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アウディA1スポーツバック 1.0 TFSI(FF/7AT)/S1(4WD/6MT)

トレンド最先端 2015.06.22 試乗記 鈴木 真人 最もコンパクトなアウディである「A1/A1スポーツバック」がマイナーチェンジ。今回ラインナップに加わった3気筒エンジン搭載モデル「1.0 TFSI」に試乗し、新たなエントリーモデルの魅力を探った。

アウディ初の3気筒ターボ

「トヨタ・オーリス」のマイナーチェンジでは、新エンジンが話題となった。ダウンサイジングコンセプトを掲げる1.2リッター直4直噴ターボエンジンである。新世代ターボの開発では、日本メーカーはヨーロッパ勢に後れを取っていた。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のメインエンジンが1.2リッターターボになったのは、ずいぶん前の話だ。パワーと低燃費の両立を図るダウンサイジングターボが、しばらくはガソリンエンジンの主流になると考えられている。

オーリスはようやく対抗し得る武器を手に入れたわけだが、それでもまだ周回遅れなのかもしれない。ダウンサイジングというのは、排気量だけでなく気筒数の減少も含む概念だ。現在では、3気筒エンジンが技術開発のトレンドになりつつある。アウディA1に追加されたモデルには、1リッター直噴3気筒ターボエンジンが搭載された。

アウディ初の3気筒ではあるが、「フォルクスワーゲンup!」で採用されたエンジンと基本的には同じものだ。ただ、スペックは大幅に違う。up!が最高出力75ps/6200rpm、最大トルク9.7kgm/3000-4300rpmだったのに対し、A1は95ps/5000-5500rpm、16.3kgm/1500-3500rpmとなっている。チューニング次第でエンジンの性格を大きく変えることのできるのが、ターボならではの利点である。パワーアップを果たしたわりに、JC08モード燃費は25.9km/リッターから22.9km/リッターというわずかな悪化にとどまった。

パワーやトルクの向上はもちろん好ましいのだが、up!とA1を分ける最大の違いは別の要素だ。トランスミッションである。どちらも2ペダルだが、up!はシングルクラッチ式のASGで、A1はデュアルクラッチ式のSトロニックなのだ。

「A1スポーツバック 1.0 TFSI」に搭載されるエンジンは1リッター直3ターボ。95psと16.3kgmを発生する。
「A1スポーツバック 1.0 TFSI」に搭載されるエンジンは1リッター直3ターボ。95psと16.3kgmを発生する。 拡大
マイナーチェンジにより、ヘッドライトのデザインも新しくなった。
マイナーチェンジにより、ヘッドライトのデザインも新しくなった。 拡大
インテリアのデザインは従来型を踏襲するが、アルミニウムルックやハイグロスブラックの装飾が増やされている。
インテリアのデザインは従来型を踏襲するが、アルミニウムルックやハイグロスブラックの装飾が増やされている。 拡大
 
アウディA1スポーツバック 1.0 TFSI(FF/7AT)/S1(4WD/6MT)【試乗記】の画像 拡大
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従来モデルから32万円プライスダウン

MTを自動化して2ペダル化するという点では同じでも、シングルクラッチ式はスムーズさではデュアルクラッチ式にかなわない。かみ合った状態のギアが常に用意されているデュアルクラッチ式と違い、変速時にどうしても一瞬遅れが生じてしまうのだ。

「スズキ・アルト」のAGSが登場するまで、同種のトランスミッションの中で最も完成度が高かったのがup!のASGである。コツをつかめば、山道でもそれなりにスポーティーな走りができた。それでも嫌いな人には耐えられないものであったようで、このダウンサイジングターボにSトロニックが組み合わされたことを歓迎する人は多いはずだ。

今回試乗したのは、5ドア版のA1スポーツバック 1.0 TFSIである。3ドアのA1の価格が249万円なのに対して、20万円高の269万円だ。それでも3ドアが支持されない日本では、スポーツバックが売れ筋になることは間違いない。どちらも従来のエントリーモデルだった1.4 TFSIから32万円安くなった。試乗車はオプションを含めると351万円になってしまっていたが、買いやすくなったことは確かだ。ちなみに、up!ならば100万円弱安い値段で手に入れることができる。

