DS 3クロスバックE-TENSE(FF)/DS 7クロスバックE-TENSE 4×4(4WD/8AT)
アバンギャルドも電動化 2019.12.30 試乗記 フランスの前衛的ブランドであるDSから、2タイプの電動SUVが登場。早速かの地でステアリングを握ってみると、“オートクチュール”をテーマに掲げるDSにマッチした、完成度の高い走りを楽しむことができた。BEVはグレードのひとつ
2019年11月、グループPSA第3のブランドであるDSオートモビルは、パリ市内の歴史あるプールを改築したホテルを拠点に、「E-DSウイーク」と題したBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル、つまり電気自動車の意味)とPHEV(プラグインハイブリッド車)の国際試乗会を開催した。前者は「DS 3クロスバック」、後者は「DS 7クロスバック」をベースに、それぞれ「E-TENSE(イーテンス)」のサブネームが与えられている。
メルセデス・ベンツの「EQ」、アウディの「e-tron」やフォルクスワーゲンの「ID.」はBEV、ボルボのツインエンジンはPHEVを意味する、それぞれ特別なブランド名やサブネームだ。車名+eあるいはe+車名でも十分意味は通じるし、今や多くのメーカーがシンプルな方を選んでいる様子。2020年に登場するホンダのコンパクトEVに至っては「ホンダe」と、そのまんまだ。
ともあれ、同じグループ内のプジョーが先に発表した新型「208」のBEVが「e-208」を名乗っているのに対して、DSオートモビルは電動化モデルにE-TENSEというサブネームを与えることにした。キャッチフレーズは“Haute Couture, Électrique”(フランス語で“電動のオートクチュール”の意)。ボンネットに付く「DS」のエンブレムまで、「E」のロゴをモチーフにした専用品に変えるほどの力の入れようである。
先発のプジョー208がそうであるように、グループPSAでは今後、顧客がガソリンやディーゼルを選ぶのと同じように、EVやPHEVを普通に選べるよう、選択肢に加えることを決めている。DSオートモビルも、2025年以降に登場する新型車は何らかの電動化が施されたモデルしかラインナップしないと発表しているので、いずれは全車がE-TENSEになってしまうわけである。
電動化を進めるグループPSAは、従来のEMP2プラットフォームのクルマにはPHEVを用意し、最新のプラットフォームであるCMP(コモン・モジュラー・プラットフォーム)については、開発段階からBEVの設定を考慮している。この計画をDSオートモビルのラインナップに当てはめると、EMP2のDS 7クロスバックにはPHEV、CMPのDS 3クロスバックにはBEVが用意され、今回のイベントで同時に試乗する機会が与えられた。
軽やかに見えて重厚
シルキーホワイトがイメージカラーだというE-TENSEの、まずDS 3クロスバックから試乗する。最新のCMPプラットフォームを採用するこのクルマのガソリンモデルは1.2リッター直3ターボエンジンを搭載し、2019年夏に日本でも発売されたばかり。「日産ジューク」の成功をきっかけに開発され、「アウディQ2」をライバルと名指しする、“プレミアムBセグメント”のSUVである。
BEV仕様は、フロア下に容量50kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、フロントのモーターで走るFWD(前輪駆動)車である。車重はDS 3クロスバック(日本仕様)のカタログ値1280kgに対しておよそ250kgの車重増となる1525kg。トレーリングアームのリアサスペンションにパナールロッドを追加した以外に大きな変更はなく、キャビンやラゲッジスペースも同等に確保される。
航続距離はWLTPモードで320km、NEDCモードで430km。充電時間は、7.4kW充電器で7時間30分、11kW充電器で5時間。一方、公共の100kW急速充電器ではバッテリーの充電率0→80%まで30分で充電可能とされる。0-100km/h加速9秒、最高速は150km/hである。
DS 3のインストゥルメントパネル周りは、ダイヤモンド型をモチーフにした中にスイッチが並ぶ、ガソリン仕様と同等のもの。メーター内に走行可能距離や「Charge」の文字が表示されているのを見て、ようやくBEVだとわかる。スタートボタンはガソリン車と同じ位置で、これを押してスタンバイ。静々と走りだすと、ガソリン仕様より車重が増えたせいか適度な荷重がかかり、BEVの方がしっとりかつフラットな乗り心地を見せた。
クラスを問わずプレミアム性を添える
DS 3の走行モードは、ノーマル/エコ/スポーツの3段階に切り替えが可能である。試しにハイウェイでスポーツモードを選ぶと、フラットな姿勢のまま強烈に加速し、あっという間に周囲の流れを置き去りにしてしまった。ただし、普段はノーマルで十分。逆にエコはアクセルレスポンスがやや控えめだった。
