マット・ヒルツ250グリーン(MR/5MT)
こんなの待ってた! 2019.06.21 試乗記 あなたは英国のカスタムビルダー、マットモーターサイクルズをご存じだろうか? クールかつリーズナブルであることにこだわる彼らの作品の中から、日本の道にも合いそうなスクランブラーの乗り味を報告する。フレンドリーなカスタムバイク
2013年から本格的に稼働を始めているイギリスの新生ブランドがマットモーターサイクルズだ。ここ日本では、ノートンやモトモリーニ、イタルモトなどの輸入販売を手がけているピーシーアイが展開。現在6機種の125ccと4機種の250ccを導入し、全国に12店のディーラー網を築いている。
その中から「HILTS 250 GREEN」(以下、ヒルツ250)に試乗することができた。ヒルツというネーミングを聞いて、スティーブ・マックイーンを思い浮かべた人はかなりの映画好きに違いない。往年の名作『大脱走』(1963年公開)でマックイーンが主演を務めた時の役名がバージル・ヒルツ大尉であり、映画好きでなくとも「バイクに乗って鉄条網を飛び越えるあのシーン」は多くの人が知るところだろう。
劇中の時代背景は第2次世界大戦のさなかであり、ヒルツ250は当時の軍用車両をモチーフにして生まれた。マットグリーンの外装色やヘッドライトガード、ブラックアウトされたホイールリムやスポークといったディティールはその最たる部分で、そのたたずまいには“らしさ”があふれている。
マットモーターサイクルズの創設者ベニー・トーマス氏は、ビンテージバイクのカスタム界で手腕を振るってきたビルダーだ。それゆえ、こうしたテイストのバイク作りはお手の物。他のモデルも同様のテイストで仕立てられている。
パイプで構成されたダイヤモンドフレームに懸架されるエンジンは、249ccの空冷単気筒だ。21hpの最高出力は130kgの乾燥重量に対して十分な加速力を披露。極低速域でわずかにトルクの谷があるものの、それを越えればよどみなく回転数が上昇していく。この手のモデルの場合、エンジンに不安を覚えるかもしれないが、ベースになっているのはスズキ系のそれだ。日本国内でラインナップされていたモデルでいえば、「ST250」に搭載されていたユニットとほぼ同じであり、つまり信頼性は極めて高い。
シート高は780mmと低く、日本人でも平均的な体格なら両足のカカトが余裕で接地する。そこから腕を伸ばしたごく自然な位置にハンドルがあり、ステップもフロント寄りにセットされているため、ライディングポジションは安楽そのものだ。渋滞路などでもストレスを覚える場面はない。
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手を入れる余地はある
いくつかネガを挙げるとするなら、シート表皮は高い質感を持つ一方、すべりやすい点がまずひとつ。リアサスペンションのプリロードを最弱に設定しても硬さが抜けないことも手伝って、タイヤの接地感がつかみづらい場面がある。
そしてもうひとつは、タイヤそのものだ。ヒルツ250には前後同サイズ(4.10-18)のYUANXING製ブロックタイヤが採用されており、アスファルト上でのグリップ力、あるいはグリップ感はもうひと越え欲しいところ。特にコーナリング中はゴツゴツとしたブロックの存在が明確に伝わり、車体をリーンさせる時の抵抗感も強い。パターン自体はバイクのキャラクターにマッチしているものの、もう少しオンロード寄りの製品に交換するだけでハンドリングがグッとナチュラルなものになるはずだ。このカテゴリーのタイヤなら安価な出費で済むため、カスタムのひとつとしてぜひおすすめしたい。
とはいえ、トータルで見れば一台のストリートバイクとして十分な完成度を持つ。ブレーキにはABSが標準装備され、燃料はインジェクションで供給。単に少し前のモデルに着せ替えを施したのではなく、現代の新車として作り込まれ、もちろんユーロ4もクリア。2年保証も付帯する。
ご存じの通り、250ccクラスには車検制度がないため、維持費が抑えられるところが魅力ながら、いざなにかを選ぼうにも選択肢が少なく、まして大人の所有欲を満たしてくれるモデルとなるとなおさらである。その意味で、ヒルツ250の存在意義は大きい。クラッチをつなぎ、スロットルを開けて加速する。そういうバイクの根源的な魅力と、趣味性をくすぐるスタイルを併せ持ったシンプルなスポーツシングルである。
(文=伊丹孝裕/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2010×810×1115mm
ホイールベース:--mm
シート高:780mm
重量:130kg(乾燥重量)
エンジン:249cc 空冷4ストローク 単気筒 SOHC 2バルブ
最高出力:21hp(15.7kW)/--rpm
最大トルク:20.0Nm(2.0kgm)/--rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:--km/リッター
価格:63万7200円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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