A1はアウディの販売増のカギを握るモデルだ。世界累計販売台数は50万台を超え、2011年に登場して以来日本でもすでに1万7000台を売り上げた。「S1」も含めて6000台という今年の販売目標は、十分に現実的な数字だろう。「A3」「A4」までのコンパクトなモデルを売ることが、他のドイツメーカーとのシェア争いにとって重要なことなのだ。

今回のマイナーチェンジでは、外観にも手が入れられている。一見して、顔つきがS1とほぼ同じになったことがわかる。シングルフレームグリルは幅広型になり、ヘッドライトの形状が変更されて目ヂカラが強くなった。試乗車はオプションでバイキセノンヘッドライトが装着されている。リアコンビネーションランプや前後バンパーの意匠も変更され、全長が20mm伸びた。

装備面では、衝突の際、自動的にブレーキをかけ2次衝突を防ぐ「マルチコリジョンブレーキ」が装備されたほか、電動パワーステアリングが採用されている。
装備面では、衝突の際、自動的にブレーキをかけ2次衝突を防ぐ「マルチコリジョンブレーキ」が装備されたほか、電動パワーステアリングが採用されている。 拡大
エントリーグレードの「1.0 TFSI」ではシート表皮がファブリックとなる。それ以外のグレードでは、ミラノレザーシートもオプション(25万円)で選択できる。
エントリーグレードの「1.0 TFSI」ではシート表皮がファブリックとなる。それ以外のグレードでは、ミラノレザーシートもオプション(25万円)で選択できる。 拡大
後席は60:40の分割可倒式となる。
後席は60:40の分割可倒式となる。 拡大
荷室の容量は270リッター。後席を倒すことでさらに拡大される。(写真をクリックすると荷室アレンジが見られます)
荷室の容量は270リッター。後席を倒すことでさらに拡大される。(写真をクリックすると荷室アレンジが見られます) 拡大

ダイレクト感を与えるSトロニック

運転席に座った時の満足感はアウディの美点であり、それはエントリーモデルであっても変わらない。シートにランバーサポートがなかったりエアコンがマニュアルだったりするものの、スタイリッシュなダッシュボードまわりには高級感が漂っている。試乗車には「BOSEサラウンドシステム」のオプションがつけられており、フロントスピーカーがLEDの間接照明で浮かび上がって見えた。他のメーカーも追いかけてきたが、艶っぽさの演出ではアウディが一歩先を行っている。

デュアルクラッチ式トランスミッションは、極低速でのギクシャク感が弱点とされている。A1でも、それがまったくゼロというわけではなかった。しかし、気になるというほどのものではない。パーキングスピードでも、アクセルペダルの操作だけでスムーズな運転ができる。1500rpmから最大トルクが発生して3500rpmまで保持し、ターボラグとは無縁だ。ドライバビリティーに問題のあったターボが21世紀に生き残れたカギが、このフラットトルクにある。

加速は力強いとまでは言えないが、心地のよいものだ。レスポンスは上々で、ワインディングロードでも十分な速さを見せてくれる。かつてリッターカーという名が非力と同義だったことがうそのようだ。あいにく霧が出ていたので思い切り飛ばすことはなかったが、普通に走る限り動力性能に不満が出ることはないだろう。最高速度は186km/hで、新東名の制限速度が120km/hになっても余裕である。

やはり、デュアルクラッチ式はシングルクラッチにはないダイレクト感を与えてくれる。ターボラグがなくてシフトがスムーズなのだから、まったくストレスを感じない。オーリスはダウンサイジングターボにCVTを組み合わせていて、サーキットで試乗した際にはなかなかスポーティーだと感じたのだが、Sトロニックの快感はそれを上回る。

 
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装着されるタイヤのサイズは185/60R15。
装着されるタイヤのサイズは185/60R15。 拡大
テールランプのデザインも変更され、よりシャープな印象となった。
テールランプのデザインも変更され、よりシャープな印象となった。 拡大
 
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進化が続くダウンサイジングターボ

この1リッター3気筒ターボは、やがてゴルフにも搭載されることになるらしい。フォルクスワーゲングループのダウンサイジング化を先導した1.4リッター4気筒ツインチャージャーは、今やぜいたくなハイパワーエンジンに見える。この10年ほどで、ダウンサイジングの技術は恐ろしい勢いで進んだ。

