第187回:人間いたるところ青山あり
2020.08.18 カーマニア人間国宝への道あまりのデカさに心底驚く
私は内燃機関にこだわっております。ハイブリッドまではオッケーだけど、BEV(バッテリー式電気自動車)は死ぬまで買うことはないだろう。なぜって、電気モーターには多様性がないから! 多様性がないものに趣味性があるはずない! 今のところそう考えております。
そんな内燃機関にこだわるカーマニアとして、メルセデスの新型直6ディーゼルエンジンは、現時点における内燃機関のひとつの頂点と申しましょうか。あまりにもウルトラスムーズで、もはや「ねっとり回る」とでも言うべきあの感覚。ああいうのは電気モーターじゃ死んでもムリ!
ただ私は、そんなメルセデスの新型直6に、「S400d」にチョイ乗りしただけで、じっくり乗ったことがない。
そこでメルセデス・ベンツ日本様にご相談申し上げたところ、「Sクラスの広報車はもうないのですが、同じエンジンを搭載した『GLS400d』ならございます」とのことでしたので、そちらに試乗させていただくことになりました。
GLSの実物が目の前に現れた時は、あまりのデカさに心底驚いた。まさに「なんじゃこりゃ~~~~~!」。これはゾウだ。白象だ。ゾウさんゾウさんお鼻が長いのね! でもお鼻も長いというよりデカいのね!
いったいどのくらいデカいのかとスペックを調べたら、全長×全幅×全高=5220×2030×1825mm。思ったよりデカくない……。
つまりデザインのせいで、実際よりかなりデカく感じるようだ。このボワ~ンとしたボディー全体を包む曲面と、白という膨張色が、車体をとてつもなくデカく感じさせるのであろう。
![]() |
![]() |
![]() |
これがホントにディーゼルですか!?
正直言って、こういうクルマは趣味じゃない。300%趣味じゃな~~~~い! でも今回の主目的は車体じゃなくエンジンだし、趣味じゃないクルマに乗るのも貴重な機会なので、じっくり堪能させていただかねば。
まずはGLS400d 4MATICを駆り、東久留米へ向かいます。わが「フェラーリ348GTS」の特注マフラーを製作中のキダスペシャルへGO。
ノロノロ進む一般道での直6ディーゼルは、そのウルトラスムーズな本領を発揮する機会もなく、逆にアイドリングストップによるエンジン停止/始動時の「ブルン!」という振動が気になりまする。エンジンがあまりにもスムーズであるがゆえに、小さなネガが目立ってしまうのです。
直4ディーゼルを積んでいた「S300h」は、ハイブリッドゆえに発進は主に27馬力のモーターが行い、エンジンが始動したことすら気づかなかったものですが、この2.9リッター直6ディーゼルはモーターが付いてないので、エンジン始動の振動がモロにクル! よって街中走行の印象はあまりよろしくない。
キダスペシャルに到着すると、待っていた代表の岡田氏が「なんすかこのバカデカいのは!」と驚嘆の声を上げた。やっぱデカく感じるよね……。
彼を乗せて走りだすと、「これがホントにディーゼルですか!? ディーゼルっていま、こんなことになってんスか!?」とさらに驚愕(きょうがく)。
確かにどう考えてもこのフィーリングはガソリン直6だ。いったい何をどうしたらディーゼルがこんなに静かになるんだろう。欧州製の他のディーゼルもおしなべて静かになってるけど、このディーゼルは特別スゲエ。
燃費は意外と伸びない
ゆっさゆっさと巨体を揺らして杉並に戻ったGLS400dは、続いて中古フェラーリ専門店コーナーストーンズに向かうべく、東名高速を走りました。
高速道路での直6ディーゼルは、水を得た魚のごとく本領を発揮。ああ、この直6の回転フィール。復活したメルセデスの直6ガソリンもすばらしかったけど、これはディーゼルだけにほんのちょっと爆発感が残ってて、それがツブツブオレンジジュースみたいで最高にステキ……。
ただ、燃費は意外と伸びない。一般道で7km/リッター前後なのは納得だけど、高速でも11km/リッターくらいが精いっぱい。S300hなら20km/リッターも夢じゃなかったし、S400dだってさすがにもうちょっと走るだろうに。やっぱ巨象の前面投影面積のデカさが効いているのか。
コーナーストーンズでも、代表の榎本氏はじめスタッフ全員が「デカいすね~~!」と感嘆。どこに行ってもデカイデカイを連発され、自分がお相撲さんになった気分ですが、それはそれで気持ちのいいものですね!
思えば杉並区の路地もそう苦労なく走れたし、このデカさ、そんなに不便じゃないのかも。引っ越し屋さんの2tトラック(ワイドロングタイプ)よりは小さいんだから。これが乗れなきゃ引っ越し屋さんのバイトはできません。
最終的には、直6ディーゼルの素晴らしさもさることながら、バカデカいGLSのボディーが強烈に印象に残った試乗となりました。人間いたるところ青山あり。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。