ファンティック・キャバレロ スクランブラー700(6MT)
優等生にはマネできまい 2025.01.27 試乗記 伊ファンティックのスクランブラーのなかでも、最大排気量を誇る「キャバレロ スクランブラー700」。デザインからして個性的なこのマシンは、見た目にたがわず“走り”も攻めたものだった。優等生なよそのバイクとは一味違う、その魅力をリポートする。懐かしのスタイルとモダンな装備を併せ持つ
ファンティックは1960年代にイタリアで創業したバイクメーカーだ。オフロード系のバイクを多く生産していて、エンデューロやトライアルでは根強いファンがおり、特にトライアルでは1980年代に何度も世界チャンピオンの座に輝いていた。その後、経営不振で一度は姿を消したものの、2000年代に入って復活。さまざまなモデルを投入してレース活動も再開した。現在はエンデューロ、スーパーモタード、ロードレースなどで活躍し、最近は電動モビリティーの開発にも力を入れている。
キャバレロは、そんなファンティックのストリートモデルとして、「125」から「700」まで複数の機種がラインナップされている。今回紹介するのは最大排気量のスクランブラー700だ。“キャバレロ”とは1970年代から1980年代にかけて、ファンティックのなかでも人気のオフロードバイクにつけられていた名前だ。その名を引き継いだ現行のキャバレロ スクランブラーは、赤いタンクや丸いゼッケン風のサイドカバーなど、古きよき時代のスクランブラーをイメージさせるデザインが取り入れられている。そのいっぽうで倒立フォークを頑丈そうなステムでクランプし、ブレーキキャリパーをラジアルマウントするなど、走りを意識した装備も忘れられていない。
エンジンはヤマハの「MT-07」などに搭載される並列2気筒で、排気量は689cc。フロントに19インチ、リアに17インチのスポークホイールを装着し、マフラーはアップタイプの右側2本出し。個性的なレトロモダンスタイルだ。走りだす前に少し気になったのはクラッチレバーの重さ。特に重いというわけではないのだが、最近のアシスト&スリッパー機構付きのマシンから乗り換えると、「少し重いな」と感じる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
グイッとひねればドカンと加速
ライディングポジションはスクランブラーらしく、上体の起きたリラックスした姿勢で、オン/オフ問わずマシンをコントロールしやすい。車重が185kgと軽量におさめられていることに加え、ハンドル幅が広いこともあって、左右に傾けたときに車体を支える力は数値よりさらに軽く感じる。これならミドルクラスから乗り換えても違和感はないだろう。シートはスポンジが薄くて固めだが、乗り心地は悪くない。
エンジンは非常に元気がいい。低回転からでもスロットルを開けると勢いよく飛び出す。最初は面食らったほどに快活だ。ビッグバイクに慣れていない人は注意したほうがいいくらいである。中速から元気のよい特性なので、ストリートをキビキビ走るとかなり面白いし、5000rpmくらいからは気持ちよく回転も伸びていく。加速するときは270°ツインらしい小気味よい排気音が響く。
MT-07よりもずいぶんやんちゃな特性だが、聞けばエンジンのマップを独自に開発しているのだとか。燃料がハイオク指定になっているのも、出力を考慮したセッティングになっているからだろう。
ハンドリングはちょっと変わっている。19インチのフロントタイヤを履いたスクランブラーということで、おだやかにバンクしていく特性を予想していたのだが、どちらかというとフィーリングは17インチフロントタイヤのスポーツネイキッドのようだ。キャスターが立っていて、小さいオフセットで安定性を確保しているからだろう(オフセットが小さくなると直進安定性に寄与するトレールが大きくなる)。その結果、バンクさせるとフロントの舵角が強めにつく。この傾向は低速で出やすく、速度が高まるにつれ舵角のつきかたもおだやかになっていく。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
バイクを構成するすべての要素が個性的
サスペンションのスプリングレートは柔らかめで動きもよいのだが、前後ともダンピングが強く効いているから姿勢変化が抑えられていて、これもスポーツネイキッド的な特性をつくり出しているように感じた。
このアシと、先述したハンドリング特性の結果、低速コーナーではバイク任せにバンクさせるというのではなく、ライダーがステアリングを自分でコントロールしてやるような感じで走ることになる。個人的には19インチフロントホイールの特性を生かして、ステアリング操作に気を使うことなくバンクさせられるハンドリングのほうが好きなのだが、このあたりのフィーリングはライダーによって好みが分かれるところ。面白いと感じる人も少なからずいることだろう。
オフロードを意識したブロックタイヤは、オンロードでもノイズは小さく、コーナーを多少攻めてみてもブロックの剛性不足による頼りなさは感じなかった。ワインディングロードを楽しむ程度であれば、グリップも問題ないだろう。もし舗装路での使用しか考えないのであれば、マシンを手に入れてからタイヤをオンロード用に変更してみても面白いかもしれない。ハンドリングはタイヤによって大きく変わるはずだ。
今回の試乗では、都心部でキャバレロ スクランブラー700をしばらく走らせてみたが、車体が軽くてパワーがあり、自由自在にマシンを加速させることができるから、かなり楽しむことができた。国産車に比べると相当に“攻めた”一台である。優等生的にそつなくまとめられているのではなく、デザイン、エンジン、ハンドリングのすべてにおいて個性的な味つけがされていることが、このバイクの魅力なのだと思う。
(文=後藤 武/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力=モータリスト合同会社)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2164×890×1136mm
ホイールベース:1453mm
シート高:830mm
重量:175kg(燃料を除く)
エンジン:689cc 水冷4ストローク並列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:74PS(54.4kW)/9400rpm
最大トルク:70N・m(7.1kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:175万円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】 2026.5.27 「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。













