アウディA1スポーツバック ファーストエディション(FF/7AT)
名馬にクセなし 2019.12.06 試乗記 1984年に登場したアウディの「スポーツクワトロ」を連想させるモチーフがそこかしこに用いられた、2代目「A1スポーツバック」。同社のエントリーモデルとしてはもちろん、コンパクトなプレミアムモデルとしても注目度の高い、この新型車の魅力とは?オヤジ殺しのディテール
新型A1スポーツバックの姿が目に入ってきて、僕は軽く「おっ?」と思った。これまでのA1と、ずいぶん印象が違っているように感じられたからだ。先代のA1は3ドアと5ドアのどちらも、シンプルで丸みを帯びていて柔らかな雰囲気。けれど、5ドアのみの設定となった新しいA1は、写真で見ていたときよりもいくつかのシャープなラインがクッキリとしていて、全体的に引き締まったように感じられる。
フロントフェイスは“速く走りきるための穴”を想起させる黒い部分の占める割合が多かったり、フェンダーにはブリスター調に見える演出が施されていたりと、A1は精悍(せいかん)さを手に入れていた。エンジンフードとシングルフレームグリルの間に挟まれるようにして、3分割のエアインレットも設けられている。
現在のラインナップではA1の他にはスーパースポーツカーである「R8」にしか見られないそれは、往年のグループBラリーカーであるスポーツクワトロをモチーフにしたもの。A1はラインナップの末娘であり、若い層に向けたモデルでもあるはずなのに、何という“オヤジ殺し”……。
A1にもスポーツ色の強い「35 TFSI Sライン」が用意されていて、そちらはより空力を意識したディテールを持たされたバンパーやサイドスカートなどを備える、男性的でたくましい雰囲気を身につけている。それをスポーティーでかっこいいと感じるかゴテッとして過剰と受け止めるかは人それぞれ、かもしれない。けれど現時点における標準モデルである「35 TFSIアドバンスト」は、スッキリした顔つきとシルエットを持つ仕立て。
オヤジ殺しのディテールを持ってはいてもそこばかりが目立つというわけでもなく、カッチリとシャープではあるけれどクリーンなスタイリングは、若い男性ユーザーだけじゃなくて“かわいい”系を好まない女性ユーザーの好みにもドンピシャで合うんじゃないか? なんて感じたりもした。
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すっきりと楽しい気分
実際に走らせてみたら、そうした印象がさらに強くなった。僕がステアリングを握ったのは、35 TFSIアドバンストをベースにした限定250台の「ファーストエディション」。「バーチャルコックピット」付きの「MMIナビゲーションパッケージ」、リアビューカメラやパーキングシステムなどで構成される「コンビニエンスパッケージ」、アダプティブクルーズコントロールやアクティブレーンアシストなどからなる「アシスタンスパッケージ」などが備わる“全部のせ”のような仕様だ。443万円と、ベースのアドバンストより78万円も高価だが、中身を見ればお買い得であることが分かるモデルだ。
が、基本的な部分は通常の35 TFSIアドバンストと共通。フォルクスワーゲングループのMQBプラットフォームの上に構成されたFFモデルで、搭載されるエンジンは気筒休止機構を備えた1.5リッター直4 DOHC直噴ターボ。最高出力は150PS/5000-6000rpm、最大トルクは250N・m/1500-3500rpmで、デュアルクラッチ式の7段Sトロニックと組み合わせられる。
数値の上では見るべきところはなさそうなのだが、実は思いのほか好印象だった。エンジンは走りはじめからスッとトルクを立ち上がらせ、ゆっくり走らせるときには何も意識する必要のない自然な力強さを感じさせてくれる。上りが続くような場面でも力不足を感じることがない。そして、右足にチカラを込めると、そこから直線的に気持ちよーく伸びていく。
それを途切れさせることなく、変速スピードの速いSトロニックがつないでいく。ものすごく速いというわけじゃないけれど、爽やかに速い。アウディにしては軽い1220kgという車重も効いて、発進時にもコーナーからの脱出時にも、じれったさのない加速を楽しませてくれる。サウンドも意外や乾いた感じで気持ちいいし、パワーとトルクは過剰でもなければ不足があるわけでもなく、ワインディングロードでもすっきりと楽しい気分になれるのだ。
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操安性はかなりのレベル
ハンドリングもそうだった。日常領域ではほどよい引き締まり感のある快適といえる部類の乗り心地を示してくれるが、ステアリングを右に左にと忙しく操作し続けるような道に滑り込んでも、変なへこたれ方はしない。スルッと向きを変えてコーナリングに入り、ピタリとしたオン・ザ・レール感を伝えながら、落ち着いた姿勢でスパッと正確にコーナーを抜けていくことができる。
コーナリング中にステアリングを切り増ししたり戻したりしなければならないようなときでも、クルマはレスポンスよく望んだとおりの反応を見せ、といって安定感を崩すようなそぶりもない。いかなるときにもフロントの動きに対して素直にリアがついてくる印象だ。操安性はかなりのレベルにあるといっていいけれど、といって際立った味つけや演出があるわけじゃないから、とっても自然なスポーティーさ。雑味のようなものも感じられず、爽やかに楽しい。
エンジンの気筒休止(COD)については、ゆっくりとクルージングしていて右足のチカラを抜いているときなどにインジケーターが作動を教えてくれるものの、振動だとかフィールの変化など、作動時にも解除時にも体感できるものは何もない。
アクセル操作に対して比較的素早く反応するようだが、それもとっても自然。時間の限られた試乗だったから試すことはできていないけれど、高速道路をクルージングしながらのロングドライブなどでは燃費の数値となってCODの効き目を教えてくれるんじゃないか? と感じた。
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もう少しスパイスが効いていれば
新しいA1のいいところは、そうした走りの部分に限らない。全長が55mm延びたことに対してホイールベースは95mm延長されていて、それはほぼそのまま居住空間に充てられている。運転席と助手席は以前から狭さを感じることもなかったわけだけれど、後席については足元のスペースに余裕が生まれている。荷室容量も先代より65リッター拡大された335リッターで、後席を倒せば1090リッターのスペースが現れる。居住性や実用性も、当然のことながら高められているのだ。
加えてインパネまわりをガラッと変えたことによる操作性の向上、各部の質感のさらなる向上、セーフティーデバイスやアシスタンスデバイス、コネクティングデバイスの──セットオプションであるものが多いけれど──充実化などなど、あらゆる部分に手が入っている。
アウディA1スポーツバック、いいクルマだなぁと感じさせられた。デザインや使い勝手、ハンドリングやパフォーマンスなど各項目の得点をレーダーチャートの上に置いてつないだら、円に近いとても大きな多角形ができあがるような、そんな感じだ。
でも、だからなのだろうか、“いいクルマ感”は強烈にあるのに、何か特徴は? と尋ねられたら強力に「ココだ!」というところが思い浮かばず、やっぱり“だからいいクルマなんだってば!”としか答えられないようなところもある。
人間というのはワガママなもので、出来のいいモノを求めるくせに、いざ素晴らしいモノを与えられると、スパイスのような何かがちょっとは欲しいな、と心のどこかで感じてしまったりもする。自分の身勝手さにちょっとばかりひるんでしまったような、そんな気にさせられた試乗であった。
(文=嶋田智之/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アウディA1スポーツバック ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4040×1740×1435mm
ホイールベース:2560mm
車重:1220kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)215/45R17 91W/(後)215/45R17 91W(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:--km/リッター
価格:443万円/テスト車=446万3000円
オプション装備:フロアマット(3万3000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:588km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

嶋田 智之
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