これもひとつのガラパゴス!? 日本車ばかりがCVTを採用する不思議
2020.07.29 デイリーコラムモード燃費を稼げるCVT
「ラバーバンドフィールなどと評され、ジャーナリストをはじめクルマ好きの方々には敬遠されることの多いCVTですが、それでも日本のメーカーの多くが採用し続けているのはなぜですか」
これが編集部から投げかけられたお題だった。その答えは至ってシンプル。“燃費がいい”からだ。
CVT(Continuously Variable Transmission)とは、ギア(歯車)がなく、ベルトとプーリーで無段階に変速するオートマチックトランスミッションのこと。ギアがないということは変速ショックがなく、またドライバーのアクセル操作にフレキシブルに反応したり、エンジンの効率のいい領域を使っての走行を可能にしたりと、燃費性能に優れている。
特にかつての10・15やJC08など、日本独自のモード燃費の数値を稼ぐためにCVTは物理的に有利であり、それが日本のメーカーが多く採用してきた最大の理由だ。
一方でエンジン回転だけが先に上がって速度がついてこないというCVT特有のラバーバンドフィーリングを伴うため、ドライバビリティーを重視する欧州などでは敬遠されがちだ。ベルトでトルクを伝達する構造ゆえ、大トルクには向いていないという基本特性もあり、CVTは小排気量車が多く採用する傾向にある。かの地ではデュアルクラッチ式AT(DCT)やトルコンATなどが主流になっており、それがCVTはガラパゴス化していると言われるゆえんだろう。
トヨタ86のCVT版がプランされていた?
では、CVTは進化の歩みを止めてしまっているのかといえば、もちろんそうではない。
CVTで世界トップシェアを誇るジヤトコと日産が共同開発したCVTは、副変速機を組み合わせることで変速比、いわゆるレシオカバレッジを広げ、低燃費を実現している。
トヨタとアイシン・エィ・ダブリュが共同開発したダイレクトシフトCVTは、従来のCVTにローギアを追加することで、最もラバーバンドフィールを感じやすい発進時をカバーしている。その後にCVTへと切り替わるころには、ある程度スピードが上昇しており、ありがちなベルトが滑っているようなフィーリングをなくすことができるというものだ。これは「レクサスUX」や「RAV4」「ヤリス」などに搭載されている。
またトヨタは近年、全日本ラリーに「ヴィッツ」のCVTモデルを投入してきた。CVTのメリットとして、自由な変速比を作り出せるということがある。先行開発の位置づけとして最適な変速で高回転域をキープし、最も効率的にパワーを発生する制御が行われる“スポーツCVT”を採用し、着実にノウハウを積み重ねているという。「86」や「スープラ」の開発責任者を務めた多田哲哉氏も、実は86の開発中にはスポーツカー用のCVTを搭載できないか、ぎりぎりまで検討していたことをのちに明かしている。
スポーツ用という観点で時代をさかのぼれば、1990年代のF1マシン「ウィリアムズFW15」ではCVTを搭載したマシンの開発が進められていたが、テストであまりにも速すぎたため、レギュレーションで禁止されてしまったという逸話がある。
現在は、軽自動車をはじめとする小型車の多くがCVT、高性能車・高級車では多段AT、スポーツモデルはDCTというすみ分けがひとつのトレンドだが、CVTがより高級車やスポーツモデルへと採用拡大していく可能性はまだある。ガラパゴス化は必ずしも悪ではないと思う。そしてそれも極めれば、さらなるブレークスルーだってきっと生まれるはずだ。
(文=藤野太一/写真=本田技研工業、アウディ、日産自動車、トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか? 2025.10.10 満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。
-
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選 2025.10.9 24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。
-
ハンドメイドでコツコツと 「Gクラス」はかくしてつくられる 2025.10.8 「メルセデス・ベンツGクラス」の生産を手がけるマグナ・シュタイヤーの工場を見学。Gクラスといえば、いまだに生産工程の多くが手作業なことで知られるが、それはなぜだろうか。“孤高のオフローダー”には、なにか人の手でしかなしえない特殊な技術が使われているのだろうか。
-
いでよ新型「三菱パジェロ」! 期待高まる5代目の実像に迫る 2025.10.6 NHKなどの一部報道によれば、三菱自動車は2026年12月に新型「パジェロ」を出すという。うわさがうわさでなくなりつつある今、どんなクルマになると予想できるか? 三菱、そしてパジェロに詳しい工藤貴宏が熱く語る。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。