スズキ・ハスラー ハイブリッドX(FF/CVT)/ハスラー ハイブリッドXターボ(4WD/CVT)
先駆者は惑わない 2020.02.06 試乗記 一代にして軽クロスオーバーというジャンルを築いた「スズキ・ハスラー」が、2代目にフルモデルチェンジ。ユーティリティー、装備の充実度、快適性、走りの質感と、全方位的な進化を遂げた新型は、開発理念にブレのない、完成度の高いクルマに仕上がっていた。“タフ&ストロング”へ劇的に変化
東京モーターショーや東京オートサロンですでに見ていたが、あらためて目のあたりにすると新型ハスラーは初代とはまるで違うカタチだ。しかし、間違いなくハスラーだとわかる。デザイナー陣はとてもいい仕事をした。売れたモデルの2代目は、似すぎていると代わりばえしないと言われるし、思い切って変えてしまうとユーザーからそっぽを向かれる可能性がある。困難なミッションなのだ。
全長と全幅は変えようがないから先代と同じで、全高は15mm高くなった。ホイールベースは2425mmから2460mmに延長されている。サイズの拡大はわずかだが、ずいぶん広そうに見える。各面をギリギリまで広げ、角張ったフォルムを採用したからだろう。実際に室内スペースも少しだけ広くなっている。
サイドから見ると、はっきりとスクエア感が強調されている。ルーフラインからウィンドウ、キャラクターライン、ホイールアーチ上端と、見事に水平線が並ぶのだ。ボディー後端はほぼ垂直に切り落とされている。ちょっと猫背で愛嬌(あいきょう)のあった先代とは印象がまるで違う。“ファニー&ポップ”から“タフ&ストロング”へと、劇的に変化した。
「遊べる軽」というコンセプトは初代と一緒で、アウトドアを意識したクルマであることに変わりはない。でも、アウトドアに向けられる視線が変わったことで、ハスラーも変化しなければならなかった。初代が登場した2014年より、アウトドアは身近なものになっている。マウンテンジャケットを街なかで着こなすのは普通になり、作業着ブランドだったワークマンがカジュアルウエアとして人気だ。「アウトドアを日常に」という掛け声のもと、都会にあってもアウトドア感を強めることがハスラーに求められていると判断したのだろう。
トレンドの超ロングストローク
発売から6年間で、ハスラーは48万1283台を売り上げた。スズキとしても望外の結果だったという。当時もSUVは一定の人気を得ていたものの、現在のようにクルマの主流という位置づけにはなっていなかった。新型ハスラーは飽和状態の市場に投入されるのだから、漫然とSUVっぽい軽自動車というつくりにはできない。ハスラーの成功を見て企画されたと思われるライバルも出現している。三菱はすでに「eKクロス」を世に問うているし、ダイハツはオートサロンに出展した「タフト」を年央には発売すると発表した。
迎え撃つハスラーは、スタイリング以外の武器も必要になる。まずはパワーユニット。新しい自然吸気(NA)エンジンが採用された。試乗の前にスペックを見て一驚。最高出力が49PSって……。今どきあまり見ない数字だ。先代よりパワーもトルクも下がっており、他社のライバルたちにも及ばない。不安を抱えながら乗りだすと、もう一度驚くことになった。
発進はもたつくこともなくスムーズだ。強力な加速が得られるわけではないが、アクセルを踏むと忠実に応えてくれる。いらついて無駄にエンジン回転を上げてしまうようなことがない。低速でスピードの調節をしやすいのも美点である。クルマというのは、数字だけで判断してはいけないということがよくわかる。
R06D型エンジンのボア×ストロークは、61.5×73.8mm。前のR06A型は64.0×68.2mmだったから、大幅にロングストローク化したことになる。ストローク/ボア(S/B)比は1.07から1.20になった。熱効率を高めやすいので、軽自動車のエンジンは超ロングストロークがトレンド。ホンダが2017年の「N-BOX」から採用しているS07型はストロークが77.6mmでS/B比は1.29となっている。R06Dはそれに次ぐ“ナンバー2ロングストロークエンジン”の座を得た。燃焼室形状も見直し、圧縮比を12.0に向上させている。
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ACC装備はターボ車だけ
さらに、デュアルインジェクションとクールドEGRの採用、吸気ポート形状の最適化など、さまざまな改良が施された。スペックはダウンしても日常域では先代と同等の走行性能を維持し、燃費を向上させているのだ。大幅に改良したCVTと効率を高めたマイルドハイブリッドも、力強い走りに貢献している。
対して、ターボエンジンは従来どおりのR06A型のまま。えこひいきのようだが、先代ハスラーはNA版のほうが圧倒的に販売台数比率が高かったので、ひとまずNAを優先したということらしい。この先ターボも新型エンジンに変更される可能性は十分にある。
ターボ車に乗り換えてみると、当然ながらパワフルさではNAを上回る。アクセルの踏み込みは少なくてすみ、動きの軽快さには明らかに違いがあった。ただ、数字ほどの差は感じられない。NA版とターボ版でまったく別のクルマになってしまう軽自動車もあるが、ハスラーではさほどの差にはなっていないようだ。ならばオススメはNAなのかというと、そうとも言えない。ターボにしか用意されていない装備があるからだ。
新型ハスラーの大きな売りのひとつに、先進安全装備「スズキセーフティーサポート」の強化がある。特に、スズキの軽としては初めてアダプティブクルーズコントロール(ACC)が採用されたことがトピックだ。他社のライバルたちが続々と装備しているのだから、スズキとしても負けてはいられない。ただ、ACCを選択できるのは、ターボ車だけなのだ。高速道路で遠出するのはターボ車が多いというリサーチ結果を反映したというが、NAにはオプションの用意もないというのは、ちょっと残念な気がする。
