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「オールシーズン」って何? 「M+S」の意味は? 交換前に知りたいタイヤの基礎知識

2020.03.02 デイリーコラム 河村 康彦

分かりづらいタイヤの種類と性質の違い

今季の冬もそろそろ終わり。「あぁ、今年は積もらなくてよかったナ」と胸をなでおろす非降雪地帯に住む人もいれば、「またタイヤ交換をしなければならないのか……」と憂鬱(ゆううつ)な気持ちになる降雪地帯のオーナードライバーも多いはず。

そんな双方の人にとって気になる存在となっている(かもしれない)のが、「オールシーズンタイヤ」なるアイテム。「今から40年以上も前に、世界で初となるオールシーズンタイヤを発売」という実績とともに、長らくグッドイヤー製品による独占状態が続いてきた国内マーケットに、昨今はミシュランやヨコハマタイヤなどが積極的なプロモーション活動を展開しつつ本格参入を始めたのだから、なおさらである。

でも、「それってスタッドレスタイヤとはどう違うの?」というのは、当然聞こえてきそうな疑問の声。「そういえば、“M+S”(マッド&スノー)という記号が付いたタイヤもあるよね?」となってくると、ますます混乱に拍車がかかりそうだ。

ということで、春のタイヤ交換シーズンを前に、このあたりをもう一度おさらいしておこう。自分が話題のオールシーズンタイヤの恩恵に十分あずかれそうなユーザーなのか、逆に、やっぱり季節の変わり目でのタイヤ交換が必要なユーザーなのかが、これでハッキリするはずだ。

グッドイヤーのオールシーズンタイヤ「ベクター4シーズンズ ハイブリッド」。ここ数年、日本におけるオールシーズンタイヤの普及をけん引してきたのはグッドイヤーだが、今では国内メーカーや主要な海外メーカーも、日本市場にオールシーズンタイヤを投入するようになった。
グッドイヤーのオールシーズンタイヤ「ベクター4シーズンズ ハイブリッド」。ここ数年、日本におけるオールシーズンタイヤの普及をけん引してきたのはグッドイヤーだが、今では国内メーカーや主要な海外メーカーも、日本市場にオールシーズンタイヤを投入するようになった。拡大

降雪地ではスタッドレスタイヤが必須

まずは、冬になれば必ず降雪に見舞われ、しかも基本的には春先までその状態が継続する地域で暮らすユーザーにとっては、残念ながら(?)秋から冬、そして冬から春へという季節の変わり目には、サマータイヤからスタッドレスタイヤへ、スタッドレスタイヤからサマータイヤへの交換が不可欠だ。

スタッドレスタイヤには、低温でも柔軟性を失わず、かつ接地面が路面上の微細な水分を吸収する特性を持った特殊なゴムが用いられており、しかも雪上にしっかり食い込むことを狙ったトレッドパターンが採用されている。氷上/雪上性能に特化した、かつてのスパイク(スタッド)タイヤに代わるものとして開発されたアイテムなのだ。

それゆえに、ドライの舗装路面ではソフトなゴムが操縦安定性を阻害したり、氷上性能を高めるべく接地面積を大きく取ったトレッド面が、ハイドロプレーニング現象を起こしやすかったり……といったマイナス面もあるものの、それでも「そもそも今の技術では、ノーマルタイヤに満足すべき氷上/雪上性能を付与できない」という状況の下では、“背に腹は代えられず”前出のようなマイナス面が許容されているというわけだ。

そうしたハンディキャップを承知の上で、「一年中スタッドレスタイヤで過ごす」という選択肢もないわけではないが、減りが早く、しかも高価なスタッドレスタイヤを履きつぶすという行為は、多くのユーザーにとって看過できないもの。結果として、冬はスタッドレス、それ以外の季節はノーマルタイヤ……というのが、今でも降雪地帯での常識になっているのだ。

雪が深く降り積もり、また路面が凍結することも珍しくない地域では、冬季におけるスタッドレスタイヤへの履き替えは必須といえる。
雪が深く降り積もり、また路面が凍結することも珍しくない地域では、冬季におけるスタッドレスタイヤへの履き替えは必須といえる。拡大

“80点主義”のオールシーズンタイヤ

一方、雪が降るのは年に数回、冬になってもなかなかスタッドレスタイヤの恩恵にあずかれないユーザーにとっては、季節の変わり目ごとにタイヤを履き替えるという行為は、コスト的にも手間的にもハードルが高い。

そうしたユーザーに対し、「雪がない状態ではノーマルタイヤと同等の諸性能を発揮し、新雪状態であればスタッドレスタイヤに引けをとらない踏破性を有する」という特性と、それにより“履き替え不要”であることをアピールしているのが、オールシーズンタイヤである。

季節を問わず通年で使えるオールシーズンタイヤは、ある部分に特化することなく、さまざまな性能を“80点主義”で追ったタイヤ……とも紹介できる。ドライ路面でのグリップ力や静粛性はサマータイヤには及ばないし、雪上/氷上でのグリップ性能もスタッドレスタイヤの後塵(こうじん)を拝することは明らか。それでも、履き替えの手間や、2つのタイヤを保有することによる“置き場所問題”から解放される点に魅力を感じる人にアプローチするのが、この種のアイテムだ。

そんなオールシーズンタイヤのキモとなっているのは、主にトレッドパターンである。回転方向性が与えられ、ノーマルタイヤ以上に立体的なトレッドパターンが、高い耐ハイドロプレーニング性や雪上性能を発揮する仕組みだ。

一方ゴムには、舗装路面上での操縦性や耐摩耗性、あるいはコストなどを重視して、ノーマルタイヤに準じたものが採用される場合が多いので、氷上性能はさほど期待できない。それゆえ、「住まいは非降雪地帯だが、頻繁にスキーに出掛ける」といったユーザーにも、やはりスタッドレスタイヤへの交換が推奨される。

横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「アイスガード6」(右)と、2020年1月に本格発売となったオールシーズンタイヤ「ブルーアース4S AW21」(左)。
横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「アイスガード6」(右)と、2020年1月に本格発売となったオールシーズンタイヤ「ブルーアース4S AW21」(左)。拡大

「M+S」というマークが意味するところ

最後に整理しておきたいのが、サイドウオールに“マッド&スノー”の略であるM+Sと刻印されたタイヤについてである。このマークからは泥濘(でいねい)地や積雪路における走行への考慮がイメージされるが、それでは実際のタイヤの性能はどの程度のものかというと、実はそこには公的な基準が存在していない。M+Sマークは、あくまでもメーカーの“自主的なお墨付き”程度と解釈すべきものなのである。それゆえ、実はこうした記号(のみ)が刻印されたタイヤを装着していた場合、高速道路などで冬用タイヤ規制が実施されると、「通行不可」と判断される悲劇が起こる。

ただし、そんなM+Sタイヤの中にも、公的な試験を受け、“冬用タイヤ”として十分な性能を持つことが認証されたアイテムも存在することが、ハナシをさらにややこしくしている。そんなタイヤのサイドウオールに刻印されているのが、いわゆる“スノーフレーク”と呼ばれる山岳地を模したマークである。

要するに、M+Sタイヤの中にはスノーフレークの刻印を持つものと持たないものが存在し、前者のみが正式な冬用タイヤとして認められているということなのだ。先述した昨今はやりのオールシーズンタイヤには、このスノーフレークが刻印されていて、それはすなわち「冬タイヤとしての認証を受けたもの」ということである。いずれにしろ、冬の道路を意識したタイヤ選択に際しては、まずはスノーフレークマークの有無を確認すべきということになるだろう。

(文=河村康彦/写真=荒川正幸、横浜ゴム、日本グッドイヤー/編集=堀田剛資)

ブランドや販売店によっては「M+S」マークしかないものも「オールシーズンタイヤ」と呼ぶ場合があるからややこしい。ある程度、雪上性能を有したタイヤを求めているのなら、「スノーフレーク」マークの付いた商品を探すべきだろう。
ブランドや販売店によっては「M+S」マークしかないものも「オールシーズンタイヤ」と呼ぶ場合があるからややこしい。ある程度、雪上性能を有したタイヤを求めているのなら、「スノーフレーク」マークの付いた商品を探すべきだろう。拡大
河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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