BMW 740d xDrive Mスポーツ(4WD/8AT)
ビッグサルーンにも歓びを 2018.09.03 試乗記 BMWのフラッグシップサルーン「7シリーズ」に、クリーンディーゼルと4WDシステムを搭載した「740d xDrive」が登場。新世代のドライブトレインが実現するその走りを、東京ー群馬往復400km超のロングドライブで確かめた。“着心地”のよさが魅力
その鮮烈なデビューからはや3年。BMW 7シリーズへの試乗を依頼されると、筆者の心は軽く弾む。その理由は、現行7シリーズの乗り味が好きだから。そして、試乗が長距離になればなるほど、その良さが引き出されることをわかっているからである。
そんな7シリーズのラインナップに、本命ともいえるモデルが加わった。3リッター直噴ディーゼルターボを搭載した740d xDriveである。そして編集部はこれを、古い話となってしまい恐縮だけれど、「スバルWRX STIタイプRA-R」の試乗会が行われた群馬サイクルスポーツセンターへの往復約400kmを使って、ロングドライブさせてくれた。
筆者が7シリーズに好印象を抱いている理由は、その“着心地”のよさにある。このサルーンには、シートに密着した背中やお尻、ステアリングに触れる両手、ペダルに触れる足の感触が、足まわりとタイヤを通してつながっている感覚がある。しかもその感触は、とても軽い。
実際、7シリーズはその車重も軽く作られている。「高張力系の鋼板やアルミを多用することでスチールの量を減らし、その上随所にCFRP(カーボンファイバー強化樹脂)を用いることで従来型より最大で約130kgの軽量化が図られた」というのはデビュー当時のアナウンスだ。
ただし車重が軽くなったからといって、必ずしもそのハンドリングや乗り心地が軽やかになるわけではないのがクルマという乗りものである。むしろ今回のように「Mスポーツ」なんて銘打たれている場合には、どっしり感が増していることがある。軽くなったことで重心が下がったり、ロールが減ったりして、余分な慣性が働かなくなるからだ。
大柄なボディーを軽快に走らせる
しかしこの740dは、他の7シリーズの例に漏れず着心地が軽い。5110mmの全長と1900mmの全幅がうそのように軽快で、webCGのある恵比寿から代官山の上り坂を抜けて旧山手通りといった朝のラッシュで混み合う道も、うきうきと前のめりに駆けぬけることができる。その最も大きな要因は、快適な乗り心地を与えながらも締めるべきところは引き締めている、エアサスの俊敏性にあるだろう。これが軽いとはいえ2tを超える車重を上質に支え、ランフラットタイヤからの入力をも巧みにいなしている。
そしてこの乗り味を乱さぬようにダンパーの減衰力、パワステの操舵力、アクセル踏力やエンジン出力が足並みをそろえる。微低速域での小さなアクションに対しての反応はリニアで、何ひとつ急激な動きをみせない。そしてアクティブリアステアが、違和感なく小回りを利かせる。だから軽く感じるのである。
さてそんな7シリーズに、3リッター直噴ターボディーゼルユニットが搭載されたわけだが、あまたのディーゼル車の例に漏れず、7シリーズといえども車外でのメカニカルノイズはカタカタとうるさい。ただしドアを閉めればその雑音は見事に遮断される。
ドライブモードに「ノーマル」がなく、「コンフォート」がデフォルトとなっているせいもあってか、ゼロ発進からのマナーは理想的。アクセルを少し踏み込むだけで適切なブーストが立ち上がり、交通の流れから軽く一馬身はリードできるダッシュ力がある。その際エンジンはハイパフォーマンスカー的な轟音(ごうおん)を一切立てない。
ちなみに680Nmもの最大トルクは1750rpmという低い回転域から生み出されるが、アクセルを全開にする必要などないからそのトルクもすべてが発揮されているわけではないだろう。その、優れたダッシュ力に対する“ガッツキ感”のなさにも、高級さを感じる。
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長距離がまったく苦にならない
高速巡航に入ると、その魅力はさらに高まる。街中では低速側で活躍したであろう8段ATのギア比は、高速側ではエンジン回転を基本1500rpm以下に抑え、静かな巡航を可能とする。ここから追い越し加速をかけるにしても、アクセルをそれほど踏み込む必要はない。粘りのある3リッターディーゼルターボの加速が、8段ATのギアすらほとんど変えないまま、大きなキックダウンもなく任務を完了してくれるのである。
というよりも、日本ではむしろ法定速度を超えないようにするのが大変だ。なにせその加速感はあまりにスムーズで、エンジン自体も気持ち良い回転フィールを持っているから、気づいたときには……、となってしまいかねない。そんなときはアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)の出番だ。
直感的に操作できるステアリングスポーク上のスイッチ類はとても使いやすく、また加速性能に優れるディーゼルユニットはACCとの親和性が非常に高い。目の前が開けた状況で設定速度へ復帰する場合も、タイムラグなく、しかも穏やかにその速度を取り戻すことができる。
もちろんその本領は超高速域にあるが、たとえ100km/hで巡航していても苦にならないのは見事だ。シートに備わるマッサージ機能を生かして走らせれば、一日400kmくらいの走りはなんでもない。欧州であれば、倍は走れるだろう。
ちなみに国産メーカーはいまだACCの操作ロジックが難解で、そのために走行中にこれを機能させることが、かえって安全に思えないものが多い。これはまず有事における責任の所在をあやふやにする、実に日本らしい(?)ソリューションのような気がする。そしてその根源には、コストがかけられない事情があると思う。
