1000PSじゃ満たされない!?
電動スーパーカーに未来はあるか
2019.09.13
デイリーコラム
ブランドの個性が重要
電動のスーパースポーツに未来はあるか? 答えはシンプルで、スーパースポーツの未来は「いかに“ブランドユニーク”な電動化を図れるか」にかかっている。
気候変動(いつのまにか地球温暖化よりも便利な言葉になってしまった)の根源を、二酸化炭素を主とする温室効果ガスに求めることの是非はともかく、あらゆる意味で乗用車の電動化が推し進められている今、ロードカーとしてのスーパースポーツとて、その例外にはなりえない。
それゆえ、フェラーリやランボルギーニはそれぞれ工夫を凝らしたハイブリッドモデルを披露した。中でもフランクフルトモーターショーにて「シアンFKP 37」を発表したばかりのランボルギーニの技術部門トップ、マウリツィオ・レッジャーニ氏は、「われわれは『テルツォ ミッレニオ』(スーパーキャパシタのフルEV)という目標を先に掲げ、今、その一歩を踏み出したばかり。それもCO2削減のためではなく、あくまでもパフォーマンスアップのため」と言ってはばからない。
フェラーリの事情もまた同様で、マーケティング部門の最高責任者を務めるエンリコ・ガリエラ氏はユニベルソ・フェラーリというブランド単独のモーターショーイベント(マラネッロ)のプレスカンファレンスにおいて、「顧客からの強い要望がない限りフルEVをこちらから提案することはない。あればあったですぐに対応できることが重要だと思う」と、率先してEV化を推し進める意識の今はまだないことを表明した。
つまり、スーパーカー界の両巨頭が今取り組んでいることは、あくまでもブランドの個性に忠実な商品づくりであって、電動化は一定の社会性(大きく言えばスーパースポーツのサステイナビリティー)を保証するための手段にすぎないということ。ハイブリッドスーパーカーにおいて、まずは従前のピュア内燃機関モデルと変わらぬドライブフィールとそれ以上のパフォーマンスを提案しておくことで、徐々に未来=電動化へのステップを切り始めたと言うこともできる。顧客を電動に慣れさせよう、というわけだ。
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EVへの移行も不可能ではないが……
一方で「ホンダNSX」や「BMW i8」のように、派手さは十分スーパーだったのに、すっかり目立たぬ存在になってしまったハイブリッドスーパーカーもある。i8に至っては、ついに生産中止が発表された。筆者に言わせれば理由は明快で、先の2ブランドと違い、そこに「ヘリテージを守る」という強い意志がなかったからに相違ない。電動化をスーパースポーツとして進化させるための手段として活用しきれなかった、つまりは感動の足りない商品にしてしまったからというほかないのだ。スーパースポーツカーだけでビジネスが成立するブランドと、ゼネラルなブランドとの違いといえばそれまでだけれども。
そのことは図らずもスーパースポーツカー界における新興&新規参入勢力、クロアチアのリマックや英国の名門ロータス、さらには経営刷新されたピニンファリーナなど、が、いきなりフルEVでこのマーケットに挑戦していることが逆説的に証明している。スーパースポーツ分野において失うヘリテージなど何もない勢力にとって、内燃機関を使ったハイブリッドカーなど造っている暇も金もない、というわけだ。それよりも、フルEVのパフォーマンスで旧勢力に引導を渡したいという本音がある。構図としては欧米と中国における自動車産業の対立関係によく似ている。
マルチシリンダーのガソリンエンジンは、いまだデリシャスだ。時折無性に食べたくなる甘いチョコレートのように、クルマ好き脳を刺激してやまない。甘いだけじゃない。古い多気筒エンジンであれば苦みもまた味となる。それをいきなり電動モーターで代替するのは難しい(だからこそ、新興勢力は最高出力2000PSとか内燃機関の実績を大幅に上回るスペックで勝負する)が、適切な電動モーター+エンジンの段階的ハイブリッドを通して、その都度の最新技術を取り入れつつ、徐々にカスタマーを導いていくことは可能ではあるだろう。
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スーパースポーツの魅力は変わらない
先日、某スーパーカーブランドのプロトタイプに試乗する機会があった。ピュアなガソリンエンジンモデルだったが、乗ってみると、エンジンよりもボディー&シャシーの魅力が勝っていた。ワインディングロードを100km/hそこそこで流しながら走っているだけで、素晴らしく甘いドライブフィールを味わうことができた。これなら、いきなり心臓が電動になったとしても受け入れていい。ただただ美しい仕立てのエクステリアとインテリアを眺めながら、そう思うに至った。これなども、そのブランドの個性を生かしたスーパーカーづくりと言えよう。
スーパースポーツの頂点に君臨するブガッティは、8リッター16気筒エンジンを積んだ「シロン スーパースポーツ300+」で前代未聞の時速300マイル(480km/h)オーバーを記録した。それは、何千馬力という数字と加速性能だけをアピールするEVスーパーカーたちに向けた、彼ららしい返礼だ。
「レギュレーションが変わるまで内燃機関を造り続ける」
また別の有名スーパーカーブランド首脳はそう明言した。要するに、ハイブリッドを含めたスーパースポーツの電動化は、ブランドロイヤルティーを崩さない範囲で進められていくべきものであって、そういう意味では電動化によってスーパースポーツの魅力が今より削(そ)がれることは、ここしばらくはないだろうと筆者は楽観している。むしろ、早朝夜間のガレージでの出し入れや自動バレーパーキングなど、電動化によってスーパーカーの不便さが取り除かれることのほうに今は期待したい。
(文=西川 淳/写真=ランボルギーニ、フェラーリ、アメリカン・ホンダモーター、BMW、ブガッティ/編集=関 顕也)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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