BMW M850i xDriveカブリオレ(4WD/8AT)
畏れ敬うべき存在 2019.07.12 試乗記 BMWの最上級オープンカーなんて、お金持ちが気軽に乗り回すだけのクルマじゃないか? そんな偏見を吹き飛ばす、完璧と言いたくなるほどの走りを、新しい「M850i xDriveカブリオレ」は味わわせてくれた。BMWで最速・最強の一台
「8シリーズ」のカブリオレはクーペの登場から、欧州では約1年、日本では7カ月半ほど遅れてデビューした。クーペもカブリオレも、国内では標準モデル系のトップエンドになる「M850i xDrive」が最初に発売。今回の試乗車も、そのM850iである。また、先ごろには「M8」もついに登場したが、グローバルではM8にも最初からカブリオレが用意される。
8シリーズはBMWクーペ/カブリオレのフラッグシップである。なかでもMの文字を冠したM850i(やM8)は、BMWの現行量産モデルでは最速・最強のスポーツ性能を与えられた一台ということになるわけだ。
生真面目気質のエンスージアストが多い日本では、こうした超高性能スポーツモデルのオープン仕様を軽んじる風潮が存在するのは事実だろう。私もまた、了見のせまい日本型クルマオタクの典型なので、先にデビューした「M850i xDriveクーペ」の超絶安定した走りに感銘を受けた後だと、そのカブリオレに「せっかくの運動性能を、屋根を切ってスポイルして、どーすんねん!?」と脊髄反応してしまったのも否定しない。
しかし、海外試乗記で渡辺敏史さんも書かれているとおり、この種のスポーツカーやスポーツクーペの世界最大消費地は今も昔もアメリカ西海岸である。かの地では「スポーツカーや2ドアクーペは本来、屋根がないもの」というのが定説というか常識であり、8シリーズの前身たる「6シリーズ」も世界販売の約半数がカブリオレだったそうだ。
それに、8シリーズのようなクルマの購買層はアメリカ西海岸にかぎらず、すこぶるつきの富裕層であることはいうまでもない。で、なかでもM系をあえて選ぶような向きは、基本的にはクルマ道楽を極めたお金持ちだ。著名な自動車評論家である福野礼一郎さんはかつて、4人乗りのフェラーリ(=世界最高のラグジュアリークーペの1台)を新車で買う層を“まるで旅行カバンを選ぶようにクルマを買う人たち”と表現したが、8シリーズの主要顧客層もそれに近いものがあるだろう。
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8はオープンこそ本命
この種のクルマの購買層の大半は、仕事用にラグジュアリーセダン、家族共用のSUV、そして自身のストレス発散用スーパーカーといった具合にクルマを複数所有する。そういう人たちが8シリーズに食指を伸ばす理由は「ふとカッコイイと思ったから」とか「今年の夏休み旅行に使うオープンカーが欲しかったから」といった気軽なノリの場合も多い。
それに、アメリカ西海岸でこの種のクルマに乗るオーナーは、たいがい自宅にガレージを持っている。以前「日産フェアレディZロードスター」の開発担当者とお話ししたときにも「西海岸でのオープンカーは、購入されてから一度も屋根を閉めないまま手放されるケースもめずらしくない」と聞いた。
そうした現実を考えれば、8シリーズ カブリオレのようなクルマは便利で万能である必要はさらさらなく、ソフトトップこそが主要顧客層のニーズに合っており、同時に粋でもある。それに普段からスーパーカーに慣れ親しんでいるクルマ好き富裕層にとって、オープンカーでわざわざ遅いエンジンを選ぶなどという行為も、無粋でしかない。
つまり、ナニがいいたいかというと、富裕層向けのラグジュアリー2ドア車としては、このM850i xDriveカブリオレ(あるいはM8カブリオレ)こそが、あるべき姿のひとつということだ。このクルマを目の前にして「クーペより走りが落ちるのが宿命なのだからエンジンも控えめのほうがバランスがいい」だの、あるいは「電動格納メタルトップならもっと便利なのに」だのと、これ1台で生活のすべてをまかなおうとする貧困な発想しかできない私などは、そもそも8シリーズで想定される顧客ではないということである。
2人のための快適空間
同じ8のクーペはルーフラインがテールまで一直線に伸びるファストバックスタイルだが、カブリオレは対照的に、優美な車体にキャビンがちょこんと乗るノッチバックスタイルとなる。そのソフトトップキャビンはまるで2シーターのように小さく低く、これはこれでクーペに負けない印象的なスタイリングのアクセントとなっている。
ただ、そのぶん、後席空間もミニマムなのも事実。そのレッグルームこそ日本人ならギリギリで使えそうな空間があるが、トップを閉めたときの天地方向は日本人でも成人男性がまともに座るのは困難だ。シートバックもほぼ垂直で着座姿勢も人間的でない。やはり多くの2+2車と同様に“後席という名の豪華荷室”の域は出ない。
M850i xDriveカブリオレは快適装備もメカニズムも「これ以上なにを追加すればいいのか!?」というくらい全部乗せのフルトッピングだ。柔らかなメリノレザーシートにしても、前席にはシートヒーターとベンチレーターに加えて、ヘッドレストにカブリオレ専用にネックヒーター(BMW名は「エア・カラー」)が内蔵される(……が、そのありがたみは今回試乗した6月中旬では実感するにいたらなかった)。
空力が優秀な現代のオープンカーはトップを開け放ったところで、かなりの速度まで快適である。事実、この8シリーズ カブリオレも、運転席背後に標準付属品のウインドディフレクターをわざわざ取り付けずとも、サイドウィンドウさえ上げておけば高速道でも脳天をサワサワと風が流れる程度で目立った風の巻き込みはない。日本の高速道の100km/hでこれならば、欧州の高速道路における現在の平均的制限速度130km/hでも、おそらくほとんど変わらないくらいに快適だろう。
いずれにしても、BMW自慢の「アシステッドドライブモード」を作動させて高速道で半自動運転を決め込めば、今回の撮影で通過した相模湾もカリフォルニアかコートダジュールに思えてくる。
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走りにクーペとの違いはある
