第614回:欧州で人気のオールシーズンタイヤ 「ヨコハマ・ブルーアース4S AW21」ならストレス知らず?
2020.03.08 エディターから一言![]() |
2010年に約300万本だった販売本数が、2017年には約1500万本へと拡大。欧州市場でオールシーズンタイヤが人気を集めている秘密を探るべく、北海道・旭川にある横浜ゴムの北海道タイヤテストセンター(TTCH)で行われたメディア向けタイヤ勉強会に参加した。
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欧州に続き日本でも本格導入
横浜ゴムは、乗用車用オールシーズンタイヤ「ブルーアース4S AW21」の本格販売を2020年1月に開始した。オールシーズンタイヤというカテゴリー名からも分かるように、夏用タイヤと同じドライ路面やウエット路面での優れたハンドリングや乗り味に加え、雪上走行も行えるという季節や天候を選ばない性能が、このタイヤのセリングポイントだ。
簡単に言えば、季節の変わり目の恒例行事あった夏用タイヤから冬用タイヤへの、またはその逆のタイヤ履き替え作業を行わずに済むということ。つまり、スタッドレスタイヤが必須となる降雪地域以外の一般的なユーザーであれば冬用タイヤが不要となり、その購入費用が抑えられるほか、交換の手間や保管場所の確保といったさまざまな問題が一気に解決するかもしれない。
降雪地域ではないものの積雪の可能性があるロケーションのユーザーや、ウインタースポーツが趣味で好んで降雪地域に出向くという方にとって(私もそのひとり)、シーズンごとに履き替えを必要としないオールシーズンタイヤを選ぶことによって享受できるメリットは大きい。若いころは初雪の便りが聞こえてくると自分でタイヤ交換をしたものだ……と懐かしむのは勝手だが、今どきのタイヤはサイズも大きくバカにできない重さもある。繰り返しになるが、購入費用は家計を圧迫し、集合住宅住まいであれば保管場所の捻出ひとつとってもストレスになる。
というハナシは、何かにつけ住宅事情の悪さが指摘されるここ日本に限ったものではない。欧州では、そうしたオールシーズンタイヤのメリットにいち早く注目。加えて2010年にドイツをはじめとする各国で冬用タイヤ規制が始まると、その需要は一気に爆発した。前述の通りオールシーズンタイヤは、7年間で約5倍もの本数を売り上げるカテゴリーに成長している。
気温が下がったら冬用タイヤの出番
例えばドイツでは、気温が7度を下回るようになると、冬用タイヤへの交換が義務付けられている。何月何日からいつまでとは厳密に定められていないものの、おおむね10月から3月までがその冬用タイヤの装着シーズンにあたる。これは降雪時の対策はもちろんのこと、気温が下がって夏用タイヤのゴムが固くなり、所定の性能が出せずに起こる事故を未然に防ぐという意味合いもある。
かつての製品に比べ徐々に天然ゴムの使用割合が低くなってきた化学のカタマリともいえそうな最新のタイヤでも、しかし、ゴム製品であることに変わりはない。夏用タイヤは30度を超える気温でも性能が引き出せるように設計されているが、反対に、気温の低下とともにトレッド面は固くなる。固くなればグリップ力が落ち、ハンドリングやブレーキングへと影響を及ぼす。冬には、たとえ雪が降っていなくても、安全性を考えれば低温でもグリップ力が変わりづらい冬用タイヤが必要になる。そこで注目されたのが、オールシーズンタイヤというわけだ。
「近年、欧州ではオールシーズンタイヤの需要が旺盛です。冬季に冬用タイヤへの交換が義務付けられてから、一年を通して1本のタイヤで済むオールシーズンタイヤのメリットが特に注目され始めました。これまでオールシーズンタイヤといえばメイン市場は北米でしたが、北米用のオールシーズンタイヤはスノー性能があまり高くないM+Sが一般的。いっぽう欧州市場では日本と同じようにスノー性能がきっちり要求されます。北米と欧州では、ニーズが異なっていました」とオールシーズンタイヤのグローバル事情を語ってくれたのは、横浜ゴムの消費財製品企画部製品企画2グループ課長補佐の小松星斗氏だ。
「ブルーアース4S AW21は、そうした性能要求値の高い欧州市場で先行販売され、実績を積み上げてきました。同時に日本国内でも非降雪地域を中心にオールシーズンタイヤの需要があるのではないかと考え、試行販売を経て2020年1月に正式販売に至りました」(小松氏)
横浜ゴムでは北米市場で販売されるオールシーズンタイヤを「従来型」と呼び、「欧州型」と区別している。参考までに記せば、従来型は北米で年間約1億6800万本もの需要があるとされるが、その数は横ばい。消費者が積極的にM+Sの従来型オールシーズンタイヤを選んでいるというよりも、それを当たり前のチョイスとして交換必要時期に淡々と購入され続けているといった印象だ。
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オールシーズンタイヤの雪上性能は?
