DS 3クロスバック グランシック(FF/8AT)
装飾系SUV 2019.09.11 試乗記 プレミアムブランドを志向するDSが、新たなクロスオーバーSUV「DS 3クロスバック」を送り込んできた。キラキラとしたヘッドランプや複雑な面構成のボディーパネルなど、ディテールへのこだわりはひと目で分かるものの、肝心のクルマとしての出来栄えはどうなのか。370km余りを後にした結論は!?目指したのは“小さな高級車”
このDS 3クロスバックの最上級グレード「グランシック」は、本体価格にして404万円。といっても、実際に404万円で買えるのは、受注輸入あつかいのソリッドホワイトの車体色(正式名は「ブランバンキーズ」)のみ。これ以外のメタリックやパールなどの“らしい”車体色はすべて5万9400円~7万0200円のオプションなので、このクルマの実勢本体価格(?)は410万円前後。車体色以外のメーカーオプションはとくに用意されないが、今回の試乗車のようにセンター液晶パネルで使える日本製ナビを販売店オプションで装着すると、合計価格は430万円台に達する。
車体サイズでいうと、DS 3クロスバックは現在日本で買えるクロスオーバーSUVでも最小級の一台である。全長は現行の「日産ジューク」や「ルノー・キャプチャー」より短く、立駐対応となる全高はこれらより低い。軽自動車以外でこのクルマより明確に小さいSUVは、現行機種では「ジムニーシエラ」「イグニス」「クロスビー」のスズキ車だけだ。
DS 3クロスバックはそんなBセグメント(のなかでも小さいほうの)サイズに、400万円超という強気のプライスタグを掲げる。これが普通のハッチバックではなく、大径タイヤのクロスオーバーであることは高価格の理由のひとつにはなろうが、かといって、本格的なオフロード車でもなければ、クラス最速をうたう高性能スポーツモデルでもない。
そんなDS 3クロスバックの目指すところをあえて短い言葉で表現するなら、いわゆる“小さな高級車”である。小さな高級車といえば、これまでも数多くのメーカーが挑戦してきた歴史があるが、成功例は意外なほど少ない。
サイズや価格設定でDS 3クロスバックに競合するクルマは「アウディQ2」と「MINI」(のハッチバックモデル)くらいといっていい。そのなかでも、現在のMINIは歴史的にもまれに見る、小さな高級車の大成功例である。
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クラスを超えた質感の調度品
DS 3クロスバックが“高級車”を自認するよりどころは、前衛的なデザインに加えて、なんとも手の込んだ内外装の調度類と、素晴らしく充実した装備群である。
平滑度の高いメタリック(もしくはパール)カラーの車体には、LED照明と繊細なメッキ部品がこれでもか……とあしらわれる。どこぞのスーパーカーを思わせる格納式ドアノブは、このクラスではもちろん初めての例となる。機密性を保つウェザーストリップが巧妙に隠されたサイドウィンドウ周辺の仕上げは、こうして文字で読むより、実物のほうがずっと新鮮かつ美的インパクトもある。
ダイヤモンド(=ひし形)のモチーフが繰り返される内装も、なるほどBセグメントとは思えないくらい質感が高い。2トーンのダッシュボードは分厚く柔らかい素材で、そのシボ表現も本物のレザーと見まがうばかりだ。
さらに、最上級グレードのグランシックにはレザーシートが標準装備となる。このクラスのレザーシートは張りが強すぎたり表皮が硬めだったりしがちで、安価なファブリックのほうが逆に肌ざわりがよいケースも少なくない。事実、別の機会に試乗したひとつ下のグレードとなる「ソーシック」のシートでは、ジャージ風ファブリック素材の吸いつくような感触がなんとも心地よかった。しかし、今回のレザーシートはこのクラスのレザーとしては異例に柔らかく、しっとり感やフィット感もソーシックのファブリックと甲乙つけがたい。
また、フル液晶メーターパネルからウィンドウ投影式ヘッドアップディスプレイまでカラー表示になるなど、その内外装調度品には、今思いつくハイテク親切装備がほぼすべてそろっている印象だ。そして、Bセグメントとしては異例なほど立派なセンターコンソールに囲まれた前席空間は、なるほどコンパクトカーを超えた高級感といっていい。複雑な意匠や内装の素材使いのレベルは、お世辞ぬきでQ2やMINIに勝るとも劣らない。
軽快なのに重厚な乗り心地
DS 3クロスバックは「CMP(コモン・モジュラー・プラットフォーム)」という初出の新開発骨格を土台とする。CMPはプジョー・シトロエングループ(PSA)では「DS 7クロスバック」などに使われている「EMP2」の下に位置づけられるプラットフォームだ。
C~Dセグメントに適合するEMP2に対して、CMPはB~Cセグメントを想定しつつ、同時に“電動化”も強く意識した設計になるのが特徴という。基本的にEMP2がカバーすることになっているCセグメントでも、純粋な電気自動車の場合にはCMPが使われるとか。
