第149回:マニアックだぜ! 交通流図
2019.11.05 カーマニア人間国宝への道首都高・大井JCT付近の大規模更新
去る9月29日、約3年半という長期にわたって続いていた首都高・大井JCTの一部通行止めが解除されました。
この通行止めは、大井JCTの連絡路が着地する、1号羽田線の東品川桟橋付近の老朽化が著しく、この前後約2kmにわたって大規模更新(造り替え)工事が行われているためでございました。
1号羽田線の新たな本線は、運河水面からの標高が従来よりぐっと高くなるため、連絡路の橋げたを新たに架け替える必要が生じたというわけです。
で、今回大井JCTの連絡路が接続したのは、陸地側に仮設された1号羽田線上りの迂回(うかい)路のほう。いずれ新本線が完成したら、またまた付け替えの必要が生じるが、その際は、今回完成した橋げたの末端部の角度を変えるだけで済むので、長期の通行止めにはならないとのことです。
ここまで読んでも、多くの皆さまは、なにがなんだかわからないでしょう。道路の改良工事を文章で説明するのってムズカシー!
わからないついでにさらに説明しますと、9月29日に大井JCTの通行止めが解除されたのと同時に、連絡路の南寄りの部分が1車線から2車線に増やされました。ここは以前、1車線のキツい上り坂だったので、いわゆる“サグ”効果によって渋滞の原因になってましたが、現在はきれいサッパリ解消しました!
ついに渋滞解消へ
さらに言うとですね、湾岸線東行き大井JCTの手前側にあった大井料金所は、隣接する大井南入口から流入してくる車両との織り込み交通の発生によって、日常的に渋滞を発生させておったのです。
湾岸線を空港方面から千葉方面に向かうと、ヘタすりゃ空港北トンネルの手前から渋滞してたでしょ? その原因のひとつがこれだったんですよ。
これまた、首都高のヘビーユーザー以外にはなんのことだかチンプンカンプンだと思います。文章力が至らず本当に申し訳ございません。
で、この大井料金所はといいますと、2018年5月から運用を停止し、撤去工事が進んでおりました。でも、ただ運用を停止しただけじゃ渋滞は解消されない。なぜって、ETCの普及によって、本線料金所そのものは渋滞の原因ではなくなっているからです。
この料金所の問題点は、すぐ先の大井JCTの分岐との距離がわずか200mと、短すぎたことでした。この200mの区間で、本線通行車両と大井南入口からの流入車両が、それぞれ右(湾岸線方面)と左(中央環状線方面)に交錯するので、それによって減速波が発生して渋滞となっていたわけです。さらにわかんないスかね……。
そこで首都高は、大井料金所の運用停止にとどまらず、2019年4月15日、大井JCTの分岐点を500m手前(南側)に移設。これによって大井南入口は、中央環状線方面のみしか行けない「中環大井南入口」に名称変更されたのでありまする。
これら一連の改良によって、湾岸線東行きの大井JCT付近を先頭にした渋滞は、見事に解消されました! なにせ渋滞の原因を全部つぶしたんだから完璧だ。10月からこっち、湾岸線東行きが相当スムーズになったと感じている首都高ヘビーユーザーは少なくないこととお喜び申し上げます。私もそのひとりです。本当によかったです。
完璧な渋滞対策!?
ところで今回は、ここからもう一歩マニアックな話題に進ませていただきとうございます。それは、「首都高交通流図の見かた」です。
交通流図とは、首都高の交通量を区間ごとに書き入れたもので、首都高速道路株式会社のHPで誰でも見ることができる。つっても一般の皆さまには存在そのものがほとんど知られておりません。仮に見たとしても3秒で頭が痛くなる方もいるでしょう。
でもこの交通流図、マニアにはたまらなくステキなもの。宝物と言っても過言ではありません。これを宝物だと言う人を、まだ自分以外に知りませんが……。
でも、これを見れば、首都高の渋滞に関する問題点が半分くらいは理解できてしまうという、そりゃもうコーフンせずにはいられない代物なのです。
現在公開されている交通流図は、2018年度のもの。平日平均と休日平均がありますが、渋滞するのは平日なので休日はどうでもいい。平日平均だけ見れば大丈夫です。
で、これを見ると、今回の大井付近の改良前の交通量が詳しくわかる。
あなたは、空港中央入口から湾岸線東行きに乗り入れたとしましょう。この区間の昨年度の平日24時間平均交通量は、4万3970台/日だ。ところが東海JCTで、1万8050台/日ものクルマが左から合流してくる。まずここでかなりの減速波が発生します。
続いて大井南出口で3330台/日減るけれど、大井南入口では1万5600台も流入してくる! 大井南入口の流入量の多さは、首都高全入口の中で最多でした(中環大井南入口となった現在は大きく減少したと予想されるも、台数は不明)。
しかもわずか200m先で分岐するので、この1万5600台と本線の5万8690台が左右に交錯し、渋滞を発生させていたというわけなんです。
今回の改良ではその交錯を解消し、さらには中央環状線方面へ向かう2万1000台のための連絡路を、1車線から2車線に増やした。そのうえ、大井JCTを経て1号羽田線上り方面へも向かうことができるようになったので、その分湾岸線東行きの交通量が減少。完璧な渋滞対策の完成となったわけです。
しかし実は、まだ大きな問題が残されていて、しかも解決の道は事実上閉ざされているのです! うおお、ますますマニアックだぜ! ということで続きは次回。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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