メルセデス・ベンツGLC F-CELL(RWD)
道半ばなれど 2020.07.24 試乗記 メルセデス・ベンツの燃料電池自動車(FCV)「GLC F-CELL」が、いよいよ日本の道路を走り始めた。カタログに記された満タンからの航続可能距離は約377km。その実力を試すとともに、未来の生活では当たり前になるかもしれない(?)、水素補給も体感してみた。充電もできるFCV
本当なら今ごろはこのクルマも東京オリンピックを祝う何かのパレードの先導車を務めていたかもしれない。残念ながら延期された東京オリンピックは、自動運転や次世代エネルギー技術など新しいモビリティーの形を日本から世界に向けてアピールする場にもなる予定で、そのための準備にまい進してきた方々はさぞかし力を落としているのではないだろうか。
GLC F-CELLは2019年の東京モーターショーでお披露目されたメルセデス・ベンツの燃料電池車である。メルセデスはこれまでも「Bクラス」ベースのFCVをカリフォルニアでリース販売したことがあるが、日本に導入するのは今回が初めて。しかも外部充電可能なリチウムイオンバッテリーも搭載した世界初の“ハイブリッド型”FCVである。実は日本は現時点で全国に100カ所以上(移動式含む)の水素ステーションを擁する“先進国”であり、このGLC F-CELLも欧州以外で販売されるのは日本だけ。とはいえ絶対的にはまだまだ少ないから、短距離ならバッテリー電力だけで移動できるようにすれば便利だ、という狙いだろう。ただし、販売とはいっても、購入もリースもできる「トヨタ・ミライ」とは違って、GLC F-CELLは4年間のクローズエンドリースであり、リース期間終了後は返却しなければならないという。2020年6月には、これまで自治体や企業向けリースだけだったホンダの「クラリティ フューエルセル」も個人向けリースを始めると発表されたが、まあ、高圧水素タンクの使用期限を確認してからでないと燃料補給してくれないなど、細かな制約というか決まり事があるために簡単には踏み切れないのが正直なところだろう。
本当は3分、実際は……
GLC F-CELLの燃料電池による後続可能距離は約336km(WLTCモード)、リチウムイオン電池の容量は13.5kWhでバッテリー電力だけで約41km走行可能とされ、合計した航続距離は約377kmと発表されている。都内から箱根往復ぐらいは大丈夫かと思っていたが、先行して箱根に向かっていたGLC F-CELL組から緊急連絡が入った。満タンで都内を出発したのにターンパイクで箱根に登ろうという時点で(神奈川県小田原市。100kmも走っていない)残り航続距離が120km程度に減ってしまったのだという。取りあえず御殿場ICのすぐそばに最近開設されたイワタニグループの水素ステーションを待ち合わせ場所に変更、まずはリフューエルすることになった。
実は最初からこの施設を当てにしていたのだが、本来ならばものの数分で給油、いや水素ガス充填(じゅうてん)完了(フルで約4.4kg)となるはずなのに、なかなか入っていかない。30分急速充電しても満タンにはならない電気自動車に対して、充填時間が3~4分とガソリン車並みに短いことがFCVの大きな利点のはずなのだが、やはり現場では充填機との相性というか、安全性を確保するデータのやり取りでまだ不都合が生じる場合もあるらしく、結局30分ほどかかって満タンとなった。こういう場合にエラーが出てしまうのは、急速充電器でも時々耳にすることだが、やはり事前調査なしで出かけるのは避けるべきだろう。ちなみに都内・目黒にある水素ステーションではまったく問題なく、3分ほどで充填できたという。
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極めて滑らかだが重い
名前と見た目通り、GLC F-CELLはSUVの「GLC」をベースにしている。同じくGLCベースの電気自動車「EQC」が前後アクスルに各1基のモーターを備える4WD=4MATICであるのに対し、F-CELLは200PS/5400rpmと350N・m/4080rpmを生み出すモーター1基による後輪駆動だ。またセンタートンネル部とリアシート下に備わる水素タンク(のカバー)が意外に床下に張り出しているので、本格的なラフロードは避けたほうが無難だろう。
電動モーター駆動だから当たり前だが、動き出しから徹頭徹尾デッドスムーズに、ごくかすかなモーター音とともに滑るように走り、右足の動きに間髪入れずに加速する。乗り心地もスムーズと言えるが、やはり2tを軽く超える車重(2150kg。通常のGLCは4MATICでも1800kg台)の影響が大である。2.5tもあるフルEVのEQCほどではないが、圧縮水素タンクがフロア下に位置するために、ボディー後端の荷室床下にリチウムイオン電池が配置されていることもあり、どうしても腰高なリアヘビー感がつきまとい、大きな不整であおられると上下動が残る。また、うねりのあるコーナーなどでは予想以上にボディーが斜めにあおられてびっくりすることもあった。普通に走る分には問題ないが、悪路や山道などではこの重さを意識して走る必要があるだろう。
使い方次第
究極のクリーンエネルギー車としての燃料電池車は一時ほどの勢いはないが、着実に進化していることは間違いない。テスラのボスが痛烈に批判したように(それにしても自分だけが正しいという発言はいかがなものか)、確かに水素ガスの製造や圧縮時にエネルギーを要するなどの課題があることは事実だが、それはEVでも内燃エンジン車でも同じこと。耳に優しい、いいことずくめの宣伝文句をそのまま受け取ってはいけないということは、もう皆さんも承知のはずである。どのようなクルマにも長所と短所、メリットとデメリットは存在する。自分の用途と照らし合わせて判断することが大事である。
FCVの弱点はインフラが整っていないことと高価なことだろうが、このクルマの場合は短距離ならバッテリーだけで走行可能なため、ライフスタイルによっては十分実用に足ると思われる。ただし、上述したように、1050万円の正札を下げるGLC F-CELLは4年間のリース販売であり、しかも再リースはできず、その後車両は返却しなければならない。支払い例として明らかにされている月額9万5000円は意外に安いが、これはミライなどと同じくおよそ200万円のCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金)、それに自治体からの補助金(東京都の場合はざっと100万円)を勘定に入れての計算だろう。これだけの補助金は、裏を返せば普及に向けてのハードルが高いことを意味する。今のうちにその恩恵にあずかる、という判断は大いにありだと思う。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLC F-CELL
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1890×1655mm
ホイールベース:2875mm
車重:2150kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:200PS(160kW)/5400rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/4080rpm
タイヤ:(前)235/50R20 100W/(後)235/50R20 100W(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
価格:1050万円/テスト車=1050万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:625km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:303km
使用燃料:4.8kg(水素)
参考燃費:63.1km/kg(満タン法)/71.0km/kg(車載燃費計計測値)
参考電費:27.7km/kWh(車載電費計計測値)

高平 高輝
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