とはいえ、CMPとEMP2の設計思想には通じるところも多々ある。たとえば、ドアを開けたときに見えるサイドシルの背高形状(で断面積を確保する手法)は両者で酷似する。また、足元振動の少なさや低重心感のある乗り心地など、いかにもフロア剛性がしっかりした印象のあるDS 3クロスバックの乗り味に、EMP2の兄貴分たちとの共通の血統を感じる……のは単なる錯覚ではないはずだ。
DSはシトロエンから派生した高級車ブランドである。しかし、そのフットワークにはシトロエンほどあからさまに柔らかい上下動はなく、車両姿勢をフラットに安定させたまま、バネ下だけで路面入力をしなやかに吸収する。そうしたより現代的な調律に、シトロエンとは異なるDSへの差別化の意図がうかがえる。
スイッチひとつでパワステやパワートレインの制御をまとめて切り替える「センソリアルドライブ」をノーマルモードにすると、低速ではパワステは印象的なほど軽いが、速度が上がるにつれてどんどん重くなり、高速や山坂道に入るとスポーツモードと大差なくなる。そういう領域にいたっても、操縦性や乗り心地に体育会系の硬さは微塵もなく、スルーッと丸~く滑らかに曲がり、路面の凹凸を滑るようにクリアしていく。この軽快なのに重厚な味わいは、あまり類例のないライド感である。
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1.2リッター3気筒エンジンを侮るなかれ
Q2やMINIが、スポーツカー的な敏捷性や活発さを“高級”の一形態として表現しているフシがあるのに対して、DS 3クロスバックの味つけは良くも悪くも、それらとは趣が少し異なる。これが市場で成功するか否かはあと少し様子を見なければならないが、なんとか新しい世界観を打ち出そうとする心意気には、シンパシーを感じざるをえない。
グランシックはこの車体サイズとしては明らかに大径の18インチホイールを履く。伝統的フランス車なら、下級グレードの17インチこそ“らしい乗り心地”と軍配をあげたくなるケースが多い。DS 3クロスバックもたしかに低速でのアタリは17インチが穏やかなのだが、このクルマにかぎっては、サスペンションに強めのカツを入れやすい18インチのほうが独特のストローク感やフラットな姿勢がより強調される。個人的には、このクルマでは18インチのほうがバランスがいいと思う。
1.2リッター3気筒ターボというエンジン形式だけ見ると「このクラスでは何の変哲もなし」とスルーしてしまいそうである。しかし、この直噴ターボは本来はCセグメントにベストマッチするスペック設定であり、本国ではDS 7クロスバックや「プジョー5008」など、Cセグメントでも重めのSUVや3列シーターにも搭載される。
というわけで、PSAのBセグメント用としてはこのエンジンはほぼハイエンドといっていい。しかも、それに組み合わせられる変速機は8段ATである。ツインクラッチだのマイルドハイブリッドだの……と駆動系のハイテク化が著しい昨今では“8段”と聞いても瞬間的な驚きは少ないかもしれないが、考えてみれば、このクラスで8ATとは類例のない贅沢品だ。
このエンジンはもともと3気筒としては低振動で高級感があったが、8ATのおかげで振動面で不利な回転域を使うシーンも激減しており、高級パワートレインとして、さらにひと皮むけた感がアリアリである。
ADASはフルスペックで備わるものの……
デザイン、内外装の質感、ハイテクのパワートレインに加えて、DS 3クロスバックのもうひとつの高級表現が、ADAS(先進運転支援システム)の充実である。
マトリクスLEDヘッドライトは複雑な配光制御で眩惑を防止し、自動ブレーキはクルマから歩行者、二輪車(自転車を含む)を昼夜問わずに検知する。アダプティブクルーズコントロール(ACC)も電動パーキングブレーキによる全車速対応&渋滞追従型で、車線機能にしても単なる逸脱防止から一歩進んだ積極的にレーンキープする半自動運転制御(しかも車線内の右寄り、あるいは左寄りを走るか……まで選べる!)である。
当然のごとく、制限速度などの道路標識もカメラで読む。というわけで、DS 3クロスバックのADASは現時点で、普通に考えられる機能はほぼフルスペックといっていい。
これらADAS機能の大半は、ステアリングコラムの左下に生えるスイッチタワーで操作する。このタワー自体はPSAでは古くから馴染みのスタイルだが、このDS 3クロスバックでは多機能化しすぎて、ブラインドで使いこなすのが困難になってしまっている。ADASを強い売りにしつつあるPSAにとって、この種のインターフェイスの刷新は急務だろう。
半自動運転のレーンキープ機能もなるほど悪くないデキである。道路標識認識に使われるカメラも、電光表示式の制限速度標識まで読む能力をもつ高性能型で、読み込んだ制限速度にACC設定速度をボタンひとつでマッチさせる機能も意外に便利である。ただ、今回の試乗では周囲の明るさや車速、標識の位置……などで速度標識が読めなかったり、誤読したりということが何度かあった。まあ、少しばかり読みちがえたところでさしたる危険もないが、これと同様のクセは以前試乗した「シトロエンC5エアクロスSUV」でも見受けられた。
