ポルシェ・マカン ターボ(4WD/7AT)
マナーがクルマをつくる 2020.03.27 試乗記 2018年10月にマイナーチェンジが実施された、ポルシェの人気車種「マカン」。数あるグレードのなかでも最高の動力性能を誇る「マカン ターボ」はどのようにリファインされたのか? 最新型の走りをリポートする。注目すべきは“マナー”
ポルシェ・マカン ターボに乗って感銘を受けるのは、よく練られたスポーツモードである。複数の走行モードを備えたクルマは別に珍しくないけれど、ていねいにチューンされたノーマルモードと比較すると、スポーツモードは「動力系その他をわかりやすく過激にしました!」というレベルにとどまっている例が少なくない。クルマの購入当初は物珍しくて何度か試してみるが、多くの場合、日常に埋もれて忘れられてしまう。なにかというと峠や山道にステアリングを向けてしまう“走り好き”のオーナー以外は、「前回、走行モードを変えたのはいつだったかなァ」という人も多いのでは。
ところがマカン ターボのそれは、むしろ常用にしたい自然な高性能と使いやすいマナーが印象的。デフォルトのノーマルモードに不満があるわけではないし、そのままでも十二分に速いけれど、でも、そこは“ポルシェ”と“ターボ”の組み合わせである。マカン ターボをハイパフォーマンスSUVと捉えると、つい迫力ある21インチホイール(オプション)に見合った、“スポーツ”を前面に押し出した走りを期待してしまうのだ。ポルシェの開発陣はそんなドライバーの心理を十分にくみ取って、「最上級マカン」と「最速マカン」を見事に両立させている。
すっかり高級SUVメーカーとなったポルシェ……というフレーズを聞いて「カチン!」とくるか、「何をいまさら!?」とけげんに思うかでクルマ好きの世代が分かれるかもしれない。ポルシェファンのジェネレーションギャップはともかく、いまや全世界で販売されるポルシェ車の3分の2強はSUV、つまり「カイエン」とマカンである。前者は2017年にフルモデルチェンジ、後者は昨2018年にマイナーチェンジを受け、新型コロナウイルスがまん延する前の世界で順調に売り上げを伸ばしていた。
スペックも価格もトップ・オブ・マカン
“一番売れているポルシェ”であるマカンは、2リッター直4ターボ(最高出力252PS)を積むベーシックな「マカン」、3リッターV6ターボ(同354PS)の「マカンS」、6気筒をショートストローク化した2.9リッターV6ターボ(同380PS)搭載の「マカンGTS」、そしてトップモデルの「マカン ターボ」で構成される。マカン ターボの2.9リッターターボはGTSと同じ84.5×86.0mmのボア×ストロークを持つが、もちろんチューン度合いは引き上げられ、60PSアップの最高出力440PS/5700-6600rpmと、30N・m太い最大トルク550N・mをわずか1800rpmから発生する。
組み合わされるトランスミッションはPDKことデュアルクラッチ式の7段AT。オプションの「スポーツクロノパッケージ」装着車なら、静止状態から100km/hに達するまで4.3秒。4.9秒のGTSと、しっかり差をつけている。最高速度も261km/hから270km/hにアップ。価格は、GTSの1038万8889円に対し1219万1667円と、こちらもグレードの差を見せつける。
試乗車はスポーツクロノパッケージ装着車だったので、ステアリングホイールの右下に設けられたダイヤル(モードスイッチ)を回すことで「ノーマル」「スポーツ」「スポーツプラス」「インディビジュアル」と簡単に走行モードを切り替えることができる。ポルシェの走行プログラムは、エンジン、ギアボックス、シャシーをはじめ、エキゾーストシステム、ローンチコントロール、さらには排気音まで、変更項目が多岐にわたる。
楽しみ方はさまざま
前述の通りノーマルでも十二分な動力性能を持つが、スポーツモードを選択することで、動力系がよりアグレッシブな性格になり俊敏性が増すことに加え、例えばサウンドといった演出面でもドライバーを盛り上げてくれる。
レスポンシブな6気筒、シャープなハンドリング、スポーティーに締まった足まわり。マカン ターボは、まさに少しばかり視点の高いスポーツカーである。「やっぱりスポーツカーは車高が低くなくっちゃね」と思っているアンチSUV派の人にこそ体験していただきたいのが、マカン ターボのスポーツモードだ。なんだか販売営業員の口上のようですが。
今回のようなアダプティブエアサスペンション(オプション)装着車の場合、アシの硬軟のほか車高も変えられる。個人的にお気に入りなのは、「ローレベルボタン」を押して、車高を下げて乗るスポーツモードだ。ダンピングの利いたサスペンションが、路面に応じて上下動するボディーをやや強制的に押さえ込む感じがちょっぴりチューンドカーっぽくて、昭和なワタシにはたまりません。
このように「走り」を統合的に制御する、いわばセットメニューである走行モードに個別の嗜好(しこう)を反映できるのが、ポルシェの懐の深さである。さらに例を挙げると、ノーマルモードでスポーツエキゾーストシステムをオンにするだけで、勇ましい排気音と車内に届くエンジン音が大きくなって、普通に走っているだけですっかりスポーツ気分に浸れる。はたまた、最もスパルタンなスポーツプラスモードから足まわりだけをスポーツに戻して、必ずしも舗装が平滑でない一般道で路面の追従性を確保しつつ、ブリッピングも鮮やかな、見事なシフトダウンやかみつかんばかりのエンジンレスポンスを堪能することも可能だ。
言うまでもなくスポーツクロノパッケージはポルシェの持つ潜在能力を引き出しやすくする、「超高性能の一端にだけでも触れてもらおう」という装備だが、機能ごとの完成度が高いからこそ、こうした「遊び」ができるといえるかもしれない。
