アストンマーティンDBXプロトタイプ(4WD/9AT)
驚くべき総合力 2020.01.17 試乗記 アストンマーティン初のSUVとして開発された「DBX」。2020年春の発売を前に中東・オマーンで試乗した新型車は、スポーツカーブランドの血筋を感じる操縦性と、予想以上の実用性を兼ね備えていた。さらなる成長への一歩
プレミアムカーよりも1クラス上にあたるラグジュアリーカーのマーケットは世界的に拡大傾向にある。ラグジュアリーカーの代表的なブランドであるフェラーリ、ランボルギーニ、アストンマーティン、マクラーレン、ロールス・ロイス、ベントレーの5ブランドは2018年にグローバルで3万9971台を販売したが、これは2014年の3万0177台に対して約32%の伸びにあたる。同じ期間にメルセデス・ベンツ、BMW、アウディの3ブランドはおよそ19%セールスを増やしたので、ラグジュアリーブランドはそれを5割以上も上回るペースで急成長したことになるわけだ。
といっても、各ラグジュアリーブランドは決して手をこまねいていたわけではなく、さまざまな努力を重ねてこれだけの成長を達成したのである。例えばロールス・ロイスは10年前に行った市場調査で今後は若年層の富裕層が増大することを予測。そうしたトレンドにマッチしたコミュニケーション戦略とモデル開発を行った結果、いまではBMWグループで最も若い平均顧客年齢を達成し、こうした成果はセールスにも着実に反映されていると同社代表のトルステン・ミュラー-エトヴェシュ氏は胸を張る。
いっぽう、スポーツカー界の雄であるフェラーリは2018年に9251台を販売し夢の大台まであと一歩と迫り、2019年は一年間に5モデルもの新型車を発表した。これは年間2モデル程度だった従来のペースを大きく上回るものだ。
こうしたラグジュアリーブランド界にあって最もアグレッシブな成長戦略を描いているのがアストンマーティンだろう。アストンマーティン・ラゴンダのアンディ・パーマーCEOは、創立100周年が過ぎた2015年にセカンド・センチュリー・プランを発表。2016年から2022年まで毎年1台ずつニューモデルをリリースし、以降はそれら7台をリニューアルすることで持続的な成長を実現するとの目標を掲げた。ちなみにその7台とは、2016年が「DB11」、2017年が新型「ヴァンテージ」、2018年が「DBSスーパーレッジェーラ」ときて、2019年はこのリポートの主人公でもあるDBXをローンチ。2020年には次世代「ヴァンキッシュ」、そして2021年と2022年にはラゴンダブランドからSUVとサルーン(いずれもEV)を送り出す計画だ。
つまり、アストンマーティン初のSUVであるDBXは、昨今のブームにのって安易に生み出されたわけではなく、同社の成長戦略を支える大切な柱の一本として企画され、現在その開発が総仕上げの段階に入ったところなのである。今回は、2020年春のデリバリー開始に向けて懸命の熟成が進められているDBXのプロトタイプに中東のオマーンで試乗するチャンスを得たので、そこで得た情報とDBXの第一印象をリポートすることにしよう。
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ロータスのノウハウが生かされている
DBXの開発を指揮しているのは現在アストンマーティンでチーフエンジニアを務めているマット・ベッカー氏である。
ロータスのエンジニアとしてキャリアを積み重ねてきたベッカー氏は、2015年1月にアストンマーティン・ラゴンダに移籍。このとき、V12エンジン搭載のDB11はほぼ完成していたため、同氏はオープンモデルの「DB11ヴォランテ」や「DB11 V8」などのシャシー開発に着手する。この際、ブッシュ類の設定をいくぶん見直したそうだが、彼が開発に関わったDB11は、それ以前のDB11に比べてハンドリングの正確さが飛躍的に向上していることは広く知られているとおり。これ以降、彼が送り出したヴァンテージやDBSスーパーレッジェーラも同様に正確でソリッドなハンドリングを手に入れており、「さすがロータスで腕を磨いたエンジニアは違う」と多くのエンスージアストをうならせることになった。
もっとも、彼の手腕がそのままDBXにも発揮されるかどうかは未知数だった。なにしろ、それまで彼がアストンで手がけたのはスポーティーなハンドリングが求められるモデルばかり。これに比べればSUVははるかにオールラウンダーな性格が期待されるので、オマーンに到着するまで私はそのことが心配で心配で仕方なかったのである。
しかし、私の懸念は試乗前のブリーフィングでほぼ解消された。いや、ブリーフィングというにはやや大げさだろう。試乗当日の朝に広報スタッフとともに現れたベッカー氏は、朝食をとるかたわら、DBXの開発プロセスについて私たちに話を聞かせてくれたのである。
参考にしたのは「カイエン ターボ」
「開発が始まったのは、およそ5年前。このとき、自分たちがどんなクルマを開発すべきなのかを調査するため、ベンチマークになりそうなSUVを何台も購入してニュルブルクリンクなどでテストを行いました。ニュルブルクリンクには有名なノルドシュライフェだけでなく、オフロードのテストコースなども用意されているからです」
