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ファンティック・キャバレロ スクランブラー500(MR/6MT)

やれることしかやらない 2020.01.11 試乗記 田村 十七男 イタリアのブランド・ファンティックが提案する、スタイリッシュなバイク「キャバレロ スクランブラー500」。都会の道を走らせて思い浮かんだのは、いつでも心を満たしてくれる、おいしい家庭料理だった。

オフロード系で完全復活

試乗ノートを繰って出てきた断片的なメモは、「イタリアの家庭料理っぽい」。もとよりイタリア人ではないから、かの地のマンマがつくる料理の神髄など知るはずもないし、ましてやミラノを州都とするロンバルディア州レッコ県バルザーゴ生まれゆえ、これまたイタリアンブランドにふさわしい113万円という価格に庶民性があるかといえば疑問符が浮かぶが、でもやはり、毎日食べても(乗っても)飽きが来ない親しみやすさがこのオートバイの良いところ。そう思わせる大きな理由のひとつは、スクランブラーというスタイルにある。

ファンティック・キャバレロ スクランブラー500。「ファンティックって何それ?」から説明しないといけないですよね。確かに、それ相応に二輪ブランドを知っているつもりの自分でも、ファンティックとなると旧車新車入り交じりで何でも扱う小さなバイク屋の壁際の奥にしまわれたまま何年も動いていなさそうな小さなバイクというイメージしかない。

先に触れたロンバルディア州で1968年に誕生。オフロード系に特化し、1970年代半ばにワークスチームを結成してトライアルやエンデューロ等のレースで大活躍する。が、競技に肩入れし過ぎて倒産の憂き目に。それを見かねた投資家グループが近年になって救いの手を差し伸べ、2019年には日本でもニューモデルがリリースされる運びになった。

その中の一モデルが今回の試乗車。ちなみにキャバレロ名義ではスクランブラーのほかに「フラットトラック」という系統もあり、いずれも125、250、500の3種を用意している。という丁寧な品ぞろえによって完全復活を宣言したファンティックが賢かったのは、かつて名をはせたオフロード系のモデルで勝負したこと。つまり「やれることしかやらない」に徹したことだ。

「キャバレロ スクランブラー」は、今回試乗した449ccの「500」のほかに、249.6ccの「250」、124.5ccの「125」がラインナップされる。排気量は違っても、車体のスリーサイズは変わらない。
「キャバレロ スクランブラー」は、今回試乗した449ccの「500」のほかに、249.6ccの「250」、124.5ccの「125」がラインナップされる。排気量は違っても、車体のスリーサイズは変わらない。拡大
2018年に創業50周年を迎えたファンティック。フロントフェンダーの先端に記念のステッカーが添えられていた。
2018年に創業50周年を迎えたファンティック。フロントフェンダーの先端に記念のステッカーが添えられていた。拡大
メーターは小ぶりな液晶タイプ。エンジン回転計の内側に速度や走行距離、時刻などが表示される。
メーターは小ぶりな液晶タイプ。エンジン回転計の内側に速度や走行距離、時刻などが表示される。拡大
ゴールドの倒立フォークが目を引くフロントまわり。タイヤはダート走行にも対応するピレリの「スコーピオン ラリーSTR」で、ブレンボが主に新興国の小中排気量車向けに展開しているBYBRE(バイブレ)ブランドのブレーキキャリパーが採用されている。
ゴールドの倒立フォークが目を引くフロントまわり。タイヤはダート走行にも対応するピレリの「スコーピオン ラリーSTR」で、ブレンボが主に新興国の小中排気量車向けに展開しているBYBRE(バイブレ)ブランドのブレーキキャリパーが採用されている。拡大

無理しない程度に“今風”

ファンティック再建の追い風となったのは、間違いなくスクランブラーブームだ。今はほとんどのブランドが用意しているこのスタイルは、オンロードタイプにオフロード用のタイヤを履かせて不整地も走っちゃおうぜという遊び心から生まれたのが始まり。しかし現在、機能的にオフロードも走れるスクランブラーを本気でオフロードに連れて行く人はほぼ皆無だろう。なぜか? スタイルが気に入っているだけだから。アップライトな乗車姿勢は高速道路でちょっときついけれど、もはやそんなに飛ばして走る気はなく、それよりも街中で気楽に乗れる感じがいい。2人乗りも楽そうだ。何より取り回しに気を遣わないから乗りたいときに乗れる……。

というような、戦闘機みたいなオートバイが大好きだった若い頃の自分が聞いたらあきれる大人の嗜好(しこう)を見事にかなえたのがスクランブラーなのである。でもってキャバレロのそれは、まさに毎日でも乗れる理想的な気軽さを備えていた。

