あの名車も復活! 映画『007』シリーズの“劇中車”に注目せよ
2020.05.29 デイリーコラムむかしはもっとハチャメチャだった
数々の危機を乗り越えてきた伝説のスパイも、ウイルスには勝てなかった。『007』シリーズの最新作『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2020年4月10日公開が予定されていたが、同年11月20日に延期になったのだ。もともとは2019年11月公開のはずだったので、1年遅れである。秋にコロナ感染が再拡大しないことを願いつつ、今は待つしかない。
シリーズ25作目となるこの作品は、ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる最後の作品だといわれている。監督は日系アメリカ人のキャリー・ジョージ・フクナガで、主題歌を歌うのはビリー・アイリッシュ。悪役にはクリストフ・ヴァルツに加えて『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレック。ボンドガールは再びの出演となるレア・セドゥと注目のキューバ美女アナ・デ・アルマスという豪華キャストだ。
そして何より気になるのは、どんなクルマが登場するかだろう。これまで数々の名車が007シリーズを彩ってきた。覚えておきたいのは、ボンドカーと呼んでいいのはMI6の秘密兵器開発を担うQによって改造されたクルマだけだということ。例えば、『007は二度死ぬ』の「トヨタ2000GT」は強いインパクトを残したものの、ボンドカーの定義からは外れる。第1作の『ドクター・ノオ』には「サンビーム・アルパイン」、第2作の『ロシアより愛をこめて』には「ベントレー4 1/4リッター」が登場するが、いずれもQの手が入っていないクルマだ。
第3作の『ゴールドフィンガー』でボンドが乗った「アストンマーティンDB5」が、正式には初めてのボンドカーである。防弾ガラス仕様なのはもちろん、マシンガンやオイル散布装置、タイヤのハブからせり出す回転刃などの攻撃装置を装備する。危機が迫ると、ボタンひとつで助手席を車外に放り出すこともできるのだ。
現実離れしているが、こういうギミックが楽しかった。ダニエル・クレイグが演じるようになってからはシリアスな展開になっているが、当初はドタバタ風味のある娯楽作だったのだ。だてなスーツ姿でシェイクのマティーニを飲み、女性にはモテモテ。スパイのくせに名前を聞かれると素直に本名を名乗る。格闘シーンでは、猫パンチを繰り出すと敵は簡単に倒れる。リアリティーなど気にしてはいないのだ。
そういう意味では、究極のボンドカーが『私を愛したスパイ』の「ロータス・エスプリ」かもしれない。敵に追いかけられて海に落ちて万事休すかと思ったら、潜水艇にトランスフォーム。水中からミサイルを発射してヘリコプターを撃ち落とすという離れ業を使った。秘密兵器の好きな男の子たちは大喜びだったに違いない。
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最新作はアストン祭り
1990年代になると、BMWがボンドカーとして使われるようになる。『ゴールデン・アイ』の「Z3」、『トゥモロー・ネバー・ダイ』の「750i」、『ワールド・イズ・ノット・イナフ』の「Z8」である。遠隔操縦装置が付いていたりして見どころはあったが、やはり「ボンドカーはアストンだろ!」という信念を持つ保守的なファンも多かった。21世紀になると、『ダイ・アナザー・デイ』に「ヴァンキッシュ」、『カジノ・ロワイヤル』に「DBS」が登場する。
それでも物足りないと感じるのが、最先鋭のDB5至上主義者たちである。シリーズ誕生から50年を経た2012年、『スカイフォール』でDB5が復活した。ナンバーはオリジナルの「BMT216A」。ただし、これはボンドカーではない。MI6から払い下げられたもので、ボンドのプライベートカーなのだ。久しぶりに勇姿を見せて存在感を示したが、敵の攻撃を受けて穴だらけになってしまう。
2015年の『スペクター』のボンドカーは「DB10」。アストンマーティンがこの映画だけのために製作したモデルで、市販はされていない。マシンガンや火炎放射器を装備して高い戦闘力を持っていたが、カーチェイスの末に川に沈没させてしまう。この作品のラストには、Qによって修復されたDB5が現れた。ということは、ボンドカーDB5の復活ということになるはずだ。
『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の予告編を見ると、ボンドがこのDB5で暴れまわるシーンがある。ヘッドライトにはマシンガンが仕込まれているようで、これぞ待ち望んでいたボンドカーだ。ほかにも「ヴァンテージ」や「DBSスーパーレッジェーラ」が登場するという。さらには2022年発売予定の「ヴァルハラ」まで姿を見せるというから、ファンにとってはたまらないサービスである。
見るだけでなく乗りたくなるのは当然だが、DB5の価格は高騰しているし、ヴァルハラは1億5000万円だというからハードルが高い。手を出せるとすれば、二輪だろう。ボンドはあまりバイクには乗らないが、今作では「トライアンフ・スクランブラー」で派手なアクションを見せる。コラボモデルが限定で発売されるらしい。価格は259万円。ボンドになりきることができるのなら、安い買い物ではないか。
(文=鈴木真人/写真=アストンマーティン、トヨタ自動車、ロータス カーズ、BMW、トライアンフ モーターサイクルズ/編集=関 顕也)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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