この種のシステムのサプライヤーはかぎられており、今回の場合もカメラそのものの性能というより、日本での実走行をもとにしたキャリブレーション不足という気がする。こうした面での不足や齟齬は最近のアウディやMINI(=BMW)ではあまり見られなくなった。DSが本気でジャーマン系高級車ブランドと正面から競合しようとするなら、こういう細かい詰め作業はこれまで以上に重要だろう。
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カルロス・タバレス氏の仕事
DS 3クロスバックは、2010年に発売された「シトロエンDS 3」の事実上の後継機種である。MINIのマーケティング手法に強く影響されて誕生した初代DS 3は、車体色やコスメ類などの多彩な選択肢を組み合わせたセミオーダーシステムを用意したり、「カブリオ」モデルを派生させたりと、様々な工夫を凝らしてきた。……が、MINIとならぶ“小さな高級車”という企画意図が、市場に十分に浸透したかどうかは正直なところビミョーである。
そんなDS 3がその他のDS車もろともシトロエンブランドから独立したのが、2014年秋。現在のPSAを率いるカルロス・タバレスCEOがルノーから(当時のゴーン会長に追い出されて?)電撃移籍してきたのが同年春のことだから、このDS独立もタバレス氏による大きな決断のひとつである。
タバレス氏のCEO就任の翌2015年からPSAの業績はV字回復して、現在はヨーロッパでもっとも勢いのある自動車グループとなった。ただ、時系列で考えても、DSの独立や分かりやすい新型DS車の商品企画は、タバレス氏がやってくる以前から現場で温められていたものだろう。そう考えると、タバレス氏はそうした現場力を分かりやすく勢いのあるカタチでうまく解放しているだけ……なのかもしれない。
タバレス体制下のPSAでは、このクルマに象徴されるように、DSをクロスオーバーに特化させる戦略が透けて見える。考えてみれば、自然に地上高を確保できるクロスオーバーは、高級でスタイリッシュな大径タイヤとフランス伝統の乗り心地を両立させるのに好適なジャンルともいえる。
DS 3クロスバックに加えて、シトロエンC5エアクロスや「プジョー508」……と、PSAの最新世代は各ブランドで吹っ切れたような商品力を発揮している。これらもすべてタバレス効果だとすれば、さすが……というほかない。
ところで、今回の取材を通しての平均燃費は9.4km/リッター(車載燃費計)と芳しくない結果だった。もっとも、今回の試乗・撮影はお盆休み直前の首都圏で実施したもので、都心では5km進むのに2時間近くかかるほどの大渋滞が頻発、しかも連日猛暑日でアイドリングストップもほぼ作動せず……の過酷さだったことは、DS 3クロスバックの名誉のためにお伝えしておく。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
DS 3クロスバック グランシック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4120×1790×1550mm
ホイールベース:2560mm
車重:1280kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/5500rpm
最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)215/55R18 99V/(後)215/55R18 99V(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:16.9km/リッター(JC08モード)/15.9km/リッター(WLTCモード)
価格:404万円/テスト車=437万2100円
オプション装備:メタリックペイント<ブルーミレニアム/ノアールオニキス>(5万9400円)/ナビゲーションシステム(22万8960円)/ETC 2.0車載器(4万3740円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1331km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(4)/山岳路(2)
テスト距離:378.0km
使用燃料:41.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.1km/リッター(満タン法)/9.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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