「そうしたモデルをさまざまな環境で調査するなかで、私たちはSUVがターゲットにすべき目標の幅広さに気づいてがくぜんとしました。もしもスポーツカーやグランドツアラーの開発目標が小さな点で表せるなら、SUVの開発目標はそれよりも何十倍も大きい四角い箱になるでしょう。居住性、静粛性、乗り心地、荷室の広さ、エンジンパワー、オンロードやオフロードの性能など、考慮しなければいけない項目は数限りなくありました。そうした総合的な性能のバランスを考慮して私たちは先代の『ポルシェ・カイエン ターボ』をベンチマークとしてピックアップ。以降は、これを開発のターゲットとしました。より正確に言うなら、カイエン ターボの総合性能と『ランボルギーニ・ウルス』が持つスポーツ性の中間くらいのポジションを狙ったというべきでしょう」
こうしたリサーチを通じ、ベッカー氏らはメルセデスAMGの4リッターV8ツインターボエンジンをパワープラントとしてチョイス。センターデフや前後アクスルも基本的にメルセデス製を流用する方針を固める。
いっぽうで、居住性、静粛性、快適性、そしてハンドリングなどの要となるボディー構成については既存モデルのものを流用することなく、完全に新設計にすることを決定。構造的にはDB11やヴァンテージなどと同じボンデッドアルミニウム工法を用いながらも、SUVとしてはエンジンを思い切ってキャビンに近づけるとともに低い位置に搭載することにした。これで重量バランスを改善すると同時に、エンジンやギアボックスを低い位置に積むことでキャビンへの侵食を最小限に抑え、余裕ある居住性を実現したという。
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SUVらしからぬ一体感
それ以上に彼らが配慮したのがサスペンション取り付け部の剛性とブッシュ剛性の関係だった。「レンジローバー スポーツSVR」の足まわりを解析した結果、サスペンション取り付け部の剛性とブッシュ硬度がある一定の関係にないとハンドリングと乗り心地を高いバランスで両立できないことを突き止めた彼らは、ピボットポイント周辺の局部剛性を徹底的に強化。さらにストラットタワーバーなどを設けて正確な位置決めを実現した。
その効果は、まさに舌を巻くばかり。オマーンの固く引き締まったオフロードコースでは路面からのショックはしなやかにいなしてくれるのに、ハンドリングはサスペンション・コンプライアンスをほとんど感じさせることなく、極めて正確な操縦性を実現していたのである。しかもロードノイズも低く抑えられているので、キャビンは快適そのもの。また、ベッカー自身が説明してくれたとおり室内スペースは十分以上で、私が前後に腰掛けた場合でも後席のニールームは25cmほどもあった。実は、今回の試乗会に参加したジャーナリストのひとりは身長196cmの長身だったが、そんな彼が後席に腰掛けてもひざ周りはフロントシートに接しなかったというのだから大したものだ。
今回試乗したのは、量産ラインで生産されたものとはいえ、まだ開発途上のプロトタイプのため、スロットルペダルやステアリングの感触は完璧ではないとの説明を受けた。それでもステアリングを通じてフロントタイヤの接地状態がしっかりと伝わってくるほか、クルマ全体の一体感もSUVとは思えないほどソリッドなものだった。
「ただスポーティーなだけでなく、優れた総合性能のスポーティー・ラグジュアリーSUV」。間もなくデビューするアストンマーティンDBXは、世界中でそんな評価を得ることだろう。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=アストンマーティン・ラゴンダ/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
アストンマーティンDBX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5039×1998(ドアミラー除く)×1680mm
ホイールベース:3060mm
車重:2245kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:550PS(405kW)/6500rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/2200-5000rpm
タイヤ:(前)285/40R22 110V M+S/(後)285/40R22 110V M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ)
燃費:14.3リッター/100km(約6.9km/リッター WLTPモード
価格:2299万5000円/テスト車=--円
オプション装備:--
(※価格は日本市場でのもの)
テスト車の年式:--年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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