万全なNVH対策
インターチェンジひとつ分の短い距離ではあったが、ACCを使って走ってみた。前車の動きに対する追従の反応はまずまず。前が詰まった時の減速も安心できるレベルだった。ちょっと気になったのは、雨が強くなってくると前車を認識するのが遅れがちだったこと。デュアルカメラ式の限界なのだろう。ただし、ACCが作動していなくても、前車に近づきすぎると衝突被害軽減ブレーキの警報が鳴った。クルマであると断定できなくても、障害物があると認識すれば安全機能が働くようになっているのだ。
走行性能以上に感心したのは、ボディーの仕立てである。小さなクルマだからちょこまかとした動きはあるものの、上屋が堅牢(けんろう)なのでイヤな感じがしないのだ。新プラットフォームのHEARTECT(ハーテクト)を採用したのはもちろん、構造用接着剤の使用などが効果をあげているという。剛性がアップしたことで、静粛性向上にもつながった。
ルーフパネルとメンバーの接合には高減衰マスチックシーラーを使い、こもり音や雨音の軽減を図った。試乗会場にはこの新しいシーラーと従来のシーラーがデモンストレーションのために置かれていて、ゴルフボールを落として反発力の違いを試すことができた。手で触ってみると、新素材は低反発マクラのような感触。どの技術が大きな要因となったのかはわからないが、乗っていて前後席の会話が明瞭に聞こえたのは事実だ。開発を主導したチーフエンジニアがNVH(騒音・振動・ハーシュネス)部門の出身であるというのは納得である。
ダッシュボードにはシンボリックな3連カラーガーニッシュが並んでおり、乗員は常に自分がハスラーに乗っているということを意識する。内外装のデザインが明確な意思のもとにシンクロしているのは、“遊べる軽”という土台の上に新しく“アウトドアを日常に”という旗印を掲げた方針にブレがないからだろう。先行者のアドバンテージを生かして、新型ハスラーは着実な進化を遂げた。ライバルが追いつくのは簡単ではなさそうである。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スズキ・ハスラー ハイブリッドX(2トーンカラー仕様車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1680mm
ホイールベース:2460mm
車重:820kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:49PS(36kW)/6500rpm
最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)/5000rpm
タイヤ:(前)165/60R15 77H/(後)165/60R15 77H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:30.4km/リッター(JC08モード)/25.0km/リッター(WLTCモード)
価格:156万2000円/テスト車=187万8965円
オプション装備:全方位モニター用カメラパッケージ(5万2800円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション(18万4800円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<ジュータン>(2万0515円)/ETC車載器(2万1120円)/ドライブレコーダー(3万7730円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:496km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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スズキ・ハスラー ハイブリッドXターボ(2トーンカラー仕様車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1680mm
ホイールベース:2460mm
車重:880kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6000rpm
最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)165/60R15 77H/(後)165/60R15 77H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:20.8km/リッター(WLTCモード)
価格:179万0800円/テスト車=210万7765円
オプション装備:全方位モニター用カメラパッケージ(5万2800円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション(18万4800円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<ジュータン>(2万0515円)/ETC車載器(2万1120円)/ドライブレコーダー(3万7730円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:426km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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