小松氏は、「ブルーアース4S AW21では、センター部から左右斜め方向に広がるV字ダイバージェントグルーブと呼ばれる方向性パターンを取り入れ、排水性を高め、さらに交差するクロスグルーブが雪柱せん断力を確保。排雪や排水を効率的に行うトレッドデザインを採用しました。操縦安定性も、接地面積の確保に有効な幅広トレッドや大型ショルダーブロックによって高めています」とその特徴を紹介。「雪に強いオールシーズンタイヤを目指し、スノー性能には妥協せずに開発を進めました」と語る。
コンパウンドには、ゴムのしなやかさを持続させるという末端変性ポリマーに加え、雪上性能とウエット性能を向上させる2種類のポリマーとマイクロシリカを配合。スノー、ウエット、ドライの性能を高次元でバランスさせているという。サイドウオールを見ると、国際基準で定められたシビアスノータイヤ条件に適合した証しである「スノーフレークマーク」の打刻が確認できる。つまり、「冬用タイヤ規制」時でも走行可能なタイヤとして認められているということである。冬用タイヤ規制よりも厳しい「チェーン規制」時は、もちろんチェーン装着が必要になるが、これはスタッドレスタイヤであっても同様である。
横浜ゴムの社内開発チームによる評価では、スタッドレスタイヤ「アイスガード6 iG60」のアイス制動/スノー制動/ドライ制動/ウエット制動の各項目性能値を基準として考えた場合、ブルーアース4S AW21はアイス制動が若干劣り、スノー制動がかなり近く、ドライ制動が若干上回り、ウエット制動がかなり上回るという。余談だがこれら各項目は数値化されており、社外秘扱いではあるものの誰の目にも分かりやすく性能差が理解できるようになっているそうだ。つまりザックリまとめるとブルーアース4S AW21は、スタッドレスタイヤに比べトレッドの接地面積とサイプエッジ量が少ないため氷上性能は劣るが、雪道は遜色なく走れ、ドライやウエット路面ではスタッドレスタイヤよりも性能が高い、ということである。
今回TTCHで、スタッドレスタイヤ(アイスガード6 iG60)とオールシーズンタイヤ(ブルーアース4S AW21)を装着した「トヨタ・プリウス」を用いて、実際に氷上と雪上で比較試乗を行うことができた。その印象は「氷上での制動やハンドリングはスタッドレスタイヤにはかなわないが、速度の判断を間違えず丁寧なステアリング操作を行えば、オールシーズンタイヤでも結構イケる。雪上ではさらにその差が縮まる」という前述の評価と一致するものだった。
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降雪地域ユーザーは夏用タイヤの代わりに
小松氏も「ブルーアース(4S AW21)のスノー性能は高いのですが、凍結路面での性能はアイスガード(6 iG60)よりも劣ります。その点をご理解のうえで、(ユーザーの)用途に照らし合わせ、どちらがよりマッチするかをご判断いただければと思っています。そうした購入時のアドバイスや製品の情報発信も、メーカーや販売店のプロの重要な仕事だと思います」と言う。
オールシーズンタイヤはどんなユーザーに向くかという質問に、「例えば首都圏のような非降雪地域にお住まいで、毎日凍結路面や雪上を走らない方におすすめしたいです。オールシーズンタイヤは、(降雪時の)保険の要素も持った製品ともいえます。そういった意味で言えば、降雪圏のユーザーなら夏用タイヤの代わりに装着されるのもいいと思います。スタッドレスタイヤ装着前の秋や、スタッドレスタイヤから夏用タイヤに交換した後の春先といった季節外れの降雪にも慌てないですみますから」と答えてくれた。非降雪地域のユーザーならば年間を通してこれ1本で、降雪地域のユーザーは夏用タイヤの代わりにというチョイスは、なるほどと納得だ。
かつて私もオールシーズンタイヤ(他社ブランド)を足かけ3年にわたり使用したことがある。現在は愛車を乗り換えたので、新車装着時のランフラットタイヤをそのまま使用しているが、そんないちユーザーとして気になるのは、オールシーズンタイヤの主にドライ路面での燃費とノイズの2点。TTCHでのテストにドライ路面の設定はなかったので、こちらはぜひ別途夏場にブルーアース4S AW21の走りを確認したいと思っている。そしてもうひとつ、特にドイツ車オーナーはランフラットタイヤの設定の有無も気になるはずだが、残念ながらブルーアース4S AW21にランフラットのラインナップはない。
「どうせ(ランフラットタイヤは)乗り心地も悪いんだから、ホイールごと替えれば?」と言われるが、当然スペアタイヤもジャッキも積んでいない愛車である。ノーマルタイヤに替えるのはちょっとばかり勇気が必要だ。そもそも外した純正ランフラットタイヤとホイールをどうするか問題も出てくる。ということで「今どきのオールシーズンタイヤはよくできていますよ」と褒めつつも、じゃあお前はどうなんだと聞かれれば、標準装着タイヤのままというチグハグさにはそんな理由もあったりするのだ。
(文=櫻井健一/写真=花村英典、横浜ゴム/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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