、先ごろプレスリリースを発信した。幼児やペットの車内置き去りは日本のみならず世界的に問題となっており、欧州の安全性評価機関Euro-NCAPでは、2022年からこうしたシステムを安全性評価項目に加える方針だ。日本でも、これから夏に向けて事故のリスクは上がる。置き去り防止システムはまだ実用化されていないので、今は個々のドライバーが、悲劇が起こらないように注意してほしい。

自動車において“先進技術の活用”というと、今日日はどうしても自動運転やADASばかりが注目されがちだが、実際にはスピードの差こそあれ、さまざまな分野で進化の提案がなされている。自動車を安心・快適なモビリティーに近づけるため、派手ではないが安全に資する分野にもぜひ目を配っていきたい。

(文=林 愛子/写真=オムロン、日産自動車、NEXCO東日本、郡大二郎/編集=堀田剛資)

オムロンの開発した「呼吸時体動検知センサー」。生体が呼吸する際に発生する胸の動きを電波で捉えるセンサーで、同社では子どもやペットの“置き去り”防止システムに生かそうとしている。
オムロンの開発した「呼吸時体動検知センサー」。生体が呼吸する際に発生する胸の動きを電波で捉えるセンサーで、同社では子どもやペットの“置き去り”防止システムに生かそうとしている。拡大
林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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