フォード・エクスプローラー リミテッド(4WD/6AT)【試乗記】
歓迎すべき大転身 2011.06.09 試乗記 フォード・エクスプローラー リミテッド(4WD/6AT)……530万円
アメリカンSUVを代表する「フォード・エクスプローラー」がモデルチェンジを受けた。「SUVを再定義する」とまでうたわれる新型、その実力はいかなるものだったのか?
ランドローバーの遠戚?
1990年の誕生以来、累計で600万台が販売されたアメリカンSUVの大物「エクスプローラー」が大きく動いた。エクステリアデザインが乗用車的に洗練されたので、まずそこに目が行くかもしれないが、注目すべきはその骨格部分である。
従来型にはピックアップトラックと同じラダーフレーム構造が採用され、タフな本格派(言い方を換えれば古典的)というイメージが強かった。しかし新型はそれといよいよ決別し、今どきのSUVらしくモノコック構造を得たのである。
新型のプラットフォームは社内で「D4」と呼ばれる大型乗用車用で、その基本は「フォード・トーラス」などと共通という。これはつまり、エンジンの搭載方向が縦から横に変更され、それにともない4WDシステムも大きく改められることを意味している。また骨組みが変われば、そこに取り付けられるサスペンションだって変わる。前後ともショート&ロングアーム(不等長アームのダブルウィッシュボーン)だったのが、前マクファーソンストラット、後マルチリンクという、まるでセダンのような形式に改められている。
4WDシステムでは、新型には電子制御の油圧多板クラッチで駆動力を配分する「インテリジェント4WD」と呼ばれるものが採用されている。通常時(平坦路)はほぼFF状態で走り、前輪のトラクションが得られない状況では後輪へ最大100%のトルクを配分する、いわゆるオンデマンド型だ。
さらにこの4WDシステムには、センターコンソールのダイヤルひとつで路面に応じた走行モード「標準」「泥濘(でいねい)路」「砂地」「雪道」が選べる“テレインマネージメントシステム”が搭載された。同種の装備にランドローバーの“テレインレスポンス”があるが、モード設定の考え方がとてもよく似ているうえに、ダイヤルのアイコンが両者で非常によく似ている(おそらく同一)ので、ランドローバーがフォードの傘下にあった時代の、共同開発による果実なのかもしれない。
その差、歴然
エンジンはV8が廃止されて、目下のところV6だけとなった。Ti-VCT(吸排気独立可変バルブタイミング)が採用された3.5リッターユニットで、294psと35.2kgmを発生する。同じV6でも「リンカーンMKX」に搭載されるのは309psの3.7リッターであり、上下関係はきっちりと守られている。
ちなみにエクスプローラーには2011年末から2012年の初頭にかけて、経済性に優れた2リッター直4の「エコブーストエンジン」が追加される予定。このサイズのアメリカンSUVに2リッターの直4とは、時代も変わったものだ。
エンジンをかけてスロットルペダルを踏むと、2.2トン近い重さがあるボディが思っていたよりずっとパワフルにドンッと前に出た。出だしのレスポンスを強調した、いわゆる非線形スロットル的な味付けだな、と一瞬感じた。
しかし聞くところによると、インテリジェント4WDは発進時にトルクを後輪にちょこっと振り分ける小ワザなんぞも心得ているらしい。その「ひと蹴り」が身軽さの隠し味になっている可能性はある。レッドゾーンが始まる6500rpmまでの吹け上がりもなかなか気持ちよく、守備範囲がとても広いエンジンという印象を得た。
一方でモノコックに変更された恩恵は、いろいろなところで感じられた。最も顕著なのは、やはりハンドリング。フレームシャシーのクルマは、「ランドローバー・レンジローバースポーツ」のような例外を除けば、操舵(そうだ)に対してやはりどこかしら鷹揚(おうよう)で曖昧な感触を残すものだが、それがきれいさっぱり姿を消している。
ステアリングは中立付近から素直かつ正確な反応を見せるし、コーナリング中に図らずも大入力を受けても、「とっちらかる」ように軌跡を乱すようなこともない。この巨体にして軽快、といっては語弊があるが、伊豆のワインディングロードを想像していたよりずっと楽しく駆け抜けることができた。
もはや完全な乗用車
クルマを止めて、ボディの内外をじっくり観察してみることにしよう。まずインテリア。ヨーロッパのプレミアムSUVをベンチマークにしたというだけあって、デザインも素材の質感も大幅に洗練された。従来型にはまだそこはかとなく残っていたピックアップトラックぽさがきれいに払拭され、ダッシュボードの風景はもはや完全に乗用車のものとなったと言っていい。
運転席に座ると、居心地としてはやや埋もれた印象を受ける。周囲をぐるりと取り囲むウィンドウの見切り線が、たとえばレンジローバーなどに比べるとかなり高めで、何やら深めのバスタブに漬かっているような感じがある。そのせいで、これだけ立派に前方に伸びたボンネットが、意外やドライバーの目には見えていない。ボンネット真ん中の盛り上がった部分が、うっすら見えているくらいだ。
加えて全長5020mm×全幅2000mmという大きさゆえ、3列目シートは実際使える広さを備えている。ちょうど後輪の間に座る形になるが、横方向は2人が着座しても余裕があるし、膝まわりもさほど窮屈ではない。ミニバン的な用途にも十分に耐えそうだ。
格段に洗練されたが、アメリカンSUVならではのスケール感は健在。エクスプローラーはいまなお日本のSUVとはひと味もふた味も違う存在である。
(文=竹下元太郎/写真=荒川正幸)