熟成の進んだ機能
モードスイッチ中心のボタンを押すことで呼び出される「スポーツレスポンス」モードも、その一例。どのドライブモードで走行中でも、このボタンを押すことで20秒間だけエンジンとギアボックスのレスポンスを一段と鋭敏にできる。
いわば時限タイプのブーストボタンで、素早い追い越しが求められる場合に有効……と実用性をこじつけることはできるが、まあ、ローンチコントロールに通じる「お楽しみ機能」ですね。単なるギミックと片付けて、質実剛健こそよしとする考え方もあるけれど、安全・環境性能の向上が「待ったなし」になっている昨今だからこそ、少しでも「走り」を楽しむ工夫は必要なんじゃないでしょうか。
どれも「マカン ターボで初搭載!」というわけではないけれど、熟成が進んで余裕を持って楽しめる機能になっている。スポーツクロノパッケージ(モードスイッチ含む)のオプション価格は17万2223円。付けない手はない(キッパリ)。
……とまあ、ポルシェのターボモデルに乗って、狂気とか破天荒といった単語におびえることなくエンジョイしているのが少しばかり寂しい気がしないでもありませんが、それもいわゆるジェネレーションギャップというやつなのでしょう。
(文=青木禎之/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ポルシェ・マカン ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4684×1926×1624mm
ホイールベース:2807mm
車重:1945kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:440PS(324kW)/5700-6600rpm
最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)/1800-5600rpm
タイヤ:(前)265/40R21 101Y/(後)295/35R21 103Y(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:9.8リッター/100km(約10.2km/リッター、欧州複合モード)
価格:1219万1667円/テスト車=2001万4317円
オプション装備:ボディーカラー<クレヨン>(39万4167円)/ナチュラルレザーインテリア<エスプレッソ>(47万5649円)/モデル名<ハイグロスブラック>(3万9723円)/フロアマット(2万0371円)/アダプティブエアサスペンション<レベルコントロール+ライドコントロール+PASM>(24万6483円)/ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ<PCCB>(84万2315円)/パワーステアリングプラス(4万3797円)/ポルシェ・トルクベクタリング・プラス(24万8519円)/カーボンマルチファンクション・ステアリングホイール<ヒーター付き>(11万8149円)/アルミルック燃料タンクキャップ(2万2408円)/パノラマルーフシステム(26万7871円)/ハイグロス・ブラックルーフレール(5万8056円)/21インチ・スポーツクラシックホイール<ハイグロスブラック>(34万9352円)/シートヒーター<フロントおよびリア>(13万9537円)/ポルシェ・エントリー&ドライブシステム(11万7130円)/自動防眩ミラー(6万0093円)/カーボンインテリアパッケージ(14万1574円)/ポルシェ・クレスト・エンボス・ヘッドレスト(7万5371円)/サイドブレード<カーボン>(10万1852円)/カラーメーターパネル<ホワイト>(8万1483円)/LEDヘッドライト ブラック<PDLS Plus含む>(14万5649円)/スポーツクロノパッケージ<モードスイッチ含む>(18万9445円)/ティンテッドLEDテールライト<ライトストリップ含む>(12万7315円)/スモーカーパッケージ(9167円)/コンフォートライティングパッケージ(5万1945円)/ブルメスター・ハイエンド・サラウンドサウンドシステム(59万4815円)/アルカンターラ仕上げルーフハンドル(10万0834円)/インテリアトリム・コントラストカラーステッチ(41万7593円)/ダッシュボード・トリムパッケージ・レザー(16万0927円)/ぺブルグレー・シートベルト(7万3334円)/アダプティブクルーズコントロール<トラフィックジャムアシスト付き>(11万7130円)/エクステリアパッケージ<ハイグロスブラック仕上げ>(3万4630円)/スポーツクロノストップウオッチ<コンパスダイヤル ホワイト>(5万8056円)/プライバシーガラス(7万8427円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2820km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:309.3km
使用燃料:37.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.2km/リッター(満タン法)/8.3km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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