“ニッポンのコンパクトカー”がそろって次世代へ 新型「トヨタ・ヤリス」と「ホンダ・フィット」を比較する
2019.10.30 デイリーコラム2020年はコンパクトカー復権の年に
今は軽自動車が売れているので、小型/普通車は減少傾向にあるが、2020年にはコンパクトカーが人気を盛り返すだろう。「トヨタ・ヴィッツ」の後継となる新型「ヤリス」が発売され、「ホンダ・フィット」もフルモデルチェンジを受けるからだ。この2車種のプロトタイプが第46回東京モーターショー2019に出展されたので、両車を比べてみたい。
まずボディーの大きさは、両車とも全長が4m以下の5ナンバー車だ。全長はフィットが若干長いが大差はない。どちらも全高は1550mm以下で、立体駐車場を利用しやすい。
外観は両車とも丸みを持たせた。ただしフィットはボディー側面のウィンドウが4分割され、車内の広さを強調する。ヤリスは2分割されて引き締まり感が伴う。
運転のしやすさについては、両車異なる方法で斜め前方視界を向上させた。ヤリスはフロントピラー(柱)の位置を手前に引き寄せ、右左折時における横断歩道上の歩行者を見やすくした。フィットはフロントピラーを2本配置、衝突時に衝撃を吸収するのは手前のピラーだ。これを太くデザインして、前側のサブピラーは単なる窓枠で細いため、ヤリスと同じく斜め前方が見やすい。一方で斜め後方の視界は、両車ともあまり良くない。
パーソナル向けのヤリス、家族向けのフィット
インパネの形状はフィットのほうが個性的だ。上面を平らにして薄型に見せ、ステアリングホイールのスポークは2本だ。初代「シビック」や「N360」を連想させて懐かしいが、一般的に内装が上質に感じられるのはヤリスだろう。部分的に柔らかいパッドも使われ、従来のヴィッツに比べると見栄えと手触りを向上させた。
このように前席の満足感はヤリスが勝るが、後席と荷室は逆になる。ヤリスの後席は、従来のヴィッツよりも狭いからだ。身長170cmの大人4人が乗車した時、ヴィッツの後席に座る乗員の膝先空間は握りこぶし2つ分だが、新しいヤリスではこれが1つ半に減る。メーカーの開発者に尋ねたところ、前後席に座る乗員同士の間隔が、ヤリスはヴィッツに比べて37mm縮まったとのことだった。
後席の床と座面の間隔も、ヤリスはヴィッツを32mm下回り、腰が落ち込んで膝が持ち上がるようになる。その結果、ヤリスでは膝を抱えるような着座姿勢になりがちだ。ルーフが下に回り込むから、ヴィッツに比べて乗降性も悪い。
一方のフィットの後席は、ヤリスと同じ測り方で膝先空間は握りこぶし2つ半を確保する。1つ半のヤリスに比べて大幅に広く、着座姿勢も腰が落ち込まない。乗降性もいいので、フィットであれば4人乗車も快適だ。
荷室も同様で、フィットは燃料タンクを前席の下に搭載するから、荷室の床が低く積載容量が大きい。後席の背もたれを前方に倒すと座面も連動して下がるから、床の低い平らな荷室に変更できる。
逆にヤリスはシートアレンジが単純で、後席の背もたれを倒しても、広げた荷室の床に段差ができてしまう。
このようにヤリスは、従来のヴィッツに比べると前席優先の設計になっており、車両の性格が「マツダ2(旧デミオ)」に近づいた。主に1~2人の乗車で使うクルマだ。フィットの性格は従来型と同じで、立体駐車場を使える高さに抑えながら、前後席と荷室が広い。従ってファミリーカーとしても選びやすい。
コンパクトカー全体の底上げに
新型ヤリスが機能を割り切った理由は、プラットフォームを「TNGA」の考え方に基づくタイプに刷新したからだ。今後は同じプラットフォームを使って、かつての「ファンカーゴ」のような、背が高く空間効率の優れたコンパクトカーも開発される。ファミリーユーザーにこれを推奨するため、重複を避ける目的もあってヤリスは前席優先に仕上げられている。
こうなるとヤリスは、走行性能と乗り心地に磨きをかける必要が生じる。走りが優れていれば、実用重視のフィットに対抗できるが、そこが甘ければ後席と荷室が狭い分だけフィットよりも魅力の乏しいクルマになってしまう。
ヤリスのパワートレインは、新開発された1.5リッター直列3気筒エンジンとこの1.5リッターを使うハイブリッド、そして従来型から継承した1リッター直列3気筒エンジンの改良版だ。1.5リッターエンジンは従来型の1.3リッター、あるいは改良を受けた1リッターと比べても燃費が優れている。動力性能も上回るから、バランスのいいエンジンとなる。
一方、フィットはハイブリッド機構が進化している。「ステップワゴン」などと同じくエンジンが発電機を作動させ、その電気を使ってモーターがホイールを駆動する仕組みだ。基本的にモーター駆動だから、加速は電気自動車と同じく滑らかになる。モーターは瞬発力が高いので、動力性能にも余裕が生まれる。フィットハイブリッドのエンジンは発電を中心に受け持つから、回転数が速度の増減に左右されにくい。高効率な回転域を保ち、燃費をさらに向上できる。
安全装備は両車とも充実しているが、運転支援機能のアダプティブクルーズコントロールの性格は異なる。ヤリスは30km/h以上で作動するが、フィットは電子制御式パーキングブレーキの採用によって全車速で追従が可能だ。渋滞追従機能も採用した。
これまで述べてきたように、機能の差はあるものの、フィットはファミリー層を含めて、幅広いユーザーに適する。ヤリスはどちらかといえばパーソナル向けだ。用途と好みに応じて選べるので、直接的には競合しにくく、ヤリス、フィットとも売れ行きを伸ばすだろう。
トヨタとホンダがこれだけ力を入れると、ユーザーを奪われないように「日産ノート」や「スズキ・スイフト」、さらにマツダ2などもブラッシュアップを図ってくるだろう。こうしてコンパクトカー全体の魅力が増すわけだ。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、本田技研工業、webCG/編集=藤沢 勝)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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