第639回:「モデル3」が急先鋒!? 欧州でテスラが自動車販売ランキングを急上昇中
2020.01.24 マッキナ あらモーダ!“あの教習所”の新兵器
「電気自動車(EV)の車種別登録・販売ランキングが、イタリアやフランスで意外なことになっている」というのが今回の話題である。
先日、わが街シエナでのこと。1台の赤いクルマに気づいた。今日イタリアでレッドの車体色は少数派なので、自然と目に飛び込むのだ。車種を知って驚いた。「テスラ・モデル3」ではないか。
さらに目を疑ったのは、鼻先に「SCUOLA GUIDA(自動車教習所)」のプレートが掲げられていたことである。
その校名を見て納得した。本連載の第475回で紹介したバルツァナ自動車教習所である。「MINI」や「フィアット500」、さらに「フィアット124スパイダー」を教習車として採用してきた自動車学校だ。
そこで、テスラ・モデル3の駐車場所から遠くないところにある同校を、久々に訪れてみることにした。
宣伝効果は抜群
教習所の前で見上げると、以前はロゴ+校名だけだった看板には、例の124スパイダーの写真が誇らしげに挿入されていた。後日判明したが、今や彼らは「124スパイダー試乗体験」なるパッケージも、地元サーキットで提供しているらしい。
受付ブースには、例のテスラの教習車をプリントしたのぼりが早速立てられている。スタッフのサーラさんによると、モデル3は2019年秋に導入したという。
わが街にテスラの販売拠点は、いまだ存在しない。聞けば「引き取りはミラノだった」と教えてくれた。シエナ-ミラノ間は約380km。距離的にもやや大変な買い物である。
テスラ専用の急速充電器「スーパーチャージャー」はおろか、通常の充電ポールも教習所の近くには見当たらない。
どうしているのかというと、電力会社が設置した、1kmほど離れたスーパーマーケットにある充電ポールや、指導員の自宅で毎日チャージしているのだという。ちなみに、イタリアでは指導員が毎日昼休みに家へ帰る。したがって、その間も充電しているのだろう。
教習所における具体的な使途は「AT教習用」だ。イタリアにはAT限定免許が存在しないので、任意の選択科目である。
しかしながら、イタリアでテスラ・モデル3のベース価格は4万9500ユーロ(約604万円)だ。「メルセデス・ベンツGLC」(4万8603ユーロ。約593万円)よりも高額なのである。
EV+レベル2相当の自動運転車なら、「日産リーフ」という選択肢もあろう。性能を異にするので一概に比較するのはあまり意味がないが、テスラ・モデル3よりも2万ユーロ近く安い3万0700ユーロ(約374万円)から買えることからすると、この教習所はかなり高い買い物をしたものだ。
しかしながらこのバルツァナ教習所、前述したように長年にわたってキャッチーなクルマを導入してきたという経緯がある。
実際、後日インターネットでチェックしてみると、バルツァナ教習所のモデル3は、全国紙でも「イタリア初の自動運転教習車登場」といった見出しで報道されていた。
そう考えるとモデル3は、早くもそれなりの費用対効果を発揮しているといえよう。
「Z.O.E.」のあとに「モデル3」
EVということでふと思い立ち、初代日産リーフを愛用していたローマ郊外在住の知人に連絡をとってみた。
彼は「2018年11月に『ルノーZ.O.E.』に乗り換えた」という。いわく「(日産リーフにはない)バッテリークーラーが装着されているので、電池の劣化が少ない。走行距離3万kmを過ぎた現在でも、容量ゲージは97%確保できている」のだそうだ。
彼の談話には、さらなる続きがあった。「おそらくかなりの高確率で3カ月以内にテスラ・モデル3を発注する」と、告白した。
「OTA(Over The Air=ワイヤレスネットワークによる)アップデートの先進性に加えて、テスラ・スーパーチャージャーが少しずつイタリア国内で充実してきたこと」が理由だという。
ただしスーパーチャージャーと違ってテスラ・ストアは、2020年1月現在、イタリア半島に5拠点しかない。
メンテナンスの心配は? と質問すると、「重大な故障でなければ、家での引き取り&代車サービスがある。ボディー関係については、協力カロッツェリア(板金工場)があるから」と、さほど心配していないことを示す答えが返ってきた。
「リーフ」が負けていた
