第617回:語呂合わせ人気は万国共通!
欧州の希望ナンバープレート事情
2019.08.16
マッキナ あらモーダ!
英国名物「シークレットブーツ」と「あれ」
先日、イギリスに赴く機上で機内誌をめくっていたときのことである。「シークレットブーツ」の広告が目に飛び込んできた。イギリスやアイルランドを本拠とする航空会社の機内誌では、よく目にするものだ。
察するに、出張先で長身の取引先担当者に会って圧倒される→帰りの機内で広告を見る→「よしオレも」というリベンジ精神で注文する、というフローチャートをメーカーは描いていて、それなりに宣伝効果があるに違いない。
シークレットブーツほどではないが、イギリス系の機内誌で見かけるものといえば、「自動車ナンバープレート(以下ナンバー)の売買、およびオークション業者」の広告である。人名などにちなんだナンバーの例が、ずらりと並んでいる。
日本でも「希望ナンバー制」を1999年に本格導入してから、早くも20年が経過したが、今回はそのイギリス版のお話である。
イタリアとフランスの事情
イギリスの話より先に、筆者が住むイタリア、そしてフランスの事情を紹介しておこう。
イタリアでは、第614回の「ジムニー」の話題で記したように、「13」「17」といった数字が伝統的に忌み数として嫌われてきた。そのため、第442回で紹介したスバル販売店のニコロ・マージ社長は、かつてはそうした数が入ったナンバーを巧みに避けるため、「陸運局で新規ナンバーの発行タイミングを随時チェックしながら待つことが、たびたびあったね」と懐かしむ。
いっぽう2013年の法令改正で、X、YまたはZで始まるもの、そして判読が難しいQ、U、I、Oを除いて、好みのアルファベットや数字の選択が一定の範囲で可能になった。申請料は150ユーロ(約1万8000円)だ。
ただしマージ氏によると、今日一般のお客さんで、ナンバープレートの番号にこだわる人はほとんどいないという。
イタリアでナンバーといえば、ミラノにあるドイツ製プレミアムカーの大ディーラーを見学させてもらったときのことだ。ブランドのイメージリーダー的存在であるスポーツクーペのフロントにナンバーが装着されていなかった。確かにナンバー付きよりカッコいい。担当者に聞けば「こうしたクラスのオーナーは、ナンバーなんか付いていなくても平気。たとえ捕まっても、反則金を払ってしまうのですよ」と平然と語ってくれた。
隣国フランスの場合はどうか。今日ではデータ管理が中央に集約化かつ電子化されているため、アルファベットや番号の選択は、事実上不可能だ。
パリのある自動車愛好家は、「昔は陸運局で待っていて、自分の愛車の車名に合わせた『504』や、製造年に合わせた『1965』といった番号を狙うことができた。特に地方の陸運局では、そうした融通が利いたものだ」と回想する。
こだわりナンバーは富裕愛好家の証し
話をイギリスに戻そう。
筆者がヒースロー空港から乗った「メルセデス・ベンツEクラス ステーションワゴン」を運転するハイヤーのドライバー氏に尋ねてみた。
彼は「オークションで他に同じナンバーのビッダーがいなければ、250ポンド(約3万円)から希望の数字とアルファベットの組み合わせが手に入ります」と教えてくれた。
この国の場合、DVLA(Driver & Vehicle Licensing Agency=運転者および車両登録事務所)によってナンバープレートの取引やオークションが管理されており、多数の民間業者がそうしたビジネスを展開している。もちろん、個人間で取引後、DVLAに登録する方法も可能だ。
ドライバー氏自身もオークションで、個人車用に希望ナンバーを取得しようとした経験があると明かしてくれた。彼の名前ロビン(ROBIN)にちなんだものにしようと、インターネットを通じてチャレンジしたという。
「I(アイ)を1に変え、ROB1Nにして挑みました。結果としては1000ポンド(約13万円)近かったので断念。自分の名前は、多くの人が狙っているものだということを思い知りました」と振り返る。
そういえば、2018年にカルロス・ゴーン氏の件で話題となった、日産のビジネスジェット機の機体番号は、NISSANに見えないこともない「N155AN」であった。語呂合わせの番号を取得するため東奔西走させられた日産担当者の労力からすれば、ロビン氏のそれは取るに足らないものだろう。だが、ロビン氏は個人だけに、熱意は日産の何倍も伝わってくる。
ロビン氏に話を戻せば、仕事柄多くの対向車とすれ違いながら、例えばポルシェのナンバーに「911」といった番号が入っていると、やはり意識してしまうらしい。
彼いわく、「特注しないと入手できず、かつ売るときも買い手がつきにくい特殊なボディーカラー」とともに「こだわりが感じられるナンバー」は、英国において豊かなエンスージアストの証しであるという。
自分の名前は安心価格!
それを聞いた筆者も、DVLAの公式ウェブサイトを通じ、試しにAKIOのナンバープレートの価格を検索してみた。簡単にチェックできるので、読者の皆さんもトライしてみるといい。
結果といえば「AKIO」と付くナンバーは、大半が最低価格である250ポンドで即納だ。「OYA」入りもしかり。安心価格といえばそれまでだが、裏を返せば人気なしということで、とほほである。
ところでヨーロッパでは、空港の駐車場やホテルなどで、係員やスタッフから自分のクルマのナンバーを聞かれることが少なくない。さらにイタリアではナンバーの情報は、関係各省庁間で高度に共有されているため、銀行の窓口で年間自動車税を支払うときにも、ナンバーを聞かれる。
かつて筆者が所有していた「フィアット・ブラーバ」のナンバーは「AV871WW」だった。したがって、アダルト動画を見て興奮している姿を思い描き、「AV鼻息ブッブー」と覚えていたものだ。
また、以前持っていた携帯電話の番号は、549で始まることから「混浴で夫婦水いらず」という語呂合わせを思いついて記憶していた。
周囲に日本語を解す人が少ないのをいいことに、毎回思い出すため、日本語で声に出してからイタリア語にコンバートしていた情けない筆者である。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
NEW
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。 -
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。 -
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。







