アウディA7スポーツバック 3.0TFSIクワトロ(4WD/7AT)【試乗記】
今っぽい“軽さ” 2011.06.07 試乗記 アウディA7スポーツバック 3.0TFSIクワトロ(4WD/7AT)……1014万円
クーペのような大型5ドアハッチ「アウディA7スポーツバック」に試乗。その走りと居住性はいかなるものだったのか?
香るエレガンス
思わず見ほれたのは、走り去るその後ろ姿。実はこの試乗の前の週、ミュンヘン市内でバスの車窓越しに初めて、走っている「アウディA7スポーツバック」を目にしたのだが、高い目線から眺めるその姿は、まさにエレガントとはこのことだ……なんて思わせた。ロー&ワイドなプロポーション、小さなグリーンハウスに鋭角なショルダー、そしてリアエンドまで一筆書きで連なるルーフラインが、目をくぎ付けにしたのである。
用いられているデザイン要素には、それほど新しいものは無い。細かな違いはあっても、基本的なラインや造形はどれも最近のアウディではおなじみのものだ。それなのに、これだけ新しく見えるのだから大したもの。デザインチームは尊敬すべき仕事をしたと思う。
純粋なサイズの大きさも、存在感を際立たせているのは間違いない。なにしろ全長4990mm×全幅1910mm×全高1430mmというスリーサイズは、先代「A8」とほぼ同等。同じくテールゲートを持つ5ドアの「ポルシェ・パナメーラ」や「アストン・マーティン ラピード」ともほぼかぶるほどなのだ。これだけ大きく、しかも背が低ければエレガンスが香るのも、また当然だろう。
もちろん、新しいメカニカルパッケージの貢献度も無視できない。「A4」「A5」などと同じようにフロントデフの位置を前に出した駆動レイアウトによって、その前後オーバーハングは切り詰められ、2915mmというロングホイールベース化も実現されているのである。
交差点でも気持ちいい
インテリアの仕上がりもため息が出るほどだ。囲まれ感を演出するラップラウンドな意匠を採り入れつつも滑らかな線と面によって優美な印象すら醸し出す、その造形は秀逸そのもの。インテリアデザインに関しても、アウディは明らかに新しいフェイズに入りつつあると言っていい。無論、それも自慢の高いクオリティがあってこそ。レザー、ウッド、アルミの各素材はどれも美しいフィニッシュを見せ、8インチ大型モニターの画面も素晴らしい精細度で魅了する。
相変わらずMMI(マルチメディアインターフェース)はスイッチが多く煩雑だし、新しいパワートレインレイアウトは弊害も「A4」「A5」と同様で、センタートンネル右側が張り出して足元を窮屈にしている。もっとも実際には、この張り出しよりむしろフットレストの位置がABペダルに対して奥過ぎることの方が問題という気もするが。
居住性は予想に反して、不満を覚えるようなところは無い。着座位置が低いこともあり、しばらくは全高の低さのことなど考えていなかったほどだ。後席も二人掛けとしていることもあって、十分くつろげる空間となっている。
走りも期待に応える仕上がりだ。まず好感触だったのが、電動アシスト化されたステアリングの操舵(そうだ)感。当初は手応えが軽い上に敏感に過ぎたが、モデルライフ後半に入って驚くほど磨かれた「A6」のそれを、一層しっとりさせたという印象。交差点を曲がるだけで気持ち良くさせてくれる。それもあってか、身のこなしも全長5mに迫るとは思えないほど颯爽(さっそう)とした印象だ。
「CLS」より若々しい
3.0TFSI、つまりV型6気筒直噴スーパーチャージャー付きエンジンに7段Sトロニックを組み合わせたパワートレインは、緻密で上質な回転フィーリングにフラットで余裕に満ちたトルク、そしてスムーズな変速ぶりなど、すべてに文句のつけようがない。唯一、アイドリングストップ機構により停止したエンジンを再始動する発進の時だけは、若干しゃくるような動きも出る。ここだけはさらなる洗練を望みたい。
乗り心地も快適だ。意外やエアサスペンションはオプションにもないが、特に70km/hくらいまでは姿勢がフラットに保たれつつサスペンションがしなやかに動いて、とても心地良い。その先の速度域では少々ヒョコヒョコとした上下動が出始め、路面のうねりで進路が微妙に乱される感じも出てくるが、さらに速度を上げれば、またビシッと安定感が出てきる。だから思わずアクセルを開けてしまうのである。
このA7スポーツバックをアウディは、「まったく新しいカテゴリーに属する」と言う。メディアでよく比較されるのが「メルセデス・ベンツCLS」クラスだが、実際には両車どちらにしようかと考える人はほとんどいないだろう。
端的に言って、A7スポーツバックはもう少しアクティブで若々しい感じがする。両車を隔てているのは、おそらく軽快感。普遍的で、つまりは伝統的なエレガンスが漂うCLSクラスに対して、こちらはテールゲートを持つことによる良い意味での“軽さ”が今っぽいライフスタイル感を透けて見せている。それこそパナメーラやラピードの存在も、そうした匂いにつながっているのかもしれない。
その大型のテールゲートは、4名乗車時で535リッターという容量を持つラゲッジスペースへのアクセスを容易にするのみならず、仮に何も載せなくとも、このクルマにとって実に大事な役割を果たしているというわけだ。
(文=島下泰久/写真=郡大二郎)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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