これほどまでに知人がモデル3にほれ込んでいるので、イタリアにおける2019年のテスラ・モデル3の登録台数を確認してみた。その数1943台である。導入初年度としては成功といえる数字だ。
EVの登録台数ランキングを見ると、さらにその人気ぶりがわかる。「スマートEQフォーツー」、ルノーZ.O.E.に次ぐ3位である。参考までに、4位は日産リーフで、5位は「スマートEQフォーフォー」だ。
「モデルS」と「モデルX」を合わせたテスラ全体では2450台に達し、スマートの2車型(EQフォーツー+EQフォーフォー)を合計した2972台に迫る。これはイタリアにおけるスバル全体の登録台数(2776台)より多いことになる(UNRAE調べ)。
隣国フランスにおける昨2019年の販売台数も確認してみる。なんとこちらでは、テスラ・モデル3がルノーZ.O.E.(1万8817台)に次ぐ2位(6455台)にランキングしている。
同時に、3位の日産リーフ(3738台)を2700台以上も引き離している。参考までに、以下は「BMW i3」「キアe-ニーロ」にスマートEQフォーツーと続き、「ヒュンダイ・コナ」「フォルクスワーゲンe-ゴルフ」「ヒュンダイ・アイオニック」「シトロエンC-ZERO」(「三菱i-MiEV」の姉妹車)の順となる(Avere-France調べ)。
テスラが北ヨーロッパ諸国で早くからシェアを伸ばしていることは伝えられてきたが、イタリアやフランスでも2019年には、すでに日産リーフを抜いてしまったのである。
昨日までの記憶は通じない!?
筆者が住むシエナ、その隣町であるフィレンツェでは、2代目日産リーフのタクシーが、かつての「トヨタ・プリウス」と同様、すさまじい勢いで増殖している。そのため、テスラの躍進をうっかり見逃してしまっていた。
思えば、筆者は「アメリカのメーカー別販売台数」というと、いまだに“ビッグスリー”、つまりGMとフォード、クライスラーを即座に思い浮かべてしまう。今日それは“デトロイトスリー”という別の通称に取って代わられており、実際のランキングはGM、フォードの次はトヨタであり、2019年に至ってはフォード-トヨタ間のシェア差がわずか1%である。そうした事実がいまだに、筆者の“体感”として備わっていないのである。
日本のブランド別新車販売台数もしかりだ。トヨタ、ホンダ、スズキ、ダイハツ、日産……という最新の順位(登録車+軽乗用車)ではなく、トヨタのあとは日産、マツダ、三菱……という昭和時代のランキングが、まだ残像として頭の中にある。したがって、先のゴーン問題でも、筆者の脳裏には「国内2位のメーカーに激震」という文字が勝手によぎったものだ。
近い将来EVの世界では、ぼやぼやしていてはとても記憶が追従できないような販売ランキングになるに違いない。
テスラがドイツ・ベルリン郊外に研究開発センターも含めた欧州生産拠点を計画しているのは、その導火線のひとつとなるであろう。
ファラディ・フューチャーやバイトンといった新興EVブランドが、メルセデスの「EQ」やBMWの「i」を抜いてしまうことも、国や地域単位で起きる可能性がある。
なかなか面白い時代になってきた。
蛇足ながら、そんなに周囲がモデル3というものだから、筆者もテスラが気になってきた。ただし、モデル3ではない。2019年11月に公開された「サイバートラック」である。
近年、世界中を見渡しても魅力を感じるモデルが皆無だった筆者にとって、ようやくそれが現れたといってよい。
その攻撃的なデザインは、従来の硬直化した自動車企業では絶対にゴーサインが出ないものだ。少なくとも過去二十数年に登場したあらゆるコンセプトカーを、一気に無意味にしてしまうだけの破壊力がある。そうした存在意義に関して、筆者はよき理解者であると自負している。
テスラのオフィシャルサイトには、早くも「今すぐ注文」ボタンが設定されている。あたかもスマートフォンの購入予約のように、さりげなく。
それをポチッと押せぬ、もどかしさよ。「オートパイロット」が自動キャンセルされるイタリアの狭い路地で、あの巨体を振り回せるだけの操縦技術も持ち合わせていない。
ここで一句。デザインファン、金と力はなかりけり。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、テスラ/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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