DS 3はボディーの剛性感が高く、例えば筆者が『CG』本誌の短期テストで担当していた「日産リーフ」よりクラスは下だが、カッチリとした走りっぷり。同時に、交差点ひとつ曲がるだけでもBセグメントらしい、軽快な動きが感じられた。そこで、帰国後にあらためてガソリン仕様に乗ると、たしかにパリの街角をくるりと曲がっていたはずのBEV仕様よりはるかに軽快なのだった。BEV仕様単体で見れば、想像以上に軽快に感じられたかもしれない。しかし、こうしてガソリン仕様にあらためて乗ってみると、BEVの低重心化と車重増の影響はしっかりと認識された。ただし、街中でもハイウェイでもしっとりかつ力強く、EV化は、BセグメントサイズのDS 3のプレミアム性を上げる、ひとつのスパイスになっていた。
続いてテストしたEMP2プラットフォームのDS 7クロスバックもE-TENSEを名乗るが、こちらはPHEVである。フロントに200PSの1.6リッターガソリンターボエンジンを搭載、アイシン・エィ・ダブリュ製8段ATの中にフロントモーターが収まるという構造を取る。リアアクスルにも約80kWの電動モーターを配する4WDで、車名は「DS 7クロスバックE-TENSE 4×4」となる。フロア下に搭載するリチウムイオンバッテリーの容量は13.2kWh。トータルでのシステム最高出力は300PS。モーターのみで58km走行可能(WLTPモード)だという。1.6リッターガソリンターボの日本仕様との車重差は255kg。
ICE(エンジン仕様)と同様に、フロントカメラ採用によるADASの装備はもちろん、PHEVのDS 7も、あらかじめ前方の路面状況を見て、ダンパーの減衰力を常に電子制御する「DSアクティブスキャン・サスペンション」を装備しているからだろう、これがしなやかな乗り心地に効いている。
ローブの通ったわだちを行く
DS 7に用意された試乗コースは、パリ郊外のオフロードコースまで往復するルート。さらに現地でオフロードテスト用のクルマに乗り換え(といっても仕様に違いはない)、4WDの実力も試す。
ベースモデルも現状ではDSブランドのフラッグシップとして、DS 3以上にゆったりとした乗り心地をセリングポイントに掲げるDS 7だけに、道中は、EVモードでは静かなまま、あっという間に周囲の流れをリードしていた。
到着したオフロードはWRC(世界ラリー選手権)のテストでも実際に使われているコース。「(セバスチャン・)ローブだってここでテストしていたんだ」と隣に座るインストラクターが自分の手柄のように教えてくれる。森の中の一本道を抜けると、開けた草地のように見えて、実際はところどころ深い水たまりのある泥濘(でいねい)地という具合だった。アップダウンもあるのだが、特にヒルディセントコントロールのような装備もなく、PHEVのDS 7はEVモードのまま静々と進んでいく。路面状況によっては本格的なオフロードSUVにはかなわないものの、ローブのテストコースを走り切ったのだった。街角でアバンギャルドをうたうキラキラしたフロントマスクは泥まみれだったが、実に頼もしくて愛着を感じた筆者であった。
“電動化”された2台のE-TENSEの完成度はかくも高いものだった。何より彼ら自身が“オートクチュール”をうたうほど、電動化はDSのクルマを技術面からアバンギャルドに仕立てている。ただし、今のところ両車の日本への導入時期は未定。右ハンドル化以外の調整もいろいろと必要なのだろう。今後は欧州勢の“電動系ライバル”もどんどん日本に上陸してくるはず。早期の国内投入に期待したい。
(文=中村昌弘/写真=DSオートモビル/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
DS 3クロスバックE-TENSE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4118×1791×1534mm
ホイールベース:2560mm
車重:1525kg
駆動方式:FF
モーター:永久磁石同期電動機
最高出力:136PS(100kW)
最大トルク260N・m(26.5kgf・m)
タイヤ:(前)215/60R17/(後)215/60R17(ミシュラン・プライマシー3)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
DS 7クロスバックE-TENSE 4×4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1910×1620mm
ホイールベース:2730mm
車重:1825kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:--
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/3000rpm
フロントモーター最高出力:110PS(81.2kW)
フロントモーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)
リアモーター最高出力:112PS(83.0kW)
リアモーター最大トルク:166N・m(16.9kgf・m)
タイヤ:(前)205/55R19/(後)205/55R19(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

中村 昌弘
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