もちろん行き過ぎた自動運転にはモラルによるブレーキが必要だが、カメラやレーダーなどコストがかかる内容を一気に盛り込めない分、「一応付いてますが、あんまり使わないで」的な自信のなさが表れてしまうのではないか。
しかし世界では、決して規模が大きくなくとも、ボルボやBMWのようにこうした安全機能をしっかり仕上げてくるメーカーがある。だから相手が「中国資本だから」とか、「アウトバーンがあるから」だとかバカな言い訳をしないで、ニッポン勢も頑張ってほしい。
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BMWが目指すは“駆けぬける歓び”
楽ちんに走っているばかりの試乗記だと申し訳ないので、動的質感に対してもう少し触れておこう。まずそのエンジン性能だが、超高速域での加速力の持続や、高速巡航性能をもステータスとして求めるなら、やはりハイパワーガソリンモデルを選ぶべきだろう。エンジンを高回転まで回せないディーゼルユニットは、この領域で分が悪い。
しかしハッキリ言えば、日本にそんな環境はない。だから現実的に考えれば、日本では740dがベストに近いチョイスだろう。その低速からの加速とピックアップを駆使して走らせるとこのサルーンは、恐ろしく速い。
8段ATがトルクバンドを維持し続け、アクティブステアリングに加え後輪操舵が“ショートホイールベース効果”を生み出すことで、相当なハイペースでワインディングロードを走ることもできてしまう(実際筆者はスバルWRXでクローズドコースを下見中、webCG編集長が乗る740dがピタリとついてきて肝を冷やした)。
「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」で、モードを「Sport」にしても、その足まわりに「M」を意識させられることはない。極めて自然な操舵で素直にノーズが入り、トルクを効かせて立ち上がる。またその際でさえ、xDriveには4WDを意識させられる場面がない。つまり質感や風格を損なうことなく、“FRらしい”自然な身のこなしで巨体を走らせることが7シリーズにとってのMなのだろう。そして何度も言うが、速い。
エアサスのキャパシティーをさらに上げれば、「ポルシェ・パナメーラ」のような豪胆さが得られるだろう。可変ダンパーシステムやそのロールスピード制御、エンジンやトランスミッションマウント類のクオリティーを上げれば、「メルセデス・ベンツSクラス」のようなどっしり・ねっとりとした、いかにも高級車らしいハンドリングも実現できるはずである。
しかしBMWはこうした機構に莫大(ばくだい)なコストをかけなくても、車体の軽さと剛性やハンドリングバランスの妙をもって、7シリーズを完結させた。いや、すべてのBMWがこの傾向にある。
電子制御に負う部分も多々あるが、台所にある食材の特性を吟味し、余すところなく味わいや質感に反映させ、見事に伝統あるライバルたちと互角の戦いを繰り広げている。そういう意味ではドライビングを基本とするシャシー制御技術、シェフで言うなら料理の腕前そのものがBMWの財産であり、コストをかけた部分なのだ。
だからこそBMWはFWDだろうがSUVだろうが、ビッグサルーンだろうが面白いクルマを作れるわけで、すなわち“駆けぬける歓び”がなくなったら、BMWはBMWじゃなくなるということになる。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥/編集=近藤 俊)
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テスト車のデータ
BMW 740d xDrive Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5110×1900×1480mm
ホイールベース:3070mm
車重:2060kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:320ps(235kW)/4400rpm
最大トルク:680Nm(69.3kgm)/1750-2250rpm
タイヤ:(前)245/40R20/(後)275/35R20(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT<ランフラットタイヤ>)
燃費:15.4km/リッター(JC08モード)
価格:1448万円/テスト車=1763万4000円
オプション装備:BMW Individualボディーカラー<ルビーブラック>(32万3000円)/BMW Individualメリノレザー(フルレザー)<カシミヤベージュ/ブラック>(77万8000円)/BMWインテリアトリム・ユーカリスモークブラウンハイグロス(10万8000円)/リアコンフォートパッケージ(76万6000円)/BMW Individualアルカンタラ・アンソラジット・ルーフライニング(13万7000円)/リアマッサージシート(14万8000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(59万8000円)/BMWナイトビジョン(29万6000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1万0145km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(0)/高速道路(9)/山岳路(1)
テスト距離:448.2km
使用燃料:31.3リッター(軽油)
参考燃費:14.3 km/リッター(満タン法)/14.3km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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