449㏄の水冷単気筒SOHCエンジンの最高出力は40PS。街中なら十分に支配下におけるパワーがまず気持ちいい。その一方でスクランブラーの文脈にのっとった、高い位置にしつらえたマフラーは、存外に存在感を示す乾いた音を放つ。人によっては高めに感じるかもしれないシート位置とフロント19インチのホイールによる操作感は軽やか。だから、驚くほど速くはないけれど、ストレスを覚える鈍さもない。つまり、ちょうどいい。

デザインも、無理しない程度に今風を押さえているのが好印象だ。その反面、押し出しが強くないせいで「どこの?」と聞かれる機会が増えるかもしれないが、希少性という点で所有欲を満たす可能性を秘めている。

「スクランブラー500」の最高出力は40PSにすぎないが、細身の車体と軽量な車重(150kg)のおかげもあって、軽快な走りが楽しめる。
「スクランブラー500」の最高出力は40PSにすぎないが、細身の車体と軽量な車重(150kg)のおかげもあって、軽快な走りが楽しめる。拡大
乗車定員は2人。シート高が20mm下がる(820→800mm)ローダウンサスペンションがオプション設定されている。
乗車定員は2人。シート高が20mm下がる(820→800mm)ローダウンサスペンションがオプション設定されている。拡大
オフロード走行も視野に入れたスクランブラーらしく、排気管は高い位置にレイアウトされている。ドライカーボン製のヒートプロテクターが戦闘的なムードを醸し出す。
オフロード走行も視野に入れたスクランブラーらしく、排気管は高い位置にレイアウトされている。ドライカーボン製のヒートプロテクターが戦闘的なムードを醸し出す。拡大
伝統的な丸型ライトをイメージさせるLED式ヘッドランプ。ロービームは中心部分で、上半分の5灯はハイビーム用。
伝統的な丸型ライトをイメージさせるLED式ヘッドランプ。ロービームは中心部分で、上半分の5灯はハイビーム用。拡大
左側ハンドルバーには、ABSやライト、ホーン、ウインカーのスイッチがレイアウトされている。
左側ハンドルバーには、ABSやライト、ホーン、ウインカーのスイッチがレイアウトされている。拡大
2本出しのマフラーは、車体右側に集約。ビートの効いたサウンドが楽しめる。
2本出しのマフラーは、車体右側に集約。ビートの効いたサウンドが楽しめる。拡大
「キャバレロ スクランブラー500」の車体色(タンクカバーの色)は赤のみ。別途、ハンドガードやエンジンガードといったプロテクターがオプション設定されている。
「キャバレロ スクランブラー500」の車体色(タンクカバーの色)は赤のみ。別途、ハンドガードやエンジンガードといったプロテクターがオプション設定されている。拡大

体が自然に欲する味

個人的に気に入ったのは、ヘッドライトのハイ/ロー切り替えはこじゃれたダイヤル式スイッチなのに、ウインカースイッチがプッシュキャンセラー式ではなかったところだ。たぶんそこから「家庭料理」というワードが浮かんだのだと思う。実家暮らしの頃には見たことのないきれいな皿に盛りつけようと、おふくろがつくる料理はオシャレじゃなくていい。あえておいしいと口にする必要もなく、体が自然に欲する懐かしい味であってほしい。

こんな表現でキャバレロ スクランブラーの魅力が伝わるか心配ではあるが、久しぶりにオートバイに乗ってみようという方、さらには乗ってナンボとお考えの方には、これは本当にオススメの一台です。さまざまな経験を積んできた大人はおそらく「できることしかできない」という経験値をお持ちのはず。そんなあなたには「やれることしかやらない」腰の据わったイタリアのマンマみたいなキャバレロが似合うと思うから。

(文=田村十七男/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)

ファンティック・キャバレロ スクランブラー500
ファンティック・キャバレロ スクランブラー500拡大
樹脂製タンクカバーの上面には、純正タンクバッグの装着スペースが確保されている。なお、内部にあるガソリンタンクも樹脂製となっている。
樹脂製タンクカバーの上面には、純正タンクバッグの装着スペースが確保されている。なお、内部にあるガソリンタンクも樹脂製となっている。拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2166×820×1135mm
ホイールベース:1425mm
シート高:820mm
重量:150kg
エンジン:449cc 水冷4ストローク単気筒 SOHC 4バルブ
最高出力:40PS(30kW)/7500rpm
最大トルク:43N・m(4.4kgf・m)/6000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:113万円

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