さらにソフトトップを閉めれば、さすがに同じ8のクーペ比で静粛性や静粛性は一歩ゆずるものの、質感がすこぶる高いマルチレイヤーのトップ構造もあって、絶対的には静かで剛性感も文句のつけようがない。
ソフトトップの天井部分にハードパネルが縫い込まれるのは昨今のソフトトップカーで流行の構造である。ただ、これは車体剛性うんぬんというより、トップ形状をきれいに安定させて、さらに高速走行時にソフトトップが膨らむことを防ぐ空力のため……という側面が大きいと思われる。
BMWといえば最近まで後輪駆動車の代名詞的ブランドだったが、昨今は宿敵メルセデスも含めて、一定以上の高性能エンジン車は基本的に四輪駆動化するのがお約束となりつつある。このM850iも例外でないどころか、今の8シリーズはエンジンや屋根の有無を問わずに全車xDrive=4WDである。
高張力鋼板とアルミニウムと一部カーボン強化樹脂で構成された8シリーズの車体構造は当初からカブリオレも想定された設計であり、当たり前だが、屋根を切ったからとブルブルとヤワな感触などこれっぽっちもない。しかしながら、同じM850i xDriveのクーペがピタリと決まるステアリングレスポンスと、まるで見えないレール上を走る新幹線のようなライントレース性と旋回安定性を誇っていたのと比較すると、カブリオレではステアリングがわずかに鈍くなり、見えないレールの取り付け剛性がわずかに緩んだ感があるのは否定しない。
とはいえ、走行モード切り替えを最速の「スポーツプラス」モードにして、さらに横滑り防止装置の介入をわずかに制限する「DTC」を起動させて、V8ツインターボと高性能タイヤの持てる能力(の片りん)を引き出すような走りを敢行したとて、アマチュアの私でも心理的不安感などまるで皆無だ。その拍子ぬけするほど簡単に速く走れるその身のこなしには「やっぱりBMWってスゲーなあ、4WDって偉大だなあ」というタメ息しか出ない。
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ビーエムと四駆は偉大なり
M850i xDriveの場合、可変ダンパーやパワステなどのシャシーのプログラムモードは2種類しかなく、走行モードが最速のスポーツプラスではシャシーはもちろん硬いほうのセッティングではあるが、それはひとつ下の「スポーツ」モードと変わらない。つまり、スポーツプラスモードではパワートレインだけが専用モードになるだけなのだ。というわけで、同モードでは踏めば意識が遠のきそうになる加速と快音が炸裂するものの、それを受け止めるシャシーは、ほどほどに引き締まった程度の平穏なものである。もちろんその下の「コンフォート」モードよりは明らかに硬いけれども、530ps、750Nmというとてつもないエンジン性能をこんな平和なシャシーで振り回させてくれるとは、繰り返しになるがBMWも4WDもスゴくて偉大というほかない。
それにしても、これだけありとあらゆるものを、ほぼほぼ完璧にパッケージングしてみせているM850i xDriveカブリオレを前にすると、このクルマのもともとの想定顧客からかけはなれた私のような人間は、ただただコウベを垂れるしかない。
こういうクルマは富裕層のみなさまにカバンかアクセサリー同様のお手軽ノリで買っていただいて、ミントコンディションのまま短期間で手放していただけると、われわれ庶民にも、もしかしたら手に入れるチャンスが訪れるかもしれない。というわけで「できることなら試乗車のような汚れの目立つアイボリーでなく、濃い目のインテリアカラーを選んでいただけると、なお可」などという勝手な皮算用もお許しいただきたい。
もっとも、M850i xDriveカブリオレの完璧に近いデキを考えれば、もともと長く所有するつもりもなく気軽にアイボリー内装を選んだ最初のオーナーが、予想以上に気に入って長期間ガレージに留め置いてしまう可能性もなくはない。それが長い年月を隔てた後にマーケットに放出されると“奇跡のワンオーナー車”ともてはやされることになる。そうやってクルマ文化は受け継がれていく。
(文=佐野弘宗/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
BMW M850i xDriveカブリオレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4855×1900×1345mm
ホイールベース:2820mm
車重:2120kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530ps(390kW)/5500rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-4600rpm
タイヤ:(前)245/35 R20 95Y/(後)275/30 R20 97Y(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:8.2km/リッター(WLTCモード)/9.3km/リッター(JC08モード)
価格:1838万円/テスト車=1902万6000円
オプション装備:メタリックペイント<ドラバイト・グレー>(32万3000円)/ファイン・ライン・コッパー・エフェクト・インテリア・トリム(2万7000円)/BMWナイト・ビジョン<歩行者、動物検知機能付き>(29万6000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2409km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:332.1km
使用燃料:54.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.0km/リッター (満タン法)/5.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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