フォードは1リッター、プジョーは1.2リッター、BMWは1.5リッターと排気量は違うが、各メーカーが3気筒ダウンサイジングターボエンジンをラインナップする。3気筒は4気筒よりも2次振動が少ないといわれていて、理にかなった選択なのだ。日本にも3気筒ターボはあるのだが、いずれも0.66リッター、つまり軽自動車用である。もうすぐホンダから1リッター3気筒ターボエンジンが登場するようで、軽で積み重ねた経験がどう生かされるのか興味深い。

試乗会場には、2リッター4気筒ターボエンジンを積むS1も用意されていた。せっかくなので、A1スポーツバックの試乗後に乗ってみた。A1はFFだったが、こちらは4WDのクワトロである。トランスミッションは6段マニュアルだ。販売されているのはこの組み合わせだけなのだ。世の主流とは思えないモデルだが、想定を上回る400台も売れたというから驚く。車両本体価格は410万円で、試乗車は471万円だった。

結論を言ってしまうと、これが素晴らしく気分を高揚させるクルマだった。231psのパワーは圧倒的で、まさに意のままに加速させることができる。理屈を超えた快感なのだ。同じターボでも、ダウンサイジングというよりパワー志向の仕立てである。少々の後ろめたさを感じつつも、胸のすくスピード感に酔いしれてしまう。MTを操る楽しさと相まって、古典的なスポーティーさを堪能した。

A1のエンジンはダウンサイジングターボの、現時点でのトップクラスの達成であり、称賛すべきものだ。これが未来を担う最先端の技術である。わかってはいるが、ストレートに感情をゆさぶられてしまったのはS1である。ダウンサイジングターボの良さを語る際には、今のところ意義や理念にも触れざるを得ない。

この5月にウィーンで行われたシンポジウムで、フォルクスワーゲンは1リッター3気筒に電動ターボを組み合わせて272psの最高出力を持つエンジンを開発中だと発表した。ダイレクトに感情をゆさぶるダウンサイジングターボは、意外に早く登場するのかもしれない。

(文=鈴木真人/写真=峰 昌宏)

今回のマイナーチェンジによって、ひと足早くデビューした「S1」(写真左)と同様の顔つきとなった。
今回のマイナーチェンジによって、ひと足早くデビューした「S1」(写真左)と同様の顔つきとなった。 拡大
 
アウディA1スポーツバック 1.0 TFSI(FF/7AT)/S1(4WD/6MT)【試乗記】の画像 拡大
「S1」に搭載されるエンジンは2リッター4気筒ターボ。231psと37.8kgmを発生する。
「S1」に搭載されるエンジンは2リッター4気筒ターボ。231psと37.8kgmを発生する。 拡大
 
アウディA1スポーツバック 1.0 TFSI(FF/7AT)/S1(4WD/6MT)【試乗記】の画像 拡大
アウディA1スポーツバック 1.0 TFSI
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テスト車のデータ

アウディA1スポーツバック 1.0 TFSI

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3985×1745×1440mm
ホイールベース:2465mm
車重:1160kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:95ps(70kW)/5000-5500rpm
最大トルク:16.3kgm(160Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)185/60R15 84H/(後)185/60R15 84H(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:22.9km/リッター(JC08モード)
価格:269万円/テスト車=351万円
オプション装備:ボディーカラー<ナノグレーM>(6万円)/コンビニエンスパッケージ<アドバンストキー+アウディパーキングシステム>(15万円)/ボディーカラー同色ドアミラー(1万円)/ナビキセノンプラスパッケージ(36万円)/パノラマサンルーフ(14万円)/BOSEサラウンドシステム+LEDインテリアライトパッケージ(10万円)

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1106km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

アウディS1
アウディS1 拡大

アウディS1

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3990×1740×1425mm
ホイールベース:2465mm
車重:1360kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:231ps(170kW)/6000rpm
最大トルク:37.8kgm(370Nm)/1600-3000rpm
タイヤ:(前)225/35R18 87Y/(後)225/35R18 87Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:14.4km/リッター(JC08モード)
価格:410万円/テスト車=471万円
オプション装備:ボディーカラー<ベガスイエロー/ブリリアントブラック>(25万円)/コントラストルーフ(6万円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(8万円)/ファインナッパレザー+シートヒーター(22万円)

テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:10678km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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