ランドローバー・レンジローバー スポーツ オートバイオグラフィー ダイナミックP400(4WD/8AT)
貴族のスピード 2020.03.10 試乗記 上質さとスポーティネスを併せ持つランドローバーの高性能SUV「レンジローバー スポーツ」に、新開発の直6エンジンを搭載した新モデル「P400」が登場。新たな心臓部を得た“走りのレンジ”は、どのようなクルマに仕上がっていたのか。その実力を確かめた。「レンジローバー」とは異なる位置づけ
このクルマに試乗する少し前に、「レンジローバー」の助手席に乗る機会があった。静かさと柔らかな乗り心地は圧倒的で、高級車という概念そのものを見せつけられたような気がしたことを覚えている。ステアリングを握っていた編集部Hくんもいたくお気に入りのようで、うっとりした表情で運転していた。「いいですねぇ……」と繰り返していて、 “ロックな生きざま”を信条とする無頼派の彼も、あまりの快適さにたらしこまれてしまったようだ。
Hくんが言うには、レンジローバーは貴族のクルマなのだ。成り上がりの下品なブルジョアではなく、気品と風格を備える本物の上流階級が乗るクルマだというのである。英国王室の格式がもたらす力だろうか。金満趣味のメンバーは王室内にいられなくなるくらいだから、伝統のパワーは侮れない。そういえば、2002年にスコットランドで行われた3代目レンジローバーの試乗会では、プレスディナーにアン王女が同席されていてたいへん窮屈な思いをした。王族がクルマの宣伝に一役買うのだから、やはりレンジローバーは貴族のクルマなのかもしれない。
今回試乗したのは、ただのレンジローバーではなく下に“スポーツ”が付く。レンジローバーのスポーティーなグレードではなく、別のモデルである。プレミアムブランドが次々にスポーティーなSUVを送り出していく中で老舗としても対抗馬を用意する必要があったようで、2005年にデビューしている。だから、レンジローバーとは位置づけが異なる。悠揚せまらぬ走りで安楽さを提供するのではなく、ドライバーズカーとしての刺激を持っていなくてはならない。
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ドライバーが集中できる空間
レンジローバーとレンジローバー スポーツの見た目は、似たところが多くある。ただ、レンジローバーが堂々たる威厳を重視しているのに対し、レンジローバー スポーツは流麗さとスピード感を強調しているところが違う。ルーフは後端に向かって少しずつ下降しており、若々しいイメージだ。ただ、そのせいで3列目に設けられたシートの居心地はよくない。ボディーサイズは少し小さいのかと思っていたが、全幅は1985mmでレンジローバーとまったく同じ。全長と全幅はいくぶん下回る数字である。
内装の仕立てのよさはあらためて言うまでもない。上質な革がふんだんに使われていて、イギリスの高級車らしい重厚な印象を作り出す。シルバーのパーツがアクセントになっていることが、スポーティーさを加味して軽みを与えているようだ。センターに位置する横長のディスプレイが新世代モデルの証し。多くの操作をタッチパネルで行うことができる。ただ、シートヒーターまでがパネル操作だったのには戸惑った。解除しようとしてスイッチを探しても見つからず、しばらくの間お尻が熱いのをガマンして運転することになった。
乗り出してすぐ、違いに気がつく。移動体であることを意識させず、乗員にとっての快適空間を提供するのに力を注いでいたレンジローバーとはまったく異なる乗り物である。あのふんわりとした乗り心地は影を潜め、ドライバーに路面の状況を忠実に伝えようとするのだ。エンジン音も無理に遮断しようとはしない。不快ではないがそれなりのレベルで内燃機関の躍動を響かせている。多数のスピーカーを配した高級オーディオは臨場感のあるサウンドをもたらすが、その車内はレンジローバーのように理想的な音響空間ではない。
レンジローバー スポーツの車内は、ドライバーが運転することに集中できる空間が形作られている。前後席の乗員すべてをおもてなしするレンジローバーとは、目指すものが異なるのだ。高速巡航は穏やかではあるが、エンジンは存在感を消さない。アダプティブクルーズコントロールを使っていても、音と振動でパワーの源をアピールし続けている。
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意外なアジリティー
巨体ではあるが、ワインディングロードでも持て余すほどではなかった。走行モードは「テレインレスポンス」にまかせておけばいい。オンロードを走るなら「AUTO」を選んでいれば、エンジンやトランスミッション、シャシーシステムなどを最適に調整してくれる。
コーナリングでも車高が高い割にはあまりロールせずに抜けていく。無理に踏ん張っているという感じではなく、ナチュラルな姿勢変化が乗員に安心感を与える。タイトなコーナーでもしっかりと曲がっていくのは、アクティブディファレンシャルとブレーキシステムを使ったコントロールが効いているおかげのようだ。意外なアジリティーを見せるが、どちらかというと直進したがっているように感じることもあった。
2tを優に超える重量なのでとりわけパワフルという感じはしないが、アクセルを踏み込んでいくと雄々しく加速する。快音を奏でるので、右足を緩めたくない気持ちになるのだ。400PS/550N・mを発生するこの3リッターエンジンは、新開発の直列6気筒である。従来のV6エンジンより約20%の燃費向上を果たしているそうだ。
レンジローバー スポーツにはこの直6エンジンのほかに3種類のパワーユニットが用意されている。3リッターディーゼル、2リッター直4ターボとモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド、そしてスーパーチャージャー付きの5リッターV8エンジンだ。高いチューニングを施した「SVR」グレードのV8エンジンは575PSだから、直6エンジン搭載モデルは最速グレードというわけではない。
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相性のいいハイテク直6エンジン
長らくBMWの専売特許のようだった直6エンジンだが、ランドローバーはわざわざ新しくゼロから開発したわけだ。直6復活は、自動車業界のちょっとしたトレンドである。メルセデス・ベンツは2017年に3リッター直6エンジンを「Sクラス」に搭載。約20年ぶりの復活が話題となった。マツダも新たに直6エンジンを開発しているといわれる。
直6は全長が長いので衝突安全性能の面で不利になり、短いV6エンジンに取って代わられていた。しかし、回転の滑らかさでははるかに優位な直6を待望する声が強かったのも事実である。技術の進歩でエンジンをコンパクトに作れるようになり、最近になってカムバックが続いているということらしい。
メルセデス・ベンツの直6はターボとインテグレーテッド・スターター・ジェネレーター(ISG)、電動補助チャージャー(eAC)を組み込む複雑なものだったが、ランドローバーの直6も同様のハイテク仕様である。やはりISGを採用したマイルドハイブリッドシステムで、電動スーパーチャージャーとツインスクロールターボチャージャーを組み合わせている。新世代の直6エンジンは、単純に先祖返りということではないのだ。
このハイテク直6エンジンが、レンジローバー スポーツと相性がいいように思える。太いトルクの大排気量V8エンジンより、突き抜けるように回転が上がっていく直6のほうがドライバーの意思をダイレクトに伝えるからだ。レンジローバー スポーツも貴族のクルマではあるが、功成り名を遂げた人の安楽な乗り物ではない。心に火がまだともっているのなら、とろけるような心地よさの中でまどろむのはまだ早すぎる。たけだけしく豪快な運動性能は、スピードを愛するロックな魂を刺激するだろう。レンジローバー スポーツは、血気盛んなヤング貴族の心を持つドライバーにこそふさわしいクルマなのだ。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー スポーツ オートバイオグラフィー ダイナミックP400
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4855×1985×1800mm
ホイールベース:2920mm
車重:2340kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:400PS(294kW)/5500-6500rpm
エンジン最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)/2000-5000rpm
モーター最高出力:13kW(18PS)
モーター最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)
タイヤ:(前)275/45R21 110Y M+S/(後)275/45R21 110Y M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:8.9km/リッター(WLTCモード)
価格:1272万円/テスト車=1793万9544円
オプション装備:インテリアトリム・フィニッシャー<エクステンデッド>(11万3000円)/ドライバーアシストパック(36万3000円)/イオン空気清浄テクノロジー(1万9000円)/MERIDIANシグネチャーサウンドシステム(112万3000円)/2座式3列目シート(27万4000円)/フロント&2列目シート<ヒーターRクーラー付き>(35万6000円)/ヘッドアップディスプレイ(19万3000円)/家庭用電源ソケット(2万1000円)/ピクセルレーザーLEDヘッドライト<シグネチャーDRL付き>(44万9000円)/アクティビティーキー(6万2000円)/クライメイトコンフォートパック(59万4000円)/オン&オフロードパック(21万4000円)/ウェイドセンシング(5万5000円)/ヘッドライニング<スエードクロス>(27万4000円)/8インチリアシートエンターテインメント(35万5000円)/20ウェイフロントシート<メモリー機能、ウィングドヘッドレスト、マッサージ機能付き>(18万8000円)/パワーサイドステップ(56万6544円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2590km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:361.2km
使用